クマの太郎10才。
小さい頃に親を亡くして以来、ずっと人の 手によって育てられたツキノワグマです。
10年前、お母さんと死に別れた太郎は、 鳥獣保護員の東山省三さんの家で育て られました。



太郎が生まれた和歌山県の紀伊山地は、 以前は、ツキノワグマがたくさん住んでいました。
現在、ツキノワグマは、もっとも絶滅の恐れが ある野生動物のリストに入っています。
彼らの住む山は植林が進み、エサであるブナや 栗の実が少なくなってしまいました。
和歌山県では、一度山を下りたクマには識別票 がつけられ山に返される。しかし、二度目は 射殺してもよいとされている。



太郎のお母さんが殺されたのは、エサを求め て人里へでてきてしまったからでした。
奇跡的に銃弾をまぬがれた太郎は、東山さん の手を離れ、今、和歌山の牧場に預けられて います。



そんな太郎に東山さんは、 「あわれです。小さい時から自然を知らず おりの中で一生を暮らさないといけない。
もう野生は太郎には無理です。絶対野生に 返すことはできません。」と言います。



安心して暮らせる棲み家、そして家族を失った太郎。
獰猛に見えるツキノワグマの本当の姿は、人間に怯える ガラスのような繊細な生き物なんです。