診察室
診察日:2005年12月6日
テーマ: 『本当は怖いわき腹の痛み〜忘れ物の代償〜』
『本当は怖い下腹部の痛み〜深紅のハッキング〜』

『本当は怖いわき腹の痛み〜忘れ物の代償〜』

T・Mさん(女性)/42歳(当時) 専業主婦
2人の息子を持つT・Mさん(42歳)の家庭では、育ち盛りの子供たちのためにと、料理はいつもボリューム満点。自分もつい食べ過ぎてしまうのが彼女の悩みでしたが、ある夜、右のわき腹に痛みを覚えました。
翌日、内科を受診した彼女は胆石と診断され、胆のうを摘出する手術を勧められますが、「胆石持ちでそのままの人もいるし…」と迷った末、手術を断ることに。1年後、食生活を変えたお陰か、T・Mさんが胆石の痛みに襲われることはなくなっていましたが、そのため医師と約束した、年に1度の定期検診を怠ってしまいます。そして、あのわき腹の痛みから5年後、気になる異変が起こり始めます…。
(1)わき腹の痛み
(2)わき腹の違和感
(3)背中の張り
(4)倦怠感
(5)顔が黄色くなる
胆のう癌
<なぜ、わき腹の痛みから胆のう癌に?>
「胆のう癌」とは、その名の通り、胆のうに生じた癌のこと。胆のうは、肝臓の陰に隠れている小さな臓器。
そのため、癌が発生しても見つけることがとても難しいのです。でもなぜT・Mさんは、胆のう癌になってしまったのでしょうか?原因はあの胆石にありました。検査で胆石が発見されたT・Mさん。「胆石持ちでそのままの人もいるし…」と、手術を受けなかったにも関わらず、その後、二度と痛みに悩まされることはありませんでした。しかし、皮肉にもそれが決定的な過ちをもたらしてしまいます。あれだけ強く言われていた、年に一度の定期検診を怠ってしまったのです。実は痛みこそ感じなかったものの、T・Mさんの体内に出来た胆石は無くなったわけではなく、胆のうの粘膜を繰り返し刺激していました。そして炎症を引き起こしたあげく、ついには癌化させてしまったのです。胆石が見つかってから5年。あの「わき腹の違和感」や「背中の張り」こそ、他でもない胆のう癌の症状でした。ところが彼女は、このサインを見過ごしてしまいました。この時、すぐに胆のうの検査を受けていれば、最悪の事態は避けられたかもしれません。そして、そのわずか3ヵ月後、重い「倦怠感」と顔が黄色くなる「黄疸」が、T・Mさんを襲います。これは胆のう癌が急成長して胆管を塞ぎ、胆汁を詰まらせたもの。そしてこの時すでに癌細胞は、肝臓など他の臓器にも転移していました。この進行の速さこそが、胆のう癌の最大の特徴。事実、あのわき腹の違和感からたった1年足らずで、T・Mさんは永遠の眠りにつきました。現在、成人の10人から20人に一人は、胆石を持っていると言われています。そしてT・Mさんのように、胆石から胆のう癌になるケースは、全体のおよそ5パーセント。胆石の人すべてが癌になるわけではありませんが、胆石が見つかった場合は、年に一度の定期検診を欠かしてはいけないのです。
「胆のう癌にならないためには?」
(1)高コレステロールや高脂肪の食品を控え、規則的な食生活を守ることで、まずは胆石が 出来ないように
することが大切です。
(2)もし胆石が見つかった時は、手術を受けるか、エコー検査などの定期検診をおすすめします。
『下腹部の痛み〜深紅のハッキング〜』
O・Rさん(女性)/27歳(当時) 社長秘書
IT企業の社長秘書を務めるO・Rさん(27歳)。多忙を極めるワンマン社長のもと、マスコミへの対応を一手に引き受け、気の休まる暇もない日々を送っていました。ところが、 ある日、いつものように殺到する取材陣を振り切った直後、突然、下腹部に差し込むような痛みを感じました。トイレに行ってみると腹痛は嘘のように治まったため、O・Rさんは、単なる下痢だったのかと一安心しますが、その後も気になる異変が続きました…。
(1)下腹部の痛み
(2)下腹部の痛みと下痢がひんぱんに起きる
(3)腹痛と下痢が悪化する
(4)腹痛が上に広がる
(5)血便
(6)猛烈な腹痛
潰瘍性大腸炎(かいようせい だいちょうえん)
<なぜ、下腹部の痛みから潰瘍性大腸炎に?>
潰瘍性大腸炎とは、大腸に潰瘍や炎症が生じる慢性疾患のこと。最悪の場合、死にいたる恐ろしい病です。年間の患者数は、およそ8万人。20代から30代の若者に多く、近年急増の一途をたどっています。でもなぜO・Rさんは、潰瘍性大腸炎になってしまったのでしょうか。残念ながら、この病気が発生するメカニズムは、まだはっきりわかっていませんが、O・Rさんの場合、発病のきっかけとなったのは、仕事上の強いストレスだったと考えられます。ストレスが引き金となって免疫細胞に異常が生じると、自分自身の粘膜を異物と勘違いして攻撃を始めることがあります。潰瘍性大腸炎は、こうした「免疫異常」が腸内細菌と関係して腸の中で発症したと思われるのです。そして起きたのが、あの「下腹部の痛み」と「下痢」。これはどちらも、大腸の炎症が引き起こしたものでした。ところが、O・Rさんはそれを同じストレスが原因の「過敏性腸症候群(かびんせい ちょうしょうこうぐん)」と勘違いしてしまいます。もし彼女が二つの病気の特徴をきちんと把握していたら、こんな間違いは起きなかったことでしょう。なぜなら過敏性腸症候群と潰瘍性大腸炎には、決定的な違いがあるからです。まず、過敏性腸症候群は、大腸そのものに異常はありません。また症状も、ストレスが多い日中に集中し、寝ているときには出ないのが一般的。これに対し、潰瘍性大腸炎は一日中、寝ている間も関係なく、腹痛や下痢に悩まされます。しかも大腸そのものに潰瘍ができるので、非常に危険なのです。しかしO・Rさんはこの違いに気づかぬまま、病気を悪化させてしまいます。やがて、下腹部の痛みは、徐々に上へと広がっていきました。これは、炎症が腸全体に拡大したため。発病から半年、症状はさらに激化します。O・Rさんを襲った「血便」は、大腸全体に広がった潰瘍から出血したものでした。そしてついに大腸の活動が完全に停止。猛烈な腹痛に耐え切れず、彼女は倒れてしまったのです。病院に運び込まれたとき、すでに大腸は壊死状態。手術ですべて摘出することとなりました。
「消化器の病を早期発見するためには?」
(1)黒いタール状の便が出ていないか、また血便が出ていないかなど、1日1回は便の状態をチェックしましょう。
(2)年に1度は便潜血検査や内視鏡検査などの定期検診をおすすめします。