境遇

インタビュー -Interview-

監督
若松節郎さん インタビュー
二大女優の演技対決。松本の美しい風景に流れるS.E.N.S.の優しい音楽。一枚一枚写真を撮るように、すべての映像に想いをこめて作りました。優しさ満載の作品を、ぜひ観ていただきたいと思います!
若松節郎
インタビュートップに戻る

―― 今回の『境遇』という作品に込めた、監督の想い、テーマを教えて下さい

最初に湊さんが書かれた草稿を読ませていただいたときに、とても優しい作品だなって思ったんです。僕は、「優しさ」というテーマが大好きなので、ぜひこの作品を撮ってみたいなと思いました。

作品のタイトルは『境遇』ですが、僕の中では今回、“人間は寂しさで繋がっている”ということをテーマにしています。主人公の陽子も晴美も親に捨てられた子どもたちですから、いくら施設で友だちができても、育ての親がいても本当は寂しい。そんな彼女たちが、初めて心を許し合える親友に出会って、リボンを結んだのが、「青空りぼん」なんですよね。

そして二人が大人になって、今回、息子を誘拐されたことがわかった瞬間、陽子にものすごい寂しさが生まれる。晴美の行動にも、陽子にいちばん近い存在は、夫の正紀でも息子でもなく私でしょ?という寂しさが込められている。正紀の母・弘子にも息子を嫁に取られたという寂しい思いがあるし、後藤という男も、自分が一生懸命になって正紀を当選させても、自分の手柄にはならないという寂しさがある。みんなが寂しさの中に何かを求めている。そういう寂しさで繋がっているドラマなんじゃないかなと思います。

―― 松雪さん、りょうさんの印象はいかがですか?

松雪さんとは映画でもドラマでもご一緒していますが、りょうさんとは今回が初めてです。松雪さんは子守唄の様な心地いいイメージ。りょうさんは竹を割ったような男っぽいイメージかな。今回は、そんなお二人のバランスがいいですよね。

なにより、お二人のガチンコ対決はすごいですよ! 二大女優というのはこういうことなんだなと思うくらいの演技合戦ですから。お二人は初共演とのことですが、お互いやりやすそうでしたね。松雪さん演じる陽子が、りょうさん演じる晴美の涙を見たときに、そこでは泣くまいと思っていたのに思わず泣いてしまうことがあったんです。相手の悲しみを悲しみとして受け取る、感情を受け取れるというかね。そこに計算できない芝居が見え隠れするんですよ。それはやっぱりライブだし、そういう間柄だということですよね。りょうさんも、晴美という複雑な役どころを、苦労もなさっているんでしょうけど、楽しみながら演じている感じがしますね。お二人がここまで自分の役を楽しんでいるというのは、この作品を企画したプロデューサーの手腕だと思います。

―― 今回の撮影はオールロケですが、そのロケ地を松本に選んだ理由は?

プロデューサーたちとシナリオを作っているときに、陽子と晴美、そして「青空りぼん」にかけて、青い空と青い海のある場所、空と海の境界線がない場所で撮影したいと思ったんです。ところが、日本の海だとなかなかそうはいかない。沖縄に行くか、僕の大好きなサイパンやグアム、もしくはハワイまで行かないとそういう絵は撮れないので、例えば湖のある場所にするのはどうでしょう?という提案をしたところ、上高地という案が出て、だったら松本がいいのでは?ということになりました。松本は川もあるし、県会議員の家も旧家が使える。松本にはいろんな顔があるんですね。雲ひとつとっても、毎日違うんですから。吹き抜ける風も東京とは全然違うし、水がきれいで冷たい。湧水めぐりというのがあるくらい、あちこちに水が湧いているんですよ。それから、松本の人々との触れ合いがすごく心地いい。役者さんたちも東京を離れ、新鮮な空気を感じて、開放的な気分で撮影に臨めたんじゃないかなと思います。

―― 今回の撮影スタッフには、映画の方もいると伺いましたが

今回は、僕としては初の試みで、映画スタッフとテレビスタッフの混合チームで撮影しています。役者さんからは、「テレビだと思っていたのに、これは映画なの?」と聞かれたりもしましたが、映像的にも映画的といいますか、機材なんかもいろいろ使って、通常のテレビドラマとは少し違う手法で撮りました。最近のテレビドラマは、カット割りも多いし、ひとつひとつの説明が多い気がするんです。それよりも、ひとつの絵の中でいろんなことを感じ取ってもらいたい。今回はあまり説明するドラマではなくて、観た方それぞれにいろんなことを考えて、感じてもらうドラマを作りたいなと思ったんです。なかでも、わがままを言って、「パンサー」というクレーンみたいな特殊な動きをする撮影機具を使わせてもらったのがよかったですね。それによって、長回しをしつつ、カメラにいろんな動きができて、それが役者さんたちの心情をうまく撮ることができたんじゃないかと思います。いまの世の中で、テレビでここまでやらせてもらっていいのかなと思いながら、撮影していました。本当に贅沢な現場だと思います。

それと、テーマは深いですが、なるべく暗い重いドラマにならないようにと、音楽はS.E.N.S.(センス)にお願いしました。S.E.N.S.には、陽子と晴美が児童養護施設出身なので、教会音楽のような爽やかで優しい音楽、そして、山並みや川や湖が醸し出す、自然の音楽、癒し系の音楽を作って欲しいとお願いしました。

―― 特に印象に残っている撮影や、シーンはありますか?

やっぱり上高地はよかったですね。陽子と晴美がボートに乗るのですが、その絵がものすごくいいんですよ。これこそが「青空りぼん」そのものだなって思いましたね。その絵を見ただけで、二人がリボンを結んだ経緯がパーっとプレイバックするというかね。そこですごくいいシーンを撮ることができて、とても優しいドラマになったと思います。大きな震災があって、いまは人を優しく思うということがとても大切な時ですよね。やっぱり人間は、優しさで繋がっている。そして、寂しさで繋がっているんだと思います。

―― 放送を楽しみにしている視聴者のみなさんへのメッセージをお願いします

湊かなえさんの、これまでの作品とはまた趣向の違う、情感のあるヒューマンミステリーに期待してください。そして、二大女優の演技対決。松本の美しい風景に流れるS.E.N.S.の優しい音楽。一枚一枚写真を撮るように、すべての映像に想いをこめて作りましたので、みなさんにも伝わるといいなと思います。それと、寂しさについて、みんなで考えてみませんか?寂しさは涙にも変わるけど、涙と共に喜びにも変わる。人間はみんな、本当は一人で孤独だけれども、誰かが必ず優しさをくれる。そういう優しさが満載の作品になっていると思います。

監督プロフィール
若松 節朗(わかまつ・せつろう)
1949年、秋田県生まれ。『振り返れば奴がいる』『やまとなでしこ』『弟』等、コメディから社会派ドラマまで、数多くの人気ドラマを手掛ける。近年は映画作品の監督としても活躍し、映画『沈まぬ太陽』(2009年公開)は、第33回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。
最新作『夜明けの街で』が10月8日に公開。そのほかの代表作に、テレビドラマ『熟年離婚』『宿命』、映画『ホワイトアウト』(2000年)『子宮の記憶 ここにあなたがいる』(2007年)などがある。

インタビュートップに戻る