その1 ”必殺”誕生秘話
必殺を始めたのは、やけくそやね(笑)。『必殺仕掛人』の前番組が『木枯らし紋次郎』に食われて、視聴率がプライムタイムで3%ですよ。会社にいてられへん。みんなが俺を睨んでるような気がするんやね。で、次は時代劇をやりますよという話だけもらってた。でも、当時は『水戸黄門』であり、『遠山の金さん』であり、ほとんどはパターン時代劇なんですよ。それを壊したいというか、はっきり言ってパターンばっかりやってもオモロないでしょ。僕はやっぱり時代劇が好きやったから、ユニークな時代劇を作りたかった。

で、本を読み散らしてて、そこでひっかかったんが池波正太郎の『仕掛人・藤枝梅安』。それにね、上司たちが大変僕を信頼してくれたんですよ。『好きなようにやってみい』と。これがラッキーやったね。それで思い切ってやったら、バーンと当たった。これは嬉しかったよ。土曜日仕事終わりに街で飲んでたら、あるサラリーマンのグループがおってね。飲みに行こうやと言うてる。そしたら、ひとりが『俺、今日帰るねん』。『なんで帰るねん?』って聞かれて、『お前見てるか?必殺ちゅうの。物凄いオモロイで』と。あの時の嬉しさはないよ。これは手ごたえあるなと思ったね。