その3 中村主水登場
実は『仕掛人』が終ったときに、休みたかったんですよ。内外からのプレッシャーが強かった中、今までにない時代劇を作ろうとしたとこがあるんでね。そういう苦しさみたいなもんがあって、しんどかった。しかし、次も『お前がやれ』。そこで、上司の命令には逆らえないサラリーマンって結局つまらんもんやなという話になって、では次の必殺にはサラリーマンを出そうと。僕の辛さみたいなね。で、中村主水のキャラクターは藤田まことなんかええやないかと

最初から主水は彼やったんです。僕はラジオ制作時代は歌謡曲を担当してて、藤田まことにも出てもうてたんですね。彼は影があるんですよ。舞台の袖に座ってる姿がね。その印象があったんで、藤田まことというのは面白い人やなと、シリアスもいけるなと。あの人は男前でもないし、ブサイクでもない。背は高からず低からず。デブではない、痩せてもない。きわめて平均的日本人でしょ。主水はエブリマンやないとアカンわけですね。通知簿でいうたらオール3。そのへんで、藤田まことは中村主水にぴったりの人やった
中村主水という名前も、とにかく平凡な名前、どこにでもある名前。冗談でジェームス・ボンドにしましょうか?と会議で言うてたんやけど、なんとなく深作(欣二監督)さんらと“モンド”という名前は平凡やね、目立たん名前やねとなって。でもね、藤田まことさんが姓名判断してもらったら、これが不思議なことに、中村主水っちゅうのはムチャクチャ悪い名前で(笑)。でも、そのオール3が裏稼業になるとピャッと変わって5が突出してくる。しかし、ヤクザもんみたいに喜び勇んで殺しに行くという感覚ではなかったね。きわめて当たり前にピョッピョッと溝を跳びながら歩くという。しかし、いわゆる『主人公名鑑』に出てくるぐらい定着してる主人公で、講談、落語、映画、小説に準拠してないのは中村主水だけですわ