子供を持つと聞かされたときの小五郎の気持ちをどう表現するのか。人の業をどんどん斬っていく仕事人である小五郎は、その遺伝子をどう残すのか、それとも残すべきじゃないのか。そういうことは、僕自身今だからこそ考えられる年齢になりました。やはり『必殺』は人の命に関わるドラマです。特に今回は、藤田さんがお亡くなりになったこともあり、石原監督が“命”をきちんと表現したいんだろう、と脚本を受け取ったときに感じました。“命”を受け継ぐ人たちもいれば、“命”を奪っていく人たちもいる。そういうことを考えさせる脚本になっていると思いました。それが『必殺』という作品における哲学なのだと思います。
これまでたくさんの先輩方が『必殺』シリーズに出演されてきました。その歴史の中で、藤田さんがお亡くなりになった今、僕らが居合わせたこのめぐりあわせを大事にして、覚悟を持って藤田さんの想いや作品を後に繋いでいかなければと思います。
また今回、石原興監督も、少し作風を変えていると感じました。具体的にいうと、動きに非常にスピード感があります。太刀回りはスピードが命だと僕は思っているので、そういったスピード感は随所に感じていただけると思います。僕らなりのアレンジも加えつつ、藤田さんが作り上げてきた『必殺』を表現できていることを願います。
撮影が終わって藤田さんが撮影所から車でお帰りになるときに、僕やスタッフが通りかかって「お疲れさまでした」と声をかけると、藤田さんが窓を開けて、ニコッとお笑いになるんです。その笑顔がやっぱり一番印象的ですね。 また、『必殺仕事人2009』の2クールが終わってクランクアップした日に、みんなで乾杯させていただいたんですけれども、そのときに、藤田さんが「松岡くん、『必殺』頼むよ」っておっしゃってくださったときには、本当に感動しました。
今回も、いろいろ(アクションを)やりました。やっぱり僕としては、監督から求められることの倍の演技を見せたいんです。それも、CGを使わずにアナログでやりたい。
屋根にポンと飛び乗るシーンでも、監督は「ジャンプしたところは使わないので、ただ一歩前に出てくれればいい」とおっしゃっていたんです。でも、僕はイントレ(撮影用の足場)を組んでもらって、そこから思いっきりジャンプしたんです。そうすると本当に飛んだみたいに見えるんですよ。 それを見たら、監督も「なんや、これじゃあ使わなあかんやないか」って苦笑いしながら喜んでくれました。そういう駆け引きがとても面白いですね。スタッフの方々と強い信頼関係があるからこそ、演技に集中できたんだと思います。
藤田さんからいただいた中で一番うれしかったのは、「殺しのシーン、よかったよ。目がすごくいいね」という言葉です。それがずっと心に残っていて、それからはほめていただきたい一心で(笑)、殺しのシーンは、特に目を意識して臨んでいました。
今回、お札参りのシーンで、ダンスとラップに挑戦しました。監督から、「ヒップホップ調の音楽をかけて踊って欲しい」と言われ…、正直少し戸惑いました。草履で踊ったのも初めてでしたし、ラップで「ありがたや」っていうフレーズを使ったのも初めてでした。自分の中では、歌うというよりは、ラップ調のセリフを言うという感覚でやりました。
あと、ヘアースタイルも、坊主頭ではなく頭の上で髪をくくって、新しい髪形にしています。藤田さんに褒めていただいた目を活かすためにメイクも少し変えていて、2009年から少し進化した匳をお見せできると思います。
藤田さんとの2人のシーンをもう二度と撮ることができないのかと思うと、なんともいえない気持ちになり ました。お芝居でご一緒させていただいている間は、藤田さんの凄みに圧倒されてしまって、ずっと心臓がドキドキしながらお芝 居をしているような状況が続いていました。でも、毎回お会いするたびに「京都の冬は寒いでしょう。温かくしてくださいね」と、い つも温かな声をちょうだいしました。その時その時の、ひとつひとつのお顔が、たくさん胸に残っています。
私は仕事人の方たちとのシーンが多いので、野 際さんや中越さんとも、スペシャル2本と2クールの連続ドラマを撮った中でも、衣裳部屋で二度ごあいさつをしたきりで、あとは まったくお会いできなかったんです。女性が少ない分、なんだか頑張らないといけないんじゃないかなと思っていたんですけれど…(笑)