診察室
診察日:2004年6月8日
テーマ:『本当は怖いしみ〜紫外線が死を招く〜』
『本当は怖い痛風〜常識にひそむ罠〜』
『本当は怖いしみ〜紫外線が死を招く〜』
S・Mさん(女性)/22歳(当時) OL(証券会社勤務)
人生で初めて南の島を訪れたS・Mさん。思いっきり日焼けして、イメージチェンジ。
ワイルドな小麦色の肌に変身するつもりだったが、やけどをしたように真っ赤に腫れ上がってしまった。
帰国から2週間後、彼女の肌は元通り白くなったが、様々な症状が現れてきた。
(1)シミができる
(2)シミがホクロのように変化する
(3)ホクロが高く盛り上がる
(4)ホクロが硬くなる
(5)ホクロが直径5ミリになる
(6)ホクロの形がいびつになる
(7)疲れやすくなる
(8)食欲の減退
メラノーマ
<なぜ、シミからメラノーマに?>
「メラノーマ」とは皮膚ガンの一種。進行が早く、死亡率も高い、そして何よりその多くが初期の段階ではシミやホクロと見分けがつかないのが特徴です。そう、S・Mさんの顔に出来たあのシミこそがメラノーマだったのです。S・Mさんの場合、きっかけは南の島で浴びた大量の紫外線にありました。しかし、一緒に行った友人も同じように紫外線を浴びたはず。どうしてS・Mさんだけがメラノーマを発病したのか?理由は二人の肌の違い。友人の肌は強い紫外線を浴びると、皮膚の中にある「メラノサイト」という細胞が大量のメラニン色素を生産。そのメラニン色素が紫外線から肌を守り、同時に肌の色を小麦色に変えました。ところがS・Mさんのような色白の人は紫外線を浴びてもメラノサイトの働きが弱く、あまりメラニン色素を生産することができません。その結果、肌は黒くならず、真っ赤になってしまいました。そして、強い紫外線が直接、皮膚の中のメラノサイトを刺激。その遺伝子を傷つけた結果、メラノーマの細胞を生み出してしまったのだ。その後の1ヵ月でメラノーマは急激に成長。同時に高く盛り上がってきました。これはメラノーマの細胞が増殖し、皮膚を押し上げるために起きる現象。そして彼女はメラノーマを触るという最もしてはいけないことをしてしまいました。実はメラノーマには刺激を受けると増殖を早めるという性質があるのです。急成長したS・Mさんのメラノーマは、ついに直径5ミリに到達。形もいびつになっていきました。美容外科で切除手術を受けたS・Mさんだが、その時、メラノーマのがん細胞はすでに体内に広がり、肝臓に転移していたのです。メラノーマの患者数は年間およそ1500人。しかも内臓に転移した場合、実に90%の患者が5年以内に亡くなっています。たかがシミ、たかがホクロと侮るのは禁物なのです。
『本当は怖い痛風〜常識にひそむ罠〜』
K・Aさん(男性)/39歳(当時) 会社員(大手広告代理店勤務)
大のビール好きで、この20年、一日も欠かさず飲み続けていたK・Aさん。
ある日突然、猛烈な足の痛みに襲われ、病院に駆け込んだところ「痛風」と診断され、医者からビールをとめられました。
当初は指示通り、禁酒していたK・Aさんでしたが、一週間後には足の痛みも治まり一安心。その夜、上司の強引な勧めに思わず一杯口にしてしまったのをきっかけに、ビールを浴びるように飲む生活に戻ってしまいました。「まあ、痛風で死ぬことなんかないだろう」、そう思っていたK・Aさん。しかし、ほどなく様々な症状が現れてきた。
(1)痛風
(2)ひざのしびれ
(3)手に力が入らない
(4)ろれつが回らない
脳梗塞
<なぜ、痛風から脳梗塞に?>
「脳梗塞」とは脳の血管に血の塊が詰まる病気。その原因は高血糖、高コレステロール、高血圧などにあるとされています。しかし、K・Aさんは、血糖値やコレステロール値は正常の範囲内だったのです。一体なぜ脳梗塞になってしまったのか?謎を解くカギは、あの「痛風」にあったのです。痛風とは「高尿酸血症」、つまり血液中に含まれる尿酸の量が非常に多くなっている状態のこと。K・Aさんは痛風の痛みが治まったことで、回復に向かっていると思い込んでいましたが、実は尿酸値が高い状態は痛みが治まった後もずっと続いていたのです。そうとも知らず、以前にも増して大量のビールを飲み続けたために、血液中の尿酸の量が急激に増加していきました。
実はこの尿酸値の高さと脳梗塞は密接に関連しているという事が最新の研究によって明らかになったのです。尿酸値が高い人の場合、血管の動脈硬化が進むと同時に、血小板が集まりやすくなり、赤血球の数も増えていきます。その結果、大量の血小板と赤血球がくっつき合い、血液がドロドロした状態となり、血栓をつくり出してしまう。その血栓がK・Aさんの脳の血管を詰まらせたと考えられるのです。「ひざのしびれ」は脳の一部の血流が途絶え、足の感覚に異常が生じたもの。その後の異変も、脳の様々な場所で血栓が詰まったことで起きた症状だったのです。いずれの場合も、すぐに血流が回復したため、致命的なダメージを受けずに済みましたが、最後は大きな血栓が脳の動脈を完全に塞いでしまい、命を落とすことになったのです。「痛風では死ぬことはないだろう」、間違った常識がもたらした悲劇でした。