診察室
診察日:2004年6月22日
テーマ: 『本当は怖い咳〜主婦を襲った夏の悲劇〜』
『本当は怖い足のしびれ〜接待サラリーマンに潜んだ罠〜』
『本当は怖い咳〜主婦を襲った夏の悲劇〜』
T・Eさん(女性)/43歳(当時) 専業主婦
中古ながら念願のマイホームを手に入れたT・Eさん。築27年の木造一戸建てと少々古い家だったが、夫と子供が外出した後、少しずつきれいにするのが、何よりの楽しみだった。 そんなT・Eさんは梅雨に入った頃から「乾いた咳」に悩まされるようになり、夏が来てもしつこく続いていた。さらに様々な症状が現れてきた。
(1)乾いた咳
(2)息切れ
(3)里帰りすると咳が止まる
(4)自宅に戻ると咳が出る
(5)毎年、夏になると咳が出る
(6)激しい咳
(7)高熱
(8)マジックテープをはがすような呼吸音がする
(9)息もできない程の激しい咳
夏型過敏性肺炎
<なぜ、咳から夏型過敏性肺炎に?>
「夏型過敏性肺炎」とは、空気中のトリコスポロンという物質を吸い込むことによって起きるアレルギー性の肺炎です。トリコスポロンとは家の中の高温で湿気の多い場所や腐った木の部分などに生息するカビの一種。台所のシンクと壁の隙間や、脱衣所とお風呂の桟のすき間など、丁寧に掃除をしても普段は見落としがちな場所に生息しています。古い木造住宅で、日当たりも風通しも悪いT・Eさんの家は、このカビが生息するには絶好の条件。T・Eさんは引っ越してから無意識に大量のトリコスポロンを吸い続けました。その肺が起こしたアレルギー反応が咳や息切れだったのです。では、T・Eさんの咳が里帰りすると止まったのは何故でしょうか?それは、自宅を離れることで、トリコスポロンを吸わずにすんだためでした。また、トリコスポロンは夏にしか胞子を飛ばさないため、秋になると咳が止まるのも特徴です。ところで、トリコスポロンは10年にも及ぶ長いサイクルで人体を冒すため、早期の段階ではレントゲンに異常は写りません。そのため専門医でない限り、夏風邪や喘息ではないかと診断してしまうことが多いのです。しかし、その間にも肺の炎症は慢性的に進行。末期には肺が伸び縮みできなくなり、ついには潰れてしまうのです。T・Eさんが呼吸した時に聞こえたマジックテープをはがすような音。あれは酸素を取り込むために、縮んで潰れてしまった肺胞を無理やり膨らませている音だったのです。
実はこの夏型過敏性肺炎、女性患者は男性の2倍以上。そのほとんどが1日の大半を家の中で過ごす専業主婦なのです。T・Eさんの家でも、夫や子供がトリコスポロンに冒されることはありませんでした。何故なら、家にいる時間が短く、T・Eさんよりトリコスポロンを吸う量が少なかったためでした。夏型過敏性肺炎、それはまさに我が家を守る主婦たちを襲う病なのです。
『本当は怖い足のしびれ
         〜接待サラリーマンに潜んだ罠〜』
I・Fさん(男性)/55歳(当時) 会社員(銀行員・部長職)
日曜日の接待ゴルフを初め、週3、4日は得意先を囲んで飲食、飲酒。そんな日々を何十年と送っていたI・Fさん。しかし最近、ゴルフをすると、足先にしびれを感じるようになった。 そして、ほかにも様々な気になる症状が現れてきた。 。
(1)足先のしびれ
(2)片足の先だけ妙に冷たい感じがする
(3)ふくらはぎのしびれ
(4)腰のしびれ
(5)足の異常なしびれ
(6)(靴ずれなど)傷口の急激な悪化
脳梗塞
<なぜ、足のしびれから脳梗塞に?>
「脳梗塞」とは血管に血栓が詰まり、脳に血液が行き渡らなくなることで、脳が壊死を起こしてしまう病気。しかしI・Fさんの症状はすべて腰から下、特に足先に起こっていました。それなのに一体なぜ脳梗塞に?実はそこには「閉塞性動脈硬化症」という病が隠されていました。閉塞性動脈硬化症とは、腹部や足の血管が動脈硬化を起こし、血液が流れにくくなる病気です。そう、I・Fさんは実は腹部で動脈硬化症を起こしていたのです。その原因は油物中心の食生活、大量の飲酒・喫煙など長年に渡る不摂生でした。I・Fさんの場合、最初の症状は足先のしびれや冷えとなって現れました。実は閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化を起こしている部分から先に血液が行かなくなってしまうため、最も遠い足先にまず症状が出るのです。そして動脈硬化の進行につれ、症状はふくらはぎや太ももへと上がっていきます。通常ならすぐに治る靴ずれが悪化したのも、その部分の血流が悪くなり、患部が壊死を起こしたためでした。しかし、この病気の最も恐ろしいところは、腹部や足の動脈硬化と並行して全身でも動脈硬化が進んでいること。I・Fさんも全身で動脈硬化を起こし、頸動脈にまで進行。ところが症状が現れるのは腹部から下のみ。そのためI・Fさんは腰痛が原因だと思い込み、整形外科を訪ねてしまいました。それこそが閉塞性動脈硬化症の恐るべき罠なのです。知らないうちに動脈硬化を起こしていた頚動脈、そこに血栓が詰まり、ついに脳に全く血液が行き渡らなくなってしまいました。もし、足の異変が出始めた時点で、動脈硬化を疑い正しい対処をしておけば、脳梗塞による死を免れることは出来たはずです。