診察室
診察日:2005年3月15日
テーマ: 『本当は怖い歯茎の出血〜トラック野郎の悲劇〜』
『本当は怖い腰痛〜狙われた美人記者〜』

『本当は怖い歯茎の出血〜トラック野郎の悲劇〜』

B・Jさん(男性)/51歳(当時) トラック運転手
トラック運転手のB・Jさんは、人生太く短く、が信条で、型にはまった生活が大の苦手。長時間の運転にタバコは欠かせず、酒も毎晩飲む毎日を続けていましたが、ある日、歯茎からの出血に気づきます。特に痛みもないため、軽い歯槽膿漏だと思って放っておきますが、やがてさらなる異変があらわれます。
(1)歯茎からの出血
(2)歯茎の腫れ
(3)歯がぐらつきシクシク痛む
(4)脈打つように痛む
(5)唇の感覚がなくなる
(6)口が開かない
歯肉癌(しにくがん)
<なぜ、歯茎の出血から歯肉癌に?>
歯肉癌とは、歯肉、つまり歯茎にできる癌のこと。現在、この歯肉癌に冒される患者は、年間2000人以上。50代以上の男性に多く、その数は年々増え、30年前と比べるとおよそ3倍と言われています。では何故、B・Jさんは歯肉癌に冒されてしまったのでしょうか?口の中にできる癌の主な原因は、タバコとアルコールと言われています。B・Jさんはタバコを1日に2箱以上、アルコールは毎日3合飲む生活を25年以上も続けていました。発ガン性物質であるタバコのタールやニコチンは、血行を悪くし、直接歯肉の粘膜を刺激します。さらにアルコールも同様に粘膜を直接刺激。この刺激が長年続くことにより、歯肉の細胞の遺伝子が突然変異し、ガン化してしまったのです。実際、B・Jさんのような生活習慣をしていると、ガンができる確率は2,5倍も増すと言われています。最初にB・Jさんに現れた、歯茎からの出血や腫れ。あれは歯茎にできた癌細胞が成長するために、新しい血管を作り出し、その血管が表面で出血。さらに癌細胞の成長に伴い、歯茎の腫れとなって現れたのです。しかし当のB・Jさんは、単なる歯槽膿漏だと思っていました。実はこれが歯肉癌の恐ろしいところ。歯肉に炎症を起こす歯槽膿漏も同じように出血し、腫れるため、勘違いしてしまうことが非常に多いのです。この時、歯槽膿漏といえどもちゃんと検査していれば、最悪の事態は免れていたかも知れません。やがて何も知らないB・Jさんの口の中で、大きく成長した癌は歯槽膿漏との違いを見せ始めます。それが唇の感覚がなくなるという症状。この時、癌細胞は、唇から歯肉に通じる神経をも冒し始め、麻痺を起こしたのです。これは決して歯槽膿漏では現れない症状です。そして最終警告。癌細胞が歯茎から口を開ける筋肉にまで進行。ついには口を開けることが出来なくなってしまったのです。幸いB・Jさんは、転移がなかったため、一命を取り留めることが出来ました。しかし、歯肉癌を取り除くために取られた措置は、下あごの半分を摘出するというもの。歯肉癌は早期発見が難しいため、あごの摘出にいたる患者が意外と多いのです。たかが歯槽膿漏と放っておいたことが引き起こした悲劇でした。
「歯肉癌にならないためには?」
(1) アルコールの飲み過ぎ、タバコの吸い過ぎなどの生活習慣を改める
(2)歯を磨くたびの出血や、止まらない出血
があれば、一度病院で検診されることをお勧めします。
『本当は怖い腰痛〜狙われた美人記者〜』
O・Tさん(女性)/ 27歳(当時) 新聞記者
都内の新聞社に勤め、毎日取材に明け暮れていたO・Tさん。取材で数時間も立ち続けたと思えば、社に戻ると原稿書きで座りっぱなしというハードな生活を送っていました。仕事にやりがいを感じていた彼女は、そんな生活も苦にしていませんでしたが、少し気なることが・・・腰に鉛の帯を巻いたような重だるい感じが1週間前から続いていたのです。腰痛は職業病と半ば諦め、入浴後のストレッチなどでしのいでいたO・Tさんでしたが、やがて新たな異変に襲われます。
(1)腰痛
(2)足のしびれ
(3)身長が縮む
(4)足の付け根から膿が出る
(5)足が動かない
脊椎カリエス(せきついカリエス)
<なぜ、腰痛から脊椎カリエスに?>
病院での検査により、O・Tさんの体内から意外なものが発見されました。それは、結核菌。結核菌は、満員電車やオフィスなど不特定多数の人が出入りする密室で感染し、現在でも毎年3万人以上の結核菌患者が生まれています。そして結核菌に感染した場合、大抵、肺で発病。咳や微熱などの初期症状を引き起こします。では何故、その結核菌で腰に異常が出たのでしょうか?実は、まれに結核菌が肺から脊椎に感染し、発病することがあるのです。この場合、単に結核とは呼びません。病名、脊椎カリエス。結核菌が脊椎に感染して炎症を起こし、骨を溶かしてしまう病です。O・Tさんに起こったあの腰痛。あれは結核菌によって腰の骨が炎症を起こし、骨を覆う膜が刺激されて起きたもの。そして、この結核菌による腰の痛みは、なんと通常の腰痛とよく似ているのです。通常の腰痛は、ストレッチやマッサージをすれば和らぐこともあるのですが、結核菌による腰痛の場合、何をしても痛みに変化がなく長引くことが特徴です。まさか結核菌が腰の痛みの原因とは思いもしなかったO・Tさん。そんな彼女に、結核菌は容赦なく牙をむきます。あの足のしびれは、結核菌が腰の骨を溶かし始め、溶けた骨が神経を圧迫していたため。身長が縮んだのは、さらに骨が溶け、その部分が押しつぶされ、脊椎全体が曲がったためでした。そして足の付け根から出た膿。これは骨が溶け、炎症が進んだため、大量の膿が発生。その膿が腰と足の付け根をつなぐ筋肉に沿って流れ出し、たまった膿がついには柔らかい足の付け根の組織を破って噴き出したために起きたのです。もはやこの時点で、O・Tさんの神経は膿んで膨らんだ骨に、いつ押しつぶされてもおかしくない状態。そしてついに転んだ衝撃で、膨らんだ骨が一気に神経を圧迫。O・Tさんの下半身は麻痺してしまったのです。O・Tさんの場合、押しつぶされた神経を回復させることは不可能でした。そして一生下半身不随のまま、生きて行くことを余儀なくされてしまったのです。
「脊椎カリエスにならないためには?」
(1)バランスのとれた食事、十分な睡眠、 適度な運動などで免疫力を落とさないようにすることが大切です。
(2)長引く腰痛だけでなく、微熱を伴う腰痛には要注意。
迷わず、病院で検診されることをお勧めします。