診察室
診察日:2006年3月7日
テーマ: 『本当は怖い夫の一言〜忍び寄る黒い影〜』
『本当は怖い鬼嫁〜千切れた絆〜』
『本当は怖いおしどり夫婦〜幸せに潜む悪魔〜』

『本当は怖い夫の一言〜忍び寄る黒い影〜』

N・Kさん(女性)/52歳(発症当時) 専業主婦
3人の子供もようやく独立し、夫婦2人きりの生活が始まったN・Kさん。結婚して30年、夫からありがとうと言ってもらったこともありませんでしたが、妻は夫に尽くすのが当たり前と思って生きてきました。しかしある晩、夫が発した「お前も歳とったなぁ」という一言に、なぜか突然怒りがこみ上げてきたのです。その日以来、眠れぬ夜を過ごすようになったN・Kさんは、様々な異変に襲われます。
(1)怒りが込み上げる
(2)夫のイビキが気になる
(3)夫の嫌なことを思い出す
(4)夫の全てにイライラする
(5)もの忘れ
(6)感情が抑えられない
(7)汗がふきだす
(8)精神の錯乱
更年期障害 ⇒うつ状態になり熟年離婚
<なぜ、夫の一言から更年期障害に?>
「更年期障害」とは、閉経を挟んだ前後5年の更年期に自律神経が異変をきたし、様々な症 状が現れる病です。その主な原因は、卵巣機能の低下による女性ホルモン、エストロゲンの 減少。それが自律神経を混乱させ、精神にも影響を与えてしまうのです。更年期を迎えた女 性のおよそ7割が、この病に悩まされ、うち3割は治療が必要だと言われています。N・K さんも、まさにその1人でした。では、なぜ彼女は、更年期障害を悪化させてしまったので しょうか?それは、夫の「お前も歳とったなぁ」というあの一言。この時、すでに更年期に 差しかかり、女性ホルモンが減ったことで、不安定な精神状態にあったN・Kさん。夫の一 言が、この状態を悪化させるスイッチを入れてしまったのです。その結果、夫の嫌なことを 思い出したり、突然、もの忘れをしてしまうなどの症状が起きたのです。更年期障害の多く は、頭痛や肩こり、動悸、めまいなど、身体に様々な症状が現れます。しかし、N・Kさん のように「汗」がふき出すぐらいしか目立つ症状がない場合もあり、そのため、早期発見が 遅れてしまうのです。これが、更年期障害の恐ろしさ。実は今、こうした更年期障害と、あ る社会現象との因果関係が、クローズアップされています。それが「熟年離婚」。40代・ 50代の妻が突然、夫に離婚を言い渡す熟年離婚急増の背景には、妻の更年期障害があると 言われています。この病を乗り越えるためには、夫の理解と協力が不可欠。夫婦で病を乗り 越え、逆に絆が強くなったという熟年夫婦も数多く存在するのです。
「更年期障害を悪化させないためには?」
(1)妻自身がホルモンバランスの変化に注意する。
(2)夫も妻の体調の変化に気をつけて、いたわってあげることが大切。
   もしちょっとでも身体に違和感を覚えたら、婦人科で検診されることをおすすめします。
『本当は怖い鬼嫁〜千切れた絆〜』
S・Sさん(男性)/ 45歳(発症当時) 会社員
S・Sさんは、7つ年下の妻と中学受験を控えた娘との3人暮らし。最近、妻がイライラしてよく彼に当たり散らすようになったのは、一人娘を私立中学に合格させようと必死になっていたからでした。元々のんびりした性格で、会社で出世街道からはずれてしまっていたS・Sさん。「うだつの上がらない自分に妻はいらだっているのだろう。半年後、受験が終るまでの辛抱だ。」そう、自分に言い聞かせていました。ところが、ある日、会社へと急ぐ途中、喉が軽くつまるような違和感を覚えたのを機に、様々な異変が続きました。
(1)喉のつまり
(2)動悸
(3)めまい
(4)居眠り
心房細動
<なぜ、鬼嫁から心房細動に?>
「心房細動」とは、不整脈の一種で、心臓の心房という部分の筋肉が痙攣を起こし、体に様々な障害をもたらす病。現在、患者数は全国でおよそ100万人。潜在的には200万人を超すとも言われています。その多くは心臓に疾患のある人や大量の飲酒、喫煙など、生活習慣に問題がある人。ではなぜ、そのどちらでもないS・Sさんが、心房細動に見舞われてしまったのでしょうか?最大の原因は、妻からのストレス。毎日のように妻に怒鳴られる…。そのストレスがS・Sさんの心臓に、ある現象を引き起こしたのです。それは「不整脈」。そもそも心臓は脳からの命令を受けて、電気刺激を発生、収縮を繰り返しています。しかし極度にストレスが蓄積すると、脳からの命令に異変が生じ、心拍が不規則になります。これが不整脈。S・Sさんを襲った喉が詰まったような感覚、そして動悸は、この不整脈によって起こったものでした。そして、さらなるストレスの蓄積で不整脈は慢性化。その結果、心房が1分間に350回も激しく鼓動するようになってしまったのです。これこそが心房細動。こうなると心臓は血液をうまく送り出せなくなります。そして、脳が酸素不足の状態になることで、決定的なことが起こってしまいました。それが、娘の受験での、保護者面接での大失敗。S・Sさんは、あろうことか居眠りをしてしまったのです。しかし、実はあれは居眠りではなく、脳の酸欠状態が引き起こした「失神」だったのです。そして、ついに運命の日。実はあの時、S・Sさんが気づかぬうちに心房細動が発生。それが長時間持続することで、心房内の血流が滞り、2センチもある巨大な血栓が発生してしまっていました。そして、合格発表という最大のストレスによって血圧が急上昇、その血栓が押し流されてしまったのです。動脈弁に当たり砕け散った血栓のかけらは、脳の血管へと向かい、ついにそこで詰まってしまいました。そう、S・Sさんはあの時、脳梗塞を引き起こしていたのです。救命処置が功を奏し、なんとか命を取り留めたS・Sさん。しかし、右半身不随、そして言語障害という大きな後遺症が残ってしまいました。
「心房細動から脳梗塞にならないためには?」
(1)ストレスと上手に付き合うことが大切です。
(2)心房細動からなる脳梗塞は、脳ドックなどの脳の検査では発見できません。
   脈が飛んだり、バラバラに打つといった不整脈を感じたら、迷わず心エコーや心電図など心臓の検査を
    受けることをおすすめします。
『本当は怖いおしどり夫婦〜幸せに潜む悪魔〜』
T・Nさん(女性)/28歳(発症当時) OL
結婚2年目のT・Nさん(28歳)は、近所でも評判のおしどり夫婦。家事も嫌がらずに手伝ってくれる理想の夫に、T・Nさんは幸せを噛み締めていました。そんなある日、T・Nさんは背中がかゆくなって掻いてしまい出血、夫にかゆみ止めを塗って貰います。その2日後、傷口が化膿していたため、病院で治療を受けたT・Nさん。ところが、傷は治るどころか、さらなる異変に襲われます。
(1)傷口が化膿してズキズキする
(2)化膿がひどくなる
(3)夫の手にかぶれ
(4)夫と同じようなかぶれ
(5)突然の高熱
(6)咳
(7)黄色い痰
(8)呼吸困難
MRSA感染症
<なぜ、おしどり夫婦からMRSA感染症に?>
「MRSA感染症」とは、多くの抗生物質が効かない恐ろしい菌「MRSA」が、体内に入り込み、炎症を起こす病です。最悪の場合、死に至ることもあるこの感染症。もともとは、病院の中だけで感染する病として知られ、様々な病院で多くの患者が死亡し、社会問題にもなりました。しかし、それが今や病院から飛び出し、身近な所にまで広がっているというのです。では一体、どこからT・Nさんの体内に、MRSAが入り込んでしまったのでしょうか?その犯人は…夫の手。あの時、帰宅したばかりの夫は手を洗わず、T・Nさんにかゆみ止めを塗ってしまいました。これこそが、元凶。実は人の手は、常時数億個の細菌が付着している「細菌の巣窟」。夫の手にもあの時、どこかでついたMRSAが付着していたと考えられます。T・Nさんにとって、まさにこの夫の優しさがあだとなったのです。夫の手から、T・Nさんの体内に入り込んだMRSAは、白血球を破壊し増殖をはじめました。その最初のサインが、背中の傷の化膿。多くの抗生物質が効かないMRSAには、皮膚科でもらった薬を塗っても、効果はほとんどありません。そのため、さらに化膿してしまったのです。やがてMRSAは、T・Nさんの体内でその毒性を徐々に強めていきます。そして再び、傷口を触った夫の手には、その毒性の強いMRSAが付着。その手で手首を触ったため、「かぶれた」ようになったのです。さらに、T・Nさん自身にも「とびひ」のように感染し、腕や腰に夫と同じようなかぶれができました。傷口に菌が入り込んでから10日後、血管を通って肺に達したMRSAは、肺機能を破壊。呼吸困難をもたらし、T・Nさんを命の危険に陥れたのです。幸いT・Nさんは、MRSAであることが判明。特効薬を使ったことで、無事完治することができました。すでに欧米では、学校や託児所など、病院以外でも感染の恐れがあると、はっきり警告されているMRSA。しかし、日本の場合は、どこで感染するのか、まだよくわかっていません。そして近い将来、感染者が確実に増えると言われているのです。だからこそ何よりも重要なのは、手洗い。家に帰ったら、まずしっかりと細菌を洗い流すことこそが、大切な家族を守るための最大の予防法なのです。
「MRSA感染症にならないためには?」
(1)こまめに正しく手を洗うことが大切です。
手のひら⇒手の甲⇒指の間⇒指先⇒手首の順でしっかり洗いましょう。
(2)手洗いには、抗菌石けんを使うのが効果的です。
(3)洗った手はペーパータオルで拭くのがベスト。 タオルやハンカチはなるべく避けましょう。
せっかく洗ってもまた菌が付く恐れがあります。
もしちょっとでも身体に違和感を覚えたら、迷わず病院で検診されることをおすすめします。