診察室
診察日:2006年7月11日
テーマ: 『本当は怖い目の疲れ〜禁断の脱力〜』
『本当は怖い猫背〜見えない棘〜』

『本当は怖い目の疲れ〜禁断の脱力〜』

H・Yさん(女性)/30歳(発症当時) 高校教師
私立高校で英語を教えるH・Yさんは、明るく指導熱心で美人。生徒から大人気の先生でしたが、自宅で試験の採点をしていた時、急に文字がぼやけ、二重に見える感じがしました。3時間も採点をしたせいで目が疲れたのだと、早めに切り上げて休むことにしたH・Yさん。翌朝になると、目の疲れはすっかりなくなっていましたが、その目の疲れこそ、禁断の病の前触れに他なりませんでした。
(1)目の疲れ
(2)まぶたが下がる
(3)腕に力が入らない
(4)立っているだけで疲れる
(5)呼吸困難
重症筋無力症(じゅうしょう きんむりょくしょう)
<なぜ、目の疲れから重症筋無力症に?>
「重症筋無力症」とは全身の筋力が急速に落ち、力が入らなくなってしまう難病の一つ。そのまま放っておくと、最悪の場合、歩けなくなったり、呼吸困難を引き起こし死に至ることもある恐ろしい病です。しかし、なぜこの病が発症するのか、全てが解明されているわけではありません。だからこそ、症状に注意し、早期発見することが大切なのです。この病の最大の特徴は、多くの場合、筋力の衰えが、まず目から始まるということ。あの目の様々な異変こそが、重要な最初のサインだったのです。ところが、H・Yさんはそれらを見過ごしてしまいました。その結果、筋力の衰えは徐々に全身へと広がり、ついには呼吸困難に陥ってしまったのです。この病の落とし穴は、筋肉が疲れてくる午後になると症状が現れ、少し休むと、症状が改善されてしまうところ。そのため、H・Yさんのように単なる疲れだと思ってしまう人が多く、自分が病に冒されていると気づくことが非常に難しいのです。さらには、周囲までもが病気であるとは思わず、単なる“なまけ者”だと誤解してしまうのがやっかいなところ。長い間、原因不明とされてきたこの病ですが、最近になって、発病の引き金となる、ある原因が指摘されるようになりました。それは、心臓の近くにある「胸腺」という臓器の異常。H・Yさんの場合は、胸腺にできた腫瘍が神経から筋肉への指令を妨害する物質を作る原因となっていたのです。この原因解明により、難病と言われたこの病も、早期の適切な治療で、多くの患者が回復できるようになってきました。1年後、H・Yさんも、手術で腫瘍を取り除き、無事退院。再び、教壇に立つことができたのです。
「神経に関わる病気を早期発見するためには?」
(1)症状の現れ方に注意することが大切です。一つ一つはたいしたことがなくても、
組み合わせによっては、重大なサインの場合もあります。
(2)もし、気になる症状があるのなら、迷わず、神経内科で検診されることをおすすめします。
『本当は怖い猫背〜見えない棘〜』
A・Hさん(女性)/56歳(発症当時) 主婦
趣味で始めたレース編みが評判となり、近所の主婦たちが習いに来るほど上手くなっていたA・Hさん。そんな彼女には最近ちょっと気になることがありました。昔から姿勢が悪く、猫背気味でしたが、歳をとったせいか、それが一層ひどくなってきたのです。夫から指摘されても、「猫背で死ぬわけじゃないし…」と思っていたA・Hさん。しかし、ある朝、突然、めまいに襲われたのを機に、様々な異変に見舞われるようになります。
(1)ぐるぐると回るようなめまい
(2)めまいが長く続く
(3)激しいめまい
(4)これまでにない強烈なめまい
(5)ろれつが回らない
脳梗塞
<なぜ、猫背から脳梗塞に?>
「脳梗塞」とは、脳の血管に血栓がつまり、脳の一部が壊死し、最悪の場合死に至ることも ある恐ろしい病。動脈硬化や濃縮型血液など、血液の流れが悪くなることが原因で発症する ことが多い病気です。しかしA・Hさんは、健康診断でも血液は全く異常なしと診断されて いました。なのになぜ、突然、脳梗塞を引き起こしてしまったのでしょうか?その原因は、 なんとA・Hさんの姿勢、あの「猫背」に隠されていました。正常な姿勢の場合、背骨全体 が重量のある頭部を支えています。しかし、猫背だと前に重心が傾くため、首の骨に大きな 負担がかかってしまうのです。A・Hさんの場合、もともとの姿勢の悪さに加え、長年のレ ース編みで、猫背にさらに拍車をかけてしまいました。こうして、無理な力が首にかかり続 けたため、骨と骨の間でクッションの役割を果たす椎間板が潰れ、椎骨の一部がトゲのよう に飛び出してしまったのです。このトゲのような骨こそが、全ての原因。実は、A・Hさん が度々襲われたあの「めまい」は、いつも左に振り向いた時に起こっていました。あれは首 を左に回した時、飛び出した骨が、骨の脇にある動脈を圧迫。血流が滞り、脳が酸欠に陥っ たためだったのです。普通、貧血などのめまいは、ほんの一瞬で治るものですが、この病 は、グルグルと回るめまいが1分近く続くことが特徴。このようなめまいを感じた時点で、 病院に行っていれば事なきを得たはずなのに、皮肉にも、A・Hさんは健康診断で異常がな かったため、病気のサインを見過ごしてしまいました。そして、展覧会の舞台で振り向いた あの時、飛び出した骨が椎骨動脈を押し込んだことで、内側に亀裂が生じ、そこに血液が流 れ込み風船のように膨らみはじめました。そしてついに、血流をストップさせてしまったの です。これは「椎骨動脈解離(せきついどうみゃくかいり)」という、脳梗塞を引き起こす 原因にもなる危険な状態。ただちに治療が行われ、なんとか一命は取り止めたA・Hさん。 しかし、ろれつが回らないなど、言語機能に少なからず障害が残ってしまいました。猫背だ けでなく、加齢による骨の変形で起こることもあるこの病。恐ろしいのは、たとえ血液検 査の結果が良くても、決して安心できない、ということなのです。
「簡単に出来る!姿勢を直す壁体操」
(1)家の壁の角を使って行ないます。
(2)角に背中を向け、足を約50センチ開き、壁にしっかりつけます。
(3)ひざから下の外側を壁につけたまま、スクワットをします。

※「壁体操」は、背骨の土台である骨盤から矯正していく体操です。
腰や足を壁の角に密着させることで、骨盤が正しい方向を向きます。
結果、その上に乗っている背骨がまっすぐ伸び、正しい姿勢をとることが出来るようになるのです。
この体操は、1日30回を目安に、数回に分けて無理のない範囲で行なうと効果的です。
そしてもちろん、血液の健康状態にも注意することが大切です。