診察室
診察日:2006年8月22日
テーマ: 『本当は怖い咳〜静かなる影の使者〜』
『本当は怖い足の冷え〜がんばり屋母ちゃんの悲劇〜』

『本当は怖い咳〜静かなる影の使者〜』

S・Hさん(男性)/48歳(発症当時) サラリーマン
持ち回りで務める、マンションの管理組合の理事長に選ばれてしまったS・Hさん。責任感の強い彼は、就任早々、引き継がれたマンションの問題点を洗い出し行動開始。問題のある住民と直接交渉しながらトラブル処理に奔走していましたが、3ヵ月後、突然、乾いた咳が止まらなくなります。「風邪でもなさそうなのに変だ…」とは思ったものの、特に気に留めることはなかったS・Hさん。しかし、その咳こそ彼の体に巣食った、悪魔からの最初の警告でした。
(1)乾いた咳
(2)霧がかかったように目がかすむ
(3)腕に赤いしこり
(4)足に赤いしこり
(5)心臓が苦しくなる
サルコイドーシス
<なぜ、咳からサルコイドーシスに?>
「サルコイドーシス」とは、爪と髪の毛を除いて、体のあらゆる場所に肉芽腫(にくげしゅ)という腫れ物ができ、様々な障害が生じる病。特効薬がないため、厚生労働省により、難病に指定されています。現在、およそ1万8千人の患者がいると言われるこの病。まだはっきりとしたメカニズムは解明されていませんが、原因は、誰の体にもいる菌で、にきびの原因菌として知られるアクネ菌だと言われています。そんなありふれた菌ですが、実はこの菌、あることがきっかけで暴れ出すのです。あることとは…そう、ストレス。急激なストレスを感じ、過労や不規則な生活に陥った人が発病しやすいと言われています。S・Hさんの場合も、ストレスを感じたことで、今まで身体の中でおとなしくしていたアクネ菌が増殖。これを封じ込めようと、免疫細胞が取り囲むことで、肉芽腫という腫れ物が出来上がってしまったのです。その最初のサインが、あの乾いた咳でした。サルコイドーシスの90%は、まず肺や、肺のリンパ節に発症します。そのため、咳などの症状が、最初に現れるのです。そして次に肉芽腫ができたのは、眼の中でした。あの眼のかすみは、眼の中に腫れ物ができたことで、ブドウ膜が炎症を起こしてしまったことが原因。さらに、S・Hさんの場合、腕や足、そして、ついには心臓にも腫れ物ができてしまいました。その結果、心臓の機能が低下し、発作を起こしてしまったのです。治療の甲斐あって、なんとか一命をとりとめたS・Hさん。その後、理事長を辞退。平穏な暮らしに戻ることができました。サルコイドーシスは最悪の場合、死に至ることもある病。だからこそ、一つ一つの小さな症状を見逃さず、早期発見することが最も大切なのです。
「サルコイドーシスが心配な場合は?」
(1)乾いた咳などの小さな症状を見逃さないことが大切です。
(2)肺に肉芽腫ができる確率が高いこの病。呼吸器科などでレントゲン撮影を行なえば、比較的簡単に
発見できることが多いのです。
(3)他にも「日本サルコイドーシス 肉芽腫性疾患学会」のホームページにアクセスすれば、都道府県別の
   専門医の情報がわかります。
『本当は怖い足の冷え〜がんばり屋母ちゃんの悲劇〜』
M・Sさん(女性)/58歳(発症当時) 自営業
5年前に夫が他界してから、一人息子と中華料理屋を切り盛りしてきたM・Sさん。ところが、もうすぐ近所にデリバリー専門のライバル店ができることが発覚。しかし、M・Sさんには、他にも気になることがありました。最近妙に右足の足先が冷えるのです。冷え性は女性にはつきものと放っておいたM・Sさん。しかし、3ヵ月後、ライバル店に対抗すべく、出前を始めた彼女に、さらなる異変が起こり始めました。
(1)足の冷え
(2)足のしびれ
(3)(グラスの破片を踏んで出来た)傷の異常な悪化
閉塞性動脈硬化症(へいそくせい どうみゃくこうかしょう)
<なぜ、足の冷えから閉塞性動脈硬化症に?>
「閉塞性動脈硬化症」とは、腹部から足にかけての血管がコレステロールなどによって動脈硬化を起こし、詰まってしまう病。足の大腿部から先に血液が行き渡らず、様々な症状を起こし、最悪の場合、死に至ることもあるのです。その原因は、高カロリー食品の摂取など、生活習慣にあります。現在、この病の患者数は、およそ10万人。男性の方が圧倒的に多いのですが、このところ、急激に女性にも増え始めています。では、どのような女性がこの病にかかりやすいのでしょうか。そう、それはM・Sさんのように、閉経を迎えた女性。理由は、女性ホルモン・エストロゲンにありました。エストロゲンは、女性らしい体の形成、毛髪の発達、骨量の維持などの役割を担っています。そして実は、血中のコレステロールの増加を抑える作用もあるのです。そのため、閉経前の女性の血管は動脈硬化が起こりにくいと言われています。ところが、閉経してしまうと、エストロゲンは減少。以前のように、コレステロールの増加を抑えてくれなくなります。そうとも知らず、M・Sさんは、コレステロールの多い食生活を続けてしまいました。その結果、最も動脈硬化が進んだのが、あの右足の大腿部の血管だったのです。こうして現れたのが、あの右足だけが冷えたり、しびれたりする症状。しかし、足を休めると、わずかながら血液が行き渡るため、症状は治まってしまいます。そのため、病の存在に気づきにくいのです。これこそがこの病の落とし穴。そして、さらなる災難がM・Sさんにふりかかりました。それは足先を不慮の事故で傷つけてしまったこと。あのとき、彼女の足には、血流がほとんどなかったため、進入してきた細菌を撃退することが出来ず、一気に細菌が繁殖。あっという間に壊死に至り、切断するしかなくなってしまいました。閉経後の女性は、特に食生活などの生活習慣に気をつけることが、この病を防ぐ手だてなのです。
「閉塞性動脈硬化症の最新治療法」
閉塞性動脈硬化症は、足の血行障害が重症化してしまうと治療が難しく、これまでは足を 切断せざるを得ないこともしばしばありました。ところが、京都大学医学部付属病院では現在、全く新しいアプローチで臨床試験を始めています。それが「血管新生」という夢の再生医療です。この治療では、FGFというたんぱく質を患部の周囲およそ40ヵ所に注射します。すると、無数の新しい血管が誕生し、動脈硬化を起こした血管を完全にカバー。足に血流が蘇るのです。