診察室
診察日:2006年9月12日
テーマ: 『本当は怖い発汗〜悪魔の暴走〜』
『本当は怖い体重減少〜サイレントキラー〜』

『本当は怖い発汗〜悪魔の暴走〜』

Y・Tさん(女性)/51歳(発症当時) 主婦
姑が骨折し寝たきりの生活になったため、毎日介護に明け暮れていたY・Tさん。結婚して30年、特に嫁姑のいさかいもなく、仕事をしながら子育てが出来たのも理解のある姑のおかげと心から感謝していました。そんな彼女に異変が現れたのは、介護を始めて2ヶ月ほどたった秋の初め頃のこと。涼しくなってきたのに身体がほてり、大量の汗をかいてしまいます。翌朝、そのことを姑に話すと「更年期じゃないか」と言われたY・Tさん。症状もそのせいだと思い込んでいましたが、介護中心の生活になって1年後、さらなる症状が襲いかかります。
(1)発汗
(2)疲労
(3)イライラ
(4)食欲増進
(5)ハイテンション
(6)吐き気
甲状腺クリーゼ
<なぜ、発汗から甲状腺クリーゼに?>
「甲状腺クリーゼ」とは、甲状腺ホルモンが、突然、爆発的に分泌されることにより生命の危機に瀕する病。いったん発症すると、吐き気、頻脈、呼吸困難などの症状が立て続けに襲い、最悪の場合、心不全を起こし死に至ることも少なくありません。原因は未だ、はっきりとはわかっていませんが、そのきっかけとなるのはストレス。肉親の死や、手術など、大きなストレスのかかる出来事をきっかけに甲状腺ホルモンが暴走し、発症すると考えられています。Y・Tさんの場合、30年余りも共に暮らしてきた姑の死が、甲状腺クリーゼの引き金を引いたと考えられるのです。では、その前に起きた「発汗」「疲労」「イライラ」などの症状は、一体何だったのでしょうか?実は、これこそが甲状腺クリーゼの発症にかかわる重要なカギ。あの時、Y・Tさんは既にこの病の前段階とも言える、もう一つの病気にかかっていたのです。その病とは…「バセドウ病」。バセドウ病とは、甲状腺が異常をきたし甲状腺ホルモンを過剰に分泌、様々な症状が全身に出る病。そして、甲状腺クリーゼ患者の90%は、このバセドウ病から発症しているのです。しかし、Y・Tさんは、自分がバセドウ病にかかっていることに全く気づいていませんでした。なぜなら、自分が更年期障害だと思いこんでいたため。実は「発汗」「疲れやすい」「イライラ」など、バセドウ病の症状は「更年期障害」とソックリ。よく知られている代表的な症状「眼球の突出」が出ない場合も多く、Y・Tさんのような50代の女性は、往々にして更年期障害のせいだと間違えがちなのです。実際、潜在的な患者を含めると、50万人はいると言われるバセドウ病患者のうち、半数以上が自分の病に気づいていないと考えられています。Y・Tさんもまさにその一人。こうして彼女は、あの姑の死をきっかけに、甲状腺クリーゼを発症してしまったのです。幸い、Y・Tさんは懸命の治療のおかげで、一命をとりとめることが出来ました。バセドウ病は、血液検査で甲状腺ホルモンを調べれば、すぐに発見することができます。勝手に更年期障害だと自己診断せず、バセドウ病を早期発見する事こそ、甲状腺クリーゼの何よりの予防法なのです。
[予防法]
バセドウ病と更年期障害の違い
バセドウ病 更年期障害

そう状態
テンションが高く、じっとしていられない
食欲旺盛
症状が継続的

うつ状態
体がだるく、動きたくない
食欲不振
症状が一時的

(1)バセドウ病を更年期障害と間違えないためには、上記のようなポイントに気をつけることが大切です。
(2)もし、「眼球の突出」や「のどの腫れ」など、バセドウ病特有の症状があれば、迷わず、病院で甲状腺
   ホルモンの検査を受けることをおすすめします。
『本当は怖い体重減少〜サイレントキラー〜』
S・Rさん(女性)/39歳(発症当時) 主婦
エリート商社マンと結婚して10年、若い頃からその抜群のスタイルが自慢だったS・Rさん。40歳を前に腰のまわりにちょっと贅肉が付いてきたものの、まだこれくらい大丈夫と、特にダイエットもせずに過ごしていました。そんなある日、このところ外食が多かったので気になって体重計に乗ってみると、なんと先月より1キロ減っていたS・Rさん。努力もせずに1キロも痩せるなんてと幸せな気分でいましたが、その不思議な体重の減少こそ恐るべき病の始まりでした。
(1)体重減少
(2)食欲不振
(3)体重減少が止まらない
スキルス胃ガン
<なぜ、体重減少からスキルス胃ガンに?>
そもそも、通常の胃ガンは、胃の表面、粘膜に出来たガンがそのまま表面伝いに広がっていきます。ところが、「スキルス胃ガン」は、ガンが初期の段階から胃の表面ではなく、胃壁の中に潜るように広がっていくのが特徴。そのため、胃壁全体がガンに冒されていても表面の病変は小さく、発見が難しいのです。さらに、スキルス胃ガンが恐ろしいのはその進行の早さ。スピードは、通常の胃ガンの、なんと6倍!瞬く間に周囲の臓器に転移してしまい、気づいたときには手遅れ。死亡率はおよそ、80%にも上るのです。加えて、スキルス胃ガンのもう一つの特徴は、発症年齢が若いこと。S・Rさんのように30代から40代の女性に多く発症し、中でも女性の方が発症率が高いのです。では、S・Rさんがスキルス胃ガンに気づくポイントはなかったのでしょうか?それこそ、普段と変わらない食事をしていたのに、体重が減り始めたあの時。あれは胃にガンが出来たため、胃の活動が鈍り、消化能力が落ちたために起きた体重の減少だったのです。この時点で気付いていれば、最悪の事態は避けられたかもしれません。しかし、S・Rさんのように痩せることを嬉しいと感じてしまう女性は、なかなか病気を疑おうとしないのが実状。その間にも、スキルス胃ガンは猛烈なスピードで成長。そして、食欲不振や、さらなる体重の減少といった症状が。でも、ここまでくるともう手遅れ。ガンは身体のいたるところに飛び火してしまっていたのです。スキルス胃ガンの危険から逃れるためには、一刻も早く発見すること以外にありません。もしも、30代から40代の女性が、理由もなく体重減少した時には、この病気を疑い、内視鏡による検査を受ける事が重要。もし、それが早期であれば、たとえスキルス胃ガンであっても完治する確率は、極めて高いのです。
[予防法]
 ガン予防12ヶ条

(1)バランス良い栄養      
(2)変化ある食事        
(3)食べ過ぎない        
(4)飲み過ぎない        
(5)禁煙
(6)ビタミンと繊維質を摂る            

(7)塩分や熱いものは控えめ
(8)焦げた部分はさける
(9)カビに注意
(10)日光に当たり過ぎない
(11)適度な運動
(12)体を大切に
(1)スキルス胃ガンなど、ガンにならないためには、国立がんセンターが提唱するこちらの12ヶ条を守ること
   が大切です。
(2)その上で、ガン年齢と言われる50代を超えたら、定期的に検査を受けることをお勧めします。