診察室
診察日:2007年3月6日
テーマ: 『本当は怖い胃の痛み〜慣れの果てに…〜』
『本当は怖い耳鳴り〜魔の洪水注意報〜』

『本当は怖い胃の痛み〜慣れの果てに…〜』

N・Sさん(男性)/60歳(発症当時) 無職
定年退職後、年金だけでは老後の生活費が足りないことに気付き、再就職活動を始めたN・Sさん。しかし、就職先はなかなか見つからず、大きなストレスを感じるようになりました。そんなある日、お腹の上辺りにチクチクとした痛みを感じたN・Sさん。若い頃から胃腸が弱く十二指腸潰瘍と長年付き合ってきた彼は、市販の胃薬を飲むなどして対処していましたが、さらなる異変が続きました。
(1)空腹時の胃の痛み
(2)胃のもたれ
(3)疲れやすい
(4)胃の鈍痛
胃ガン
<なぜ、空腹時の胃の痛みから胃ガンに?>
「胃ガン」とは、その名の通り、胃の粘膜や胃壁に悪性の腫瘍が出来る病。日本の全てのガンの中でトップを占める胃ガンは、最も注意しなければならない病の一つなのです。でも、N・Sさんは、胃ガンではなく、持病の十二指腸潰瘍だったはず。確かに最初の胃の痛みは、再発した十二指腸潰瘍の痛みでした。でも胃もたれなど、その後、彼を襲った胃の不調は、まぎれもなく胃ガンの症状だったのです!潰瘍がガンに発展することはありません。しかし、その両者には、共通する犯人がいたのです。それが…ピロリ菌。日本人のおよそ半分、40代以降なら70%以上が感染していると言われるピロリ菌。胃酸から身を守るため、胃の粘膜に住み着いたピロリ菌は、強力な毒素を放出し粘膜を攻撃。潰瘍やガンができる原因を作ると言われています。胃ガンや、十二指腸潰瘍、胃潰瘍患者の、なんと9割がピロリ菌の感染者なのです。つまり、ピロリ菌の感染者で胃潰瘍や十二指腸潰瘍にかかりやすい人は、胃ガンになる可能性も高いと言えるのです。しかし、彼は長年の慣れから、いつもの十二指腸潰瘍と思い込んで胃ガンのサインを見逃してしまったのです。すぐに胃の部分摘出手術を受けたN・Sさん、無事成功し、社会復帰を目指してがんばっています。
『本当は怖い耳鳴り〜魔の洪水注意報〜』
T・Aさん(女性)/40歳(発症当時) 主婦
夫の仕事の都合で郊外に引っ越してきたT・Aさん。息子が通う小学校のPTAに出席したところ、次の学校新聞の編集責任者を任されることに。真面目な性格のT・Aさんは子供が肩身の狭い思いをしないようにと張り切りますが、その時、遠くで汽笛が鳴っているような耳鳴りを感じます。それ以来、学校新聞のことが頭から離れないT・Aさん。近づいてくる締め切りに焦りを感じ始めていましたが、その後も気になる症状が続きました。
(1)低い音の耳鳴り
(2)耳が詰まったような感じがする
(3)強いめまい
(4)吐き気
(5)再び強いめまい
メニエール病
<なぜ、耳鳴りからメニエール病に?>
「メニエール病」とは何らかの原因により、耳の中の器官が異常を来たし、様々な症状を引き起こす病です。最悪の場合、耳鳴りや難聴などの後遺症が一生残る場合も。そのため厚生労働省により、難病指定されているのです。現在、患者数は、およそ2万4000人。特に多いのは30代から50代にかけての患者です。実はこの年齢層にこそ病の原因は隠されていました。それは…ストレス。この病は、働き盛りで仕事などのストレスを多く受けている人が発症しやすいと言われています。そもそも私たちの耳の中は、外側から外耳、中耳、内耳と分かれています。強いストレスから病を発症すると、蝸牛(かぎゅう)という音の信号を脳に伝える部分に異常が発生。ストレスがかかるたびに、中のリンパ液が異常に増えてしまうと考えられています。T・Aさんの場合も、ストレスにより蝸牛のリンパ液が増加。音を伝える神経を圧迫し、耳鳴りや耳の詰まりが起きたのです。しかし、ストレスが解消されるとリンパ液は自然に減少、普段の状態に戻ります。T・Aさんの場合も、ストレスのかからない家では、耳鳴りなどの異常がなかったため、安心してしまったのです。これこそ、メニエール病の落とし穴。そんな事を繰り返すうちに、次第に症状が重くなっていくのが、この病の特徴なのです。そして、T・Aさんが感じた強いストレスで、リンパ液はさらに増加。ついにライスネル膜と呼ばれる膜を突き破り、成分が変化。そして、蝸牛の隣にあるバランスを司る三半規管が刺激され、吐き気と激しいめまいを引き起こしたのです。現在、T・Aさんは耳鳴りの後遺症が残ったため、投薬治療を受けながら、メニエール病の根本的な原因であるストレスを避ける指導を受けています。メニエール病は進行性の病のため、発見が早いほど、治る確率は高くなると言われているのです。