診察室
診察日:2007年5月15日
テーマ: 「本当は怖い恥ずかしがり屋〜怯える瞳〜」
「本当は怖い微熱〜恐怖の7days〜」

『本当は怖い恥ずかしがり屋〜怯える瞳〜』

M・Tさん(女性)/52歳(発症当時) 専業主婦
マンションの理事会役員が回ってきたため出席したところ、いきなり理事長に選ばれてしまったM・Tさん。もともと人前に出るのが苦手な彼女の脳裏には、この時、ある記憶が蘇っていました。それは中学時代に作文を朗読した際、周りの視線が気になり異様に緊張して、しどろもどろになってしまった体験。以来そういう場面は極力避け、結婚してからも大事なことは全て夫任せという生活を送ってきたM・Tさん。1ヵ月後、理事長になった初めての会合で出席者からの視線を痛いほど感じた上、大量の汗が吹き出し耐えられなくなってしまいます。それ以来、仮病を使って理事会を休むようになってしまった彼女ですが、その後もさらなる異変に襲われます。
(1)人前で喋るのは嫌い
(2)緊張すると大量の汗
(3)不安な事を避ける
(4)人前で字が書けない
(5)手が大きく震える
社会不安障害
<なぜ、恥ずかしがり屋から社会不安障害に?>
「社会不安障害」とは、人前に出る緊張感や不安など個人的な悩みが大きくなることで様々な身体症状が現れ、日常生活に支障をきたす病。潜在的な患者を含めると、約300万人はいると言われています。しかし、そのほとんどの人が、自分の性格のせいと思い込み、そのまま放っておくため、その後「うつ病」「アルコール依存症」「パニック障害」などを併発するケースが多く、何と患者の7割を超えていると言われます。それにしても、なぜM・Tさんは社会不安障害になってしまったのでしょうか。その最大の理由は「人にどう見られているかを気にするタイプ」だということ。明るく積極的な人も、内気で人見知りな人も、性格に関わらず「人の視線を強く意識するタイプ」が、この病にかかりやすいのです。ではM・Tさんは、いつ発症したのでしょうか。それは中学生の時、異様に緊張したあの瞬間でした。患者さんの多くは、10代の多感な時期に経験した「極度の緊張」をきっかけに発症します。脳の扁桃体という部分を過敏にするようになり、強い緊張を感じやすくなってしまうのです。しかし、M・Tさんの場合、その後、緊張するような場面を避けることで、病が表面化することはありませんでした。再発のきっかけは理事長への就任でした。「社会不安障害」は、避けられない社会的場面、例えば就職や昇進、PTAへの参加などに直面することで、症状が強く出始める事が多いとされています。M・Tさんも理事長になってから異様な緊張を覚え、身体症状なども強く出るようになってしまいました。しかし、この早期発見の段階で治療を始めたことで今では見違えるように積極的に生活できるようになったのです。「社会不安障害」は、その多くが自分で内気、あがり症と思い込んでいる人に潜む病。緊張する場面を避けるなど、社会生活に支障のある方は、我慢することなく、一度、心療内科で相談されてみてはいかがでしょうか?
『本当は怖い微熱〜恐怖の7days〜』
S・Hさん(男性)/48歳(発症当時) 会社役員
S・Hさんは、48歳にして中堅証券会社の専務。業界再編の余波を受け、競合他社の合併吸収の大役を一身に担い、瀬戸際の勝負がこの1週間にかかっていました。そんな中、身体のだるさを感じ、熱を測ってみると、37度2分の微熱があったS・Hさん。「このくらいの熱、寝ればすぐに治る」と思っていましたが、実はそれこそ恐怖のカウントダウンが始まったサインだったのです。
(1)微熱
(2)熱が下がらない
(3)歯茎から出血
(4)覚えのないアザ
(5)アザが大きくなる
(6)さらに広がるアザ
急性前骨髄球性白血病(きゅうせいぜんこつずいきゅうせいはっけつびょう)
<なぜ、微熱から急性前骨髄球性白血病に?>
「急性前骨髄球性白血病」とは、悪性化した白血球が増殖。様々な症状を引き起こす、いわゆる白血病の一種。最悪の場合、脳出血や肺出血で命を落とすこともある病です。現在、日本の白血病の患者数はおよそ6500人。その6%がこの病だと言われています。割合としては比較的少ないものの、急性前骨髄球性白血病には他の白血病にはない、大きな特徴があります。それは進行の早さ。白血病の中で最も進行が早く、発症するとわずか1週間で死に至ることもあるのです。しかし同時に、この病は白血病の中では最も治りやすく、薬による治療で、その7割は完治すると言われています。だからこそ1日でも早く早期発見が何よりも大切。では、気付くポイントはどこにあるのでしょうか。S・Hさんの症状を振り返ってみましょう。まずは微熱。あれは風邪などではなく、この時点で病を発症していたのです。何らかの原因で、前骨髄球という未熟な白血球が異常を起こし増殖。発熱物質が出たために起きたものでした。そして3日目には、歯茎から出血。5日目には覚えのないアザという症状に見舞われます。異常な白血球から今度は血栓を溶かす物質が出たため出来た小さな穴も塞げず、出血してしまったのです。とはいえ、微熱や歯茎の出血、アザなどは、誰にでもあるもの。なかなか病気を疑いません。見分けるための最大のポイントは、アザの広がり。普通なら広がらないアザが、内出血が止まらないため、どんどん広がっていくのです。これが何よりのサインでした。S・Hさんの場合も、妻がこの異変に気付き、必死の説得をしたことが命運を分けました。その後の投薬治療で、S・Hさんは半年後には仕事に復帰。今は合併の最後の仕上げに邁進する毎日です。