診察室
診察日:2007年8月21日
テーマ: 「本当は怖い乾いた咳〜飛び散った悪魔〜」
「本当は怖い抜け毛〜黒髪を抜く悪魔〜」

『本当は怖い乾いた咳〜飛び散った悪魔〜』

S・Mさん(女性)/36歳 OL
中堅商社で働くベテランOL、S・Mさんは、結婚して10年。これまで夫婦2人だけの時間を大事にしたいと考えてきましたが、そろそろママになりたいと考え、子作りに励むことに。しかし、半年経ってもなかなか妊娠の兆しはなく、なぜか乾いた咳が出るようになります。そして、もともと生理が重く、10代の頃から生理痛に悩まされてきたS・Mさんは、やがて乾いた咳が生理と全く同じ周期で起きていることに気付きますが、その後も異変は続きました。
(1)乾いた咳
(2)生理痛の悪化
(3)乾いた咳がぶり返す
(4)更に生理痛が悪化
(5)胸の激痛
(6)呼吸困難
子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)
<なぜ、乾いた咳から子宮内膜症に?>
「子宮内膜」とは、子宮の内側にある粘膜組織のこと。子宮内膜は卵子が排出される時期に合わせて成長し、妊娠しなかった場合は血液と共に排出されます。それが、生理つまり月経の度に繰り返されています。「子宮内膜症」は、この子宮内膜と同じ組織が子宮以外の場所で増殖し、炎症や出血といったトラブルを引き起こす病です。現在、国内の患者数は、月経のある人の実に10人に1人。近年、その数は増加の一途をたどりつつあるのです。しかしなぜ、子宮以外の場所に子宮内膜が出来てしまうのでしょうか?その訳は、月経の仕組みにあります。実は月経の血液は、全てが体の外に排出されている訳ではありません。その一部は、卵管を逆流し体内に留まってしまうのです。S・Mさんの場合も、逆流した血液に含まれていた子宮内膜の細胞組織が子宮の周りで増殖を開始。生理の度に子宮以外の場所で子宮内膜がはがれ、炎症の範囲を広げていったのです。そしてこの増殖した組織が、最後に到達した場所こそが肺でした。S・Mさんを繰り返し襲ったあの「乾いた咳」は肺に巣食った子宮内膜が原因。月経と同じ周期で咳が出たのも、月経の度にその組織がはがれ、炎症を起こしたせいだったのです。しかしS・Mさんは、度重なるそのサインを見過ごしていました。そのため、症状はさらに悪化。ついには、「胸の激痛」や「呼吸困難」に見舞われてしまったのです。では彼女が、この子宮内膜症に気付くポイントはなかったのでしょうか?それこそが、あの「生理痛の悪化」。「生理の度に徐々に痛みが重くなる」というのがこの病の最大の特徴。だからこそ「生理痛の悪化」に気付いたら、一度はこの病を疑い、専門医を受診することが大切なのです。緊急手術から2年。S・Mさんは、ついに念願のわが子を出産しました。子宮内膜症を患っても、適切な治療を受ければ、子供を授かることは充分に可能なのです。
『本当は怖い抜け毛〜黒髪を抜く悪魔〜』
S・Kさん(女性)/46歳 自営業
夫婦で下町の洋品店を営むS・Kさんは、誰もが認める商店街のマドンナ。しかし近頃、自慢の黒髪がやけに抜け落ちるのが気になっていました。「もう50歳近いんだから仕方ない」と半ば諦めつつも、毎晩頭皮マッサージを心がけるようになったS・Kさん。しかし、抜け毛はどんどんひどくなるばかりか、突然イライラすることが増え、更なる異変も現れました。
(1)抜け毛
(2)髪の毛が細くなる
(3)イライラする
(4)動悸・発汗
(5)首が太くなる
バセドウ病
<なぜ、抜け毛からバセドウ病に?>
「バセドウ病」とは、詳しい原因はわかっていませんが、首にある甲状腺という臓器に異常が生じ、新陳代謝を高める甲状腺ホルモンが過剰に分泌。全身に様々な障害を引き起こす病です。バセドウ病は、男性よりも圧倒的に女性に多いといわれる病。20代から40代を中心に、成人女性の300人に1人は患っているといわれます。最初にS・Kさんを襲ったあの「抜け毛」は、何らかの原因で甲状腺の免疫システムに異常が発生し、甲状腺の中の細胞を異物と間違え攻撃したため、ホルモンが過剰に分泌。猛烈な勢いで新陳代謝が行なわれた結果、髪の毛は成長するよりも早く、次々に抜け落ちていってしまったと考えられます。また「イライラ」「動悸」「発汗」などの異変も、この「抜け毛」同様、ホルモンの過剰分泌が引き起こしたもの。しかし厄介なことに、これらの症状は、加齢や更年期障害によるものとなかなか見分けがつきません。では、彼女がこの病に気付くチャンスはなかったのでしょうか?実はその最大のポイントこそ、「首が太くなる」という異変。これは甲状腺が、大量のホルモンを分泌し、腫れあがったもの。これこそがバセドウ病最大のサインなのです。ところが、S・Kさんはそれを肥満のせいと勘違いし、早期発見のチャンスを逃してしまいます。そして、甲状腺で起きていた免疫異常が、今度は毛根でも発生。ついに円形脱毛症を併発してしまったのです。その後、S・Kさんは、バセドウ病と円形脱毛症の治療を根気よく続けた結果、1年後には病のコントロールに成功。以前と同じ様な生活を送れるようになりました。