診察室
診察日:2007年9月4日
貧血スペシャル
テーマ:
「本当は怖い立ちくらみ〜見えない悪魔〜」

『本当は怖い立ちくらみ〜見えない悪魔〜』

T・Tさん(女性)/57歳 専業主婦
子供も独立し、夫婦水入らずの生活を楽しんでいたT・Tさん。若い頃いわゆる「貧血持ち」だった彼女は、3年前に閉経して以来、貧血がすっかり治まり安心していましたが、ここ数週間、なぜか立ちくらみがぶり返すように。鉄分さえしっかり摂れば治るはずと軽く考えたT・Tさんは、レバニラ炒めなど鉄分の多い料理を食べるようにします。しかし、立ちくらみは一向に改善しないばかりか、さらなる症状が続きました。
(1)立ちくらみ
(2)動悸・息切れ
(3)頭痛
胃ガン
<なぜ、貧血から胃ガンに?>
「胃ガン」は、日本人女性のガン死亡率で第1位を占める病。その理由は、無症状のまま進行することが多く早期発見が難しいためと考えられています。通常、胃ガンの代表的な症状は、胃の痛みや不快感などと言われますが、実際にはそれも感じない人が多いのです。しかしT・Tさんには、胃ガンを疑うべき重要なサインが現れていました。それこそが、あの貧血です。実はあの時、彼女の体内では、ガン細胞によって胃の粘膜が破壊され、出血が生じていました。そして本人は気付かぬまま、その血は便に混ざって排泄。この出血によって、血液中に含まれるヘモグロビンの量も減少していきました。ヘモグロビンには、酸素を体の隅々まで運搬するという大切な働きがあります。そのため減少すると、全身が酸素不足に陥ってしまうことに。T・Tさんを襲った「立ちくらみ」「動悸・息切れ」「頭痛」など様々な症状は、ガン細胞による出血でヘモグロビンの量が減少し、体内が酸素不足に陥ったため起こったものだったのです。T・Tさんのように閉経した女性や貧血になりにくい男性に貧血の症状が現われた場合、まず胃ガンなどの消化器系の病気を疑うことが大切なのです。こうして病の正体に気付かぬ間に、T・Tさんの体内ではガン細胞がさらに増殖。出血が治まることなく続きました。こうなると、いくら鉄分を補給したところで、焼け石に水。体内ではヘモグロビンが不足の一途をたどり、貧血が治まることは決してないのです。こうして、胃ガンの進行を見過ごしかけたT・Tさん。しかし、ギリギリのところで、夫の助言により健康診断を受け、病の正体を発見。胃の一部を摘出することで、現在は、どうにか健康を取り戻すことができました。
<鉄欠乏性貧血の恐怖!>
貧血のうち、9割という圧倒的多数を占めるのが「鉄欠乏性貧血」。
「鉄欠乏性貧血」とは、ヘモグロビンを作る材料の一つ、“鉄分”が不足することで起こる貧血のこと。では一体なぜ、鉄分は不足し、貧血を引き起こしてしまうのでしょうか?そもそも体重50kgの成人女性の場合、体内に存在する鉄分量は、およそ2000mg。そのうち3分の2にあたる、およそ1300mgが、血液で全身に運ばれ、酸素を供給するなどの働きをしています。そして残りの3分の1は、肝臓などに「貯蔵鉄」として蓄えられています。このうち、私たちは毎日1mg程度を汗や尿とともに排泄する一方で、食事によって、ほぼ同量の鉄を吸収。こうして、バランスが保たれているのです。
ところが女性の場合、大きな落とし穴が。
それは、毎月の生理による出血。この出血によって、平均15mgの鉄分が失われてしまうのです。そのため普通に食べるだけでは鉄分の補給が追いつかず、血液中の鉄分は少しずつ減少していくことに。この時、足りなくなった鉄分を補ってくれるのが、肝臓などに蓄えられた“貯蔵鉄”。血液中の鉄分が減っても、貯蔵鉄が放出されるため、すぐに貧血の症状が現れることはありません。このように貯蔵鉄を使ってやりくりしている状態を「隠れ貧血」、つまり「貧血予備軍」といいます。そしていま、女性の2人に1人が、この貧血予備軍の状態にあるといわれています。とはいえ本当に恐ろしいのは、この貯蔵鉄をすべて使い果たしてしまった時。体内の様々な場所で、酸素が不足し始め、立ちくらみや、動悸・息切れなどの貧血症状が現われ始めます。さらに貧血が進むと、爪がもろくなりスプーン状に反り返ってしまうことも。そして、大量の氷を無性に食べたくなる「氷食症」や、土・チョーク・炭・紙などを食べてしまう「異食症」という異常行動まで引き起こしてしまうのです。では一体、どうすれば貧血にならずにすむのでしょうか?
キーワードは、食生活の改善。ちなみに厚生労働省が推奨している鉄分摂取量は、男性7.5mg女性 10.5mg。しかし実際の摂取量をみると、なんと女性の場合3.4mgも不足しているのです。
鉄分たっぷり貧血予防料理