診察室
診察日:2007年11月27日
テーマ:「本当は怖い顔のむくみ〜満たされた女〜」
「本当は怖い足のむくみ〜澱んだ水風船〜」

『本当は怖い顔のむくみ〜満たされた女〜』

M・Kさん(女性)/34歳 派遣社員
コンピューター関連の会社で働く派遣スタッフのM・Kさんは、アフターファイブに同僚と思いっきり飲んで食べるのが楽しみ。飲み過ぎた翌朝は、まぶたの辺りがむくむものの、昼過ぎになるといつもすっかり元通りに戻っていました。ところが1週間後、前日は飲み会もなく早めに帰宅したはずなのに、顔がむくみ、昼過ぎになってもむくみが取れなかったM・Kさん。その後も、顔以外のむくみや、体重の増加など、様々な異変が続きました。
(1)原因不明の顔のむくみ
(2)顔以外のむくみ
(3)体重の増加
(4)急激な体重の増加
(5)疲労感
ネフローゼ症候群
<なぜ、顔のむくみからネフローゼ症候群に?>
「ネフローゼ症候群」とは、何らかの原因で腎臓の機能が異常をきたし、血液中の水分をコントロールするタンパク質が、尿として排泄され減少する病気。その結果、体内にどんどん水分が溜まり、最悪の場合、死に至ることもある病です。最も多く発症する世代は、10代から30代。患者数は毎年増加し続けています。はっきりとした原因はまだわかっていませんが、花粉症など、アレルギー体質の人に多いと言われています。そんなネフローゼ症候群の典型的な症状が、「むくみ」。では、普通のむくみと、どう違うのでしょうか?そもそもむくみとは、血液中の水分が外の細胞間に染み出し、その部分が膨れ上がってしまうこと。一般的には、疲労や睡眠不足、アルコール、水分・塩分の摂りすぎによって起きるもので、一過性のもの。時間が経つと、血管中の水分量を調整するたんぱく質が働き、次第に元通りになります。ところが、ネフローゼ症候群になると、その重要な役割を持つたんぱく質が尿に漏れ出し、減少。そのため、通常なら血管内に戻る水分が戻れなくなり、むくみが取れなくなるのです。M・Kさんの原因不明のむくみも、まさにこれ。しかし彼女は、いつものむくみと勘違いし、放っておいてしまいました。その結果、水分が血管の外に絶え間なく染み出し、血管に戻ることなく、一方的に体内に溜まっていってしまったのです。そして、3日で3キロ以上も体重が増えてしまいました。これこそが、ネフローゼ症候群を見極める重要なポイント。原因不明のむくみ、体重の急増などは、危険を知らせるサインだったのです。その後、さらに水分が失われ続け、血液の量が減少したM・Kさん。その結果、ひどい低血圧となり、激しい疲労感に襲われたのです。M・Kさんは、2ヵ月にわたる入院治療の結果、ようやく職場に復帰することができました。現在、ネフローゼ症候群の危険因子として考えられているのは、国民の3人に1人がかかっているといわれる花粉症などのアレルギー疾患。なんらかのアレルギーを持っている人は、より注意が必要なのです。
『本当は怖い足のむくみ〜澱んだ水風船〜』
Y・Yさん(女性)/56歳 パート
スーパーでレジを打ち続けて8年になる主婦のY・Yさん。立ちっぱなしの仕事の後は、足がむくみ、履いてきた靴も入らないほど。家にいる時ぐらいは楽にしたいと体を動かさず、テレビで好きな海外ドラマばかりみていました。そんなある日、夕方になると、なぜか足が重く、とてもだるくなり始めたY・Yさん。異変はそれだけでは終わりませんでした。
(1)足のむくみ
(2)足が重くだるい
(3)こむら返り
(4)湿疹
(5)皮膚のただれ
下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)
<なぜ、足のむくみから下肢静脈瘤に?>
「下肢静脈瘤」とは、足の静脈に血液が溜まることで、血管がコブのように膨れてしまい、放っておくと炎症を起こし、出血や潰瘍にまで発展する病です。ひざの裏側や、ふくらはぎ周辺に、血管がぼこぼこと浮き上がり、足全体に範囲が拡がっていくのが一般的な症状。しかし厄介なのは、その血管の浮き上がりが目立たないケース。それがY・Yさんのような「隠れ静脈瘤」。進行状況は一緒でも、目に見える症状が少ないため、発見が遅れてしまうことが多いのです。ではY・Yさんは、なぜ下肢静脈瘤になってしまったのでしょうか?彼女のように長時間の立ち仕事をしていると、足の静脈では、心臓へと戻れない血液が滞って圧力が高まり、血管の外に水分が染み出し、むくみが発生します。でも、ここまでは一般的な「足のむくみ」。通常、人間は、ポンプのような役割を持つ足の筋肉を動かすことで、溜まった血液を心臓に戻すことができるため、むくみも解消できます。さらに静脈内には、なんと一定の間隔で「弁」が付いています。これが血液の逆流を防いでいるのです。しかしY・Yさんは、長い間、立ち仕事を続けていたばかりか、家でもあまり足を動かすことがありませんでした。その結果、常に足の血管の圧力が高くなり、血液の逆流防止装置である弁が破壊されてしまったのです。静脈弁は一度壊れたら、再生は不可能。自然に治癒することはありません。こうなると、血液がどんどん末端に溜まり、さらに圧力が上昇。むくみも悪化の一途をたどります。そして、ついには足に老廃物が溜まり、周囲の細胞が炎症を起こすことに…。それが、あの「こむら返り」や「湿疹」の原因でした。この段階になると、炎症はなかなか治まりません。その結果、彼女の足は「ただれ」の状態にまで進行してしまったのです。幸いにも、静脈瘤を手術で取り除くことが出来たY・Yさん。現在は、無事、仕事に復帰しています。下肢静脈瘤は、長い時間立ち仕事をする人だけでなく、同じように足を動かさない座り仕事の人もなりやすいのです。そして推定患者数1000万人のうち、女性が7割を占めている、女性に多い病。特に40歳を過ぎたらご注意ください。