診察室
診察日:2008年2月26日

花粉症が引き起こす恐怖の病スペシャルテーマ:「本当は怖い夜の咳〜闇に潜む炎魔〜」
「本当は怖い倦怠感〜恐怖のスパイラル〜」

『本当は怖い夜の咳〜闇に潜む炎魔〜』

S・Tさん(女性)/45歳 用品店経営
下町で用品店を営むS・Tさんの悩みは、花粉症。彼女の花粉症は軽い方でしたが、今年は去年の2倍の花粉が飛んでいるせいか、まだ2月なのに、もうすでにクシャミが出ていました。さらにこのところ気になっていたのが、夜、布団に入ると、なぜか咳が出ること。翌朝には咳は止まるため、深刻には考えていませんでしたが、やがて更なる異変に襲われるようになります。
(1)夜の咳
(2)夜に激しい咳
(3)息切れ
(4)激しい咳
(5)呼吸困難
気管支喘息
<なぜ、夜の咳から気管支喘息に?>
「気管支喘息」とは、突然気管支が狭くなり、咳や呼吸困難などの発作を起こす病気。重症の場合は、死に至ることもある危険な病です。国内の患者数は900万人以上とも言われており、1年間に約3000人もの人が命を失っています。しかし、S・Tさんの病気は「軽い花粉症」だったはず。なのになぜ、喘息になってしまったのでしょうか?実は、花粉症と喘息には大きな関係があります。花粉症になると、喘息予備軍とも言われる、ある状態になることが多いのです。それが気道炎症(きどうえんしょう)。花粉やハウスダスト、ダニ、ディーゼルの排気ガスなど、アレルギー物質を日常的に吸い込むことで、気道に炎症が起きている状態です。S・Tさんも1年ほど前に、この炎症を起こしていたと考えられます。WHOの報告によると、花粉症の人の多くが気道炎症を併発しているというのです。さらに花粉症の人は、アレルギー体質のため、他のアレルギー物質にも反応しやすいことが分かっています。S・Tさんの場合も、花粉アレルギーを引き金に、店先で吸い込むディーゼルの排気ガスにも反応。気道炎症は慢性的になっていきました。その特徴的な症状こそが、あの「夜の咳」。昼は気管支の拡張をうながすアドレナリンが作用して、炎症の影響はさほど出ませんが、アドレナリンが減少する夜は、気管支が収縮し咳込んでしまうのです。この気道炎症自体は、特に心配するほどのものではありません。しかし彼女の場合、あるものが病を加速させてしまったのです。それこそが、大量の花粉。例年より多くの花粉を吸いこんだにもかかわらず、S・Tさんは、たまに薬を飲む程度。いい加減な対処しかしませんでした。その結果、鼻や口から入った花粉がアレルギー反応を起こし、気管支が収縮。そして肺に取りこむ酸素量が低下。これが、あの「息切れ」の原因でした。そしてあの日、店先を掃除しながら、またもや大量のスギ花粉を吸い込んだS・Tさん。スギ花粉と冷気の刺激によってアレルギー反応が急激に起き、気管が収縮。そこに炎症の影響で発生した、痰などの分泌物が詰まったことで、ついには「呼吸困難」に陥ってしまったのです。幸いS・Tさんは病院での措置が間に合い、一命をとりとめることができましたが、一歩間違えば命を失っていたかもしれません。日常的に夜の咳が出る場合は、喘息予備軍を疑い、検査をしてもらうことが大切なのです。
『本当は怖い倦怠感〜恐怖のスパイラル〜』
O・Tさん(男性)/41歳 サラリーマン
この春、念願の一戸建てを郊外に購入し、引っ越してきたO・Tさん。10年来のスギ花粉アレルギーに悩まされてきた彼は、花粉が飛ぶ時期は完全防備で乗り切っていました。5月に入り、ようやく悩ましい季節から抜け出したと思っていましたが、それからまもなくして、なぜか身体のだるさに襲われます。数日後、だるさもすっかり取れたO・Tさんは、お気に入りの河川敷を通って元気に出勤しますが、会社に着くとなぜか突然くしゃみや鼻水が出て、喉の奥がヒリヒリと痛むように。その後も気になる異変が加速していきました。
(1)倦怠感
(2)くしゃみ・鼻水
(3)喉の痛み
(4)皮膚の赤み
(5)めまい
(6)呼吸困難
(7)全身の腫れ
アナフィラキシーショック
<なぜ、倦怠感からアナフィラキシーショックに?>
「アナフィラキシーショック」とは、劇症型のアレルギー反応。入ってきた異物に身体が過剰に反応し、あらゆる場所が腫れ上がってしまう恐ろしい病です。最悪の場合、呼吸困難で死に至ることも。その原因の一つが、「花粉」なのです。もともとO・Tさんは、スギ花粉症でした。しかし5月に入り、花粉症は治まっていたはず。実は知らないうちに、彼は別の花粉症になっていたのです。一口に花粉症と言っても、種類は様々。50種類以上あるといわれています。O・Tさんは、スギ花粉症に加え、新たにイネ科の花粉症になっていました。河川敷などに多いカモガヤなど、イネ科の植物はスギ花粉が治まる5月頃から花粉をまき散らします。O・Tさんが訴えた、あの「倦怠感」や「喉の痛み」、「皮膚の赤み」は、そのイネ科の花粉に反応した証。しかし、その症状は、どれも「一時的」なものでした。イネ科の花粉は、遠くに飛ばず、近辺だけに一斉に大量飛散するのが特徴。そのため、その場所を通った時だけ、症状が出たのです。それにしても、なぜ単なる花粉症がO・Tさんのような最悪の事態を招いてしまったのでしょうか?実はアナフィラキシーショックは、花粉を吸っただけでは起きません。彼の場合は、不幸にも様々な要因が重なったのです。その一つが、食べたパン。実はパンに使われている小麦も、イネ科の植物。そのためイネ科の花粉アレルギーを持っていると、食べたパンにも反応しやすいのです。でも彼の小麦アレルギーは軽く、普段は特に症状は出ませんでした。しかし、この日はパンを食べた上に、さらに決定的なことをしてしまったのです。それが良かれと思って始めた、ジョギング。運動すると、呼吸が激しくなり、吸い込む花粉の量も増えます。さらに激しい運動をすることで、アレルギー反応が激化する事がわかっています。大量のイネ科の花粉、小麦の摂取、運動、この3つが重なると、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性が非常に高まるのです。O・Tさんも、まさにこの魔のスパイラルで、激しいアレルギー反応を起こし血圧が低下。神経異常をきたし「呼吸困難」、そして体中が真っ赤に腫れあがってしまったのです。幸い、すぐに病院に運ばれ、一命をとりとめたO・Tさん。しかしそれ以来、お気に入りの河川敷も、イネ科の花粉が飛ぶ季節は、立ち入り禁止となってしまいました。スギ花粉症の人は、その他の花粉アレルギーを始め、様々なアレルギーを引き起こす可能性が高いので、くれぐれもご注意を。