診察室
診察日:2008年8月19日
テーマ:「本当は怖い食欲不振〜見えない異変〜」
「漢方治療最前線!東洋医学研究所ドキュメント」

「本当は怖い食欲不振〜見えない異変〜」

I・Yさん(男性)/45歳(発症当時) 会社員
都内のメーカーに勤めるI・Yさんのもとに、人事異動で年下の上司が配属。しかも、I・Yさんは、今まで付き合いのあった下請けに値下げ交渉をするという嫌な役を任されてしまいました。そんなある日、なぜか食が進まず、胸焼けのような感覚まで覚えたI・Yさん。夏バテと思い、大して気にも留めていませんでしたが、その後も様々な異変が続きました。
(1)食欲不振
(2)差し込むような胃の痛み
(3)再び胃が痛む
(4)再び差し込むような胃の痛み
(5)みぞおちが焼けるように痛む
機能性胃腸症(きのうせいいちょうしょう)
<なぜ、食欲不振から機能性胃腸症に?>
「機能性胃腸症」とは、胃の組織に異常がないにも関わらず、胃もたれや胃痛などの症状を引き起こす病です。この病は、実に日本人の4人1人が患ったことがあると考えられ、安倍前総理が体調不良で辞任する原因となった病と言われています。通常、胃の痛みなどの症状は、潰瘍やガンなどの炎症や出血で起きるもの。そのため、内視鏡検査で異変が見つかります。しかし、この病は症状だけが起こり、胃には何ら異変が起きないため、内視鏡検査では発見することができないのです。では、なぜ胃に異変がないのに症状が起きるのでしょうか?考えられるひとつの原因は、ストレス。I・Yさんの場合、新しい上司がかなりの精神的ストレスとなり、胃に負担がかかっていたと考えられます。実は胃や腸といった消化管の壁には、脳に匹敵するほどの神経細胞が張り巡らされています。そのため、消化管の壁は、「第2の脳」と呼ばれるほど神経が細やかなのです。この消化管の神経は、脳の自律神経と直結しているため、ストレスが脳を刺激すると、その刺激が直接胃に伝わり、胃の血液の流れを悪くしてしまいます。すると、それが原因となり、胃の運動機能が低下し、様々な症状が現れます。I・Yさんの場合は、ストレスが職場にあったため、働いているときに症状が出るのはもとより、明日職場に行かなければならない…そう考えてしまう日曜にも症状は出ていました。そう、ストレスがある時に症状が現れ、無い時には消える…。それこそが、機能性胃腸症の大きな特徴なのです。ようやく病がわかったI・Yさんには、漢方薬が処方されました。実は最近、機能性胃腸症の治療には漢方薬が使われ始めています。それは「六君子湯(りっくんしとう)」という8種類の生薬で出来た漢方薬で、元々は食欲不振や胃炎の治療などに使われていたもの。この薬が非常に効果があることが明らかになってきたのです。機能性胃腸症は、比較的新しい病のため認知度が低く、何より検査で異常が見られないことから、ドクターショッピングを繰り返したり、精神的な病に陥ってしまったりする危険もあります。 だからこそ病のことを知り、ストレスを溜め込まないよう心がけることが大切なのです。
「東洋医学研究所ドキュメント」
K・Mさん(女性)/49歳(発症当時) 主婦
数年前から肩こり、冷え性などの症状に悩みながらも、今まで病院に行くことはなかったK・Mさん。50歳近くなり、体調にも色々つらいところが出てきたため、漢方で改善されるならと、診察を受けることを決意。東京女子医科大学・東洋医学研究所を訪ね、佐藤弘先生の治療を受けることになりました。
(1)肩こり
(2)冷え性
血(おけつ)」とは、東洋医学で血が滞っている状態のことを言います。K・Mさんの場合、血液がドロドロした濃縮型血液になり、全身の血の流れが停滞。体の各部分に酸素や栄養が行き渡らなくなったため、冷え性や肩こりといった症状が起こったと考えられるのです。そこで、この日は、まず漢方薬が処方されました。この薬で次の検査まで一旦、様子を見るのです。K・Mさんに処方されたのは、体を温め、血流を良くする効果のある『当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)』。この漢方薬を2週間内服し、その効き目と次回の診察時に出る血液検査の結果をあわせて、K・Mさんが真の「未病」なのか、最終的に判断するのです。2週間後、再び、佐藤先生のもとを訪れたK・Mさん。漢方薬を飲んだ結果、体調も徐々に良くなり、冷え性や肩こりの症状も改善。血液検査の結果も異常がなく、最終的に「未病」の診断が下りました。再び、同じ漢方薬が処方され、肩こりと冷え性に対処することに。しかし、これで終わりではありません。血液検査だけではわからない病の存在を、超音波検査と骨密度検査で念のためチェック。ありとあらゆる角度から患者の悩みの原因を探し出す・・・。それが佐藤先生の目指すところなのです。西洋医学と東洋医学の融合は、まだ始まったばかり。佐藤先生はこの方法で、さらに多くの患者を救いたいと、日夜研究を続けています。