診察室
診察日:2008年12月2日
テーマ:「本当は怖い検査嫌い〜失われた9年間〜」
「3泊4日で治る!最新胃ガン手術」

『本当は怖い検査嫌い〜失われた9年間〜』

M・Yさん(男性)/44歳 会社員
中堅メーカーの営業課長、M・Yさん。大の検査嫌いで、まだ40代の自分は大丈夫だろうと1度も健康診断を受けていませんでした。しかし、実はこの時すでに彼の体内ではある恐ろしい病が発症し、タイムリミットがあと9年後に迫っていました。病の発症から8年後、食後にみぞおち辺りに鈍く痛みを感じるようになったM・Yさん。しかし、痛みは軽く、しばらくすると消えたため、彼は病からの警告を完全に無視してしまいました。
(1)食後にみぞおち辺りが鈍く痛む
(2)みぞおちの痛みが消える
(3)胃が張っているような膨満感
胃ガン
<なぜ、検査嫌いから胃ガンに?>
 「胃ガン」は、ガンの中で、日本における患者数が最も多い病。毎年5万人以上の命を奪う、胃の悪性新生物です。
 胃ガンの最大の原因がピロリ菌。ピロリ菌は40歳以上の実に7割の胃に潜んでいる細菌で、胃に侵入し数十年という長い年月をかけて粘膜を刺激。本来ヒダに覆われた胃の粘膜を、徐々に薄くただれさせていきます。それが「萎縮性胃炎」。ガンができる寸前の極めて危険な状態です。M・Yさんの場合も、子供の頃ピロリ菌に感染し、40年以上かけて、胃ガンを発症させてしまったと考えられるのです。
 それでも胃ガンは比較的進行が遅い病。発症からおよそ9年間は、早期の状態で留まっています。ほとんど自覚症状がないのですが、この9年の内に適切な治療を受ければ、5年生存率は97%、ほとんどの人が完治できるのです。M・Yさんも、44歳の時すでに胃ガンを発症。最初は全く無症状でしたが、この時内視鏡検査を受けていれば、早期発見の可能性もありました。しかし、検査嫌いがガンの進行を許し、9年のうち8年をムダに過ごしてしまったのです。
 残された時間は、あと1年。ここで幸いにもM・Yさんは、数少ない胃ガンの症状に襲われます。食後に生じた、みぞおち辺りの鈍い痛みです。これは、胃ガンが作った潰瘍(かいよう)が原因。ガン細胞は脆いため、一部が崩れると、そこが潰瘍になることが多いのです。食後にだけ起きた鈍い痛みは、食べ物が入ってきた時に胃散が一気に分泌され、それが潰瘍を刺激したものでした。
 そして胃ガンの潰瘍のもう一つの特徴は、2〜3ヵ月すると痛みが治まってしまうこと。実は潰瘍ができたところに、再びガン細胞が増殖。潰瘍を埋め尽くすことで、痛みが治まるのです。このように胃ガンの潰瘍は、出来ては治ることを繰り返していきます。ついに9年という期限を踏み越えたガンは、胃壁の深い層にまで侵入。こうして発症から10年、ようやく検査を受けて発見されたガンは、すでに中期の段階に達していました。その結果、胃の4分の3を摘出する大手術が必要となり、しかも術後の5年生存率は、75%という厳しい現実が待っていました。年に1度、胃の検査さえしていれば、こんなことにはならなかったはずなのに・・・。
『3泊4日で治る!最新胃ガン手術』
K・Yさん(男性)/73歳
今年9月、胃ガンを宣告されたK・Yさん。再検査で測定した結果、ガンは直径2p程度の隆起型と判明。幸い早期のものだったため、最新の内視鏡手術を勧められました。そして2008年10月下旬、日本有数のガン専門病院「癌研有明病院」で手術を受けることになりました。
早期の胃ガン
<最新胃ガン手術「ESD・内視鏡的粘膜下層剥離術」とは?>
 「ESD・内視鏡的粘膜下層剥離術」とは、5層ある胃壁の上から2番目「粘膜下層」にヒアルロン酸を注入。患部を盛り上げてガン細胞を削ぎ取る、内視鏡を使った手術法。
通常の胃ガン切除手術の場合、開腹し胃の半分以上を摘出するため、最低でも2週間の入院が必要です。しかしESDなら患者の負担は大幅に軽減され、傷口も最小限。その結果、3泊4日という短期間で退院できるようになったのです。
 ESDの手順は、次の通り。まず鎮静剤で患者さんの意識をなくします。次に口から内視鏡を挿入。病変部のガンを確認します。続いて、胃壁全体に染色液を散布。ガンと正常な組織の境が、はっきり見えるようになります。それから電気メスを使い、ガンを囲むように印をつけます。次に5層ある胃壁の2層目、厚さわずか2〜3ミリの粘膜下層に、ヒアルロン酸を注入。切除する部分を盛り上げます。
 そして「ITナイフ2」と呼ばれる最新の電気メスで薄く削ぐように患部を切除し、あとは摘出するだけです。最後に患部の出血を止める、止血クリップをセット。止血クリップは傷が治れば自然にとれて体の外に排出されます。これで手術は完了。順調にいけば、全行程で1時間程度。開腹手術に比べ、わずか3分の1というスピードです。
 実際に午後2時過ぎに始まったK・Yさんの手術は、およそ1時間半後、無事成功しました。入院2日目、切除した部分に出血がないかを内視鏡で確認。術後の経過は良好で、昼食からはもう流動食の食事が出来るように。入院3日目からは固い物を含む食事を3食食べることが出来ました。そして4日目、K・Yさんは3泊4日のガン治療を終え、無事退院したのです。