診察室
診察日:2009年2月24日
テーマ: 『本当は怖いタバコを吸う言い訳〜煙にまかれた人生〜』

『本当は怖いタバコを吸う言い訳〜煙にまかれた人生〜』

T・Yさん(男性)/50歳 会社員
大手メーカーの営業部長、T・Yさんは、喫煙歴30年の愛煙家。咳や痰が出るのは長年の喫煙のせいと自覚し、内心では禁煙したいと思っていました。しかし、タバコを1本吸うだけで仕事に集中できるため、なかなか止められません。そんなある日、ついに禁煙を始めたものの、その途端イライラが募り、結局三日坊主に。何かと言い訳をしては、再びタバコを吸うようになってしまいます。5年後、風邪をひいたにも関わらず、大事な営業があったため無理を押して出社したものの、突然、呼吸困難に襲われます。
(1)呼吸困難
COPD(慢性閉塞性肺疾患 まんせいへいそくせい はいしっかん)
<なぜ、喫煙からCOPDに?>
 「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」とは、主に喫煙が原因で気管支や肺の組織が壊れ、肺が膨らんだまま動かなくなってしまう病です。現在、年間40万人もの人がこの病を発していますが、実は潜在的な患者数は、その10倍以上、530万人と考えられ、年々増加の一途をたどっているのです。しかも患者の95%が喫煙者。喫煙者の4人に1人は、COPDになると考えられています。T・Yさんの場合も喫煙が原因でした。
  では一体、なぜタバコを止める事ができなかったのでしょうか?その原因は、意思が弱いという問題だけではなく、実はタバコと脳との密接な関係にあったのです。そもそも私達の脳は、ドーパミンやノルアドレナリン等といった神経伝達物質を日常的に放出しています。これらの物質には、幸せを感じたり、緊張を取り除くといった働きがあり、これにより普段、平静を保つことができています。ところが一旦喫煙すると、ニコチンが毛細血管の中に侵入して脳に到達。すると、ニコチンが脳に代わって神経伝達物質を放出する命令を出してしまうのです。これを繰り返すことで、次第に脳は喫煙をしないと、神経伝達物質を出さなくなってしまいます。脳自体がニコチンを求め続けてしまうのです。
  こうなると、一旦禁煙をしようとしても、ドーパミンなどが分泌されない脳は不安を感じ、その機能が低下。ストレスに支配され、喫煙しないとイライラする状態に。そしてT・Yさんは、酒の席で禁を解いてしまいます。そう、この状態こそがニコチン依存症。喫煙を止めようとしても神経伝達物質が不足している脳の指令により、ついついタバコを吸ってしまうのです。つまり脳がニコチンに大きく依存してしまっているのです。
 では、この喫煙によって変化してしまった脳は、もう元に戻らないのでしょうか?実は2週間ほどニコチンを断てば、脳は喫煙する前と同じ量の神経伝達物質を分泌するようになると言われています。だからこそ、禁煙をすると2週間はしっかり様子を見ることが大切なのです。