診察室
診察日:2009年4月14日
夫婦で気をつける病気スペシャル
テーマ:
『夫婦関係が引き起こす病(1)〜本当は怖い妻の小言〜』
『夫婦関係が引き起こす病(2)【うつ病】〜萩原流行・まゆ美夫妻の場合〜』

『夫婦関係が引き起こす病(1)
〜本当は怖い妻の小言〜』

Y・Jさん(男性)/50歳 会社員
今から22年前、才色兼備のお嬢様に一目惚れしスピード結婚したY・Jさん。しかし結婚10年目になると、景気が傾き仕事のことで頭がいっぱいの夫と、子供の教育問題に熱心な妻との間に意識のズレが生じ始めます。すると、夫婦の会話を避けるようになった夫に対し、妻は何かにつけて“小言”を言うように・・・。さらに、妻に内緒で転職し、以前に比べて給料が減ったことを責められると、夫は健康診断で高血圧症と診断されてしまいます。そして結婚から20年経ち、例によって妻にしつこく小言を言われ、ほろよい気分のまま就寝した夫。ところが早朝4時頃、突然、胸の鼓動が激しくなる動悸と息切れを感じ、動くことすらままならなくなります。
(1)動悸・息切れ
(2)激しい動悸・息切れ
心房細動(しんぼうさいどう)
<なぜ、妻の小言から心房細動に?>
 「心房細動」とは、心臓の心房という部分の筋肉が1分間に350回以上の激しい痙攣を起こす病のこと。長時間この心房細動が持続すると、心房の中に1〜2cmの巨大な血液の固まり(血栓)が生じ、それが血流によって脳に運ばれ、脳梗塞を引き起こします。こうした心房細動の患者は全国で約100万人、潜在的には200万人を超えるとも言われています。
 そんな心房細動の最大の原因は、ストレス。Y・Jさんの場合、仕事でのストレスに加え、家庭でも大きなストレスがありました。そう、「妻の小言」です。
 家に帰ってもリラックスできず、職場と家庭、両方のストレスに一日中さらされ続けていたのです。そして、ストレスがかかり続けた体内では、交感神経が過敏になり血管が収縮し、高血圧になってしまいました。そうとも知らずに、ストレスから解放されようと多量の飲酒で生活習慣が乱れ、高血圧はさらに悪化の一途をたどります。
 ではなぜ、高血圧だと心房細動になってしまうのでしょうか?通常、心臓は洞結節と呼ばれる場所からの電気信号で動いています。しかし、高血圧の状態が続くと、心房の入り口の血管、肺静脈に圧力がかかり、そこから異常な電気信号が発生してしまうのです。結果、心臓の動きが乱れてしまい、「心房細動」が発生してしまうと考えられています。
 こうして、いつ心房細動が発生してもおかしくなかったY・Jさんは、最終的に浮気の疑いをかけられるという大きなストレスに襲われ、激しい心房細動の発作を起こしてしまったのです。
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『夫婦関係が引き起こす病(2)【うつ病】
〜萩原流行・まゆ美夫妻の場合〜』

萩原流行さん(男性)/56歳
萩原まゆ美さん(女性)/56歳
俳優
主婦
同じ劇団の役者仲間として知り合い、22歳の時に結婚した萩原流行さんとまゆ美さん。映画にテレビに活躍の場を広げる夫の姿を見たまゆ美さんは、女優をやめ専業主婦となることを決意。家事一切を取り仕切り、何でも妻に任せがちな夫を支え始めます。結婚から10年以上が経ち新居を購入した際も、全て一人で事を進めました。しかし、引っ越しの片付けも終わり一息ついた彼女に異変が現れます。新聞を読もうとしてもなぜか集中できず、強い倦怠感にも襲われるようになったのです。さらに、異変は流行さんの身にも起こり始めました。
(1)新聞に集中できない
(2)強い倦怠感
(3)理由もなく涙があふれる
(1)テレビの音が早くなったり、遅くなったりするように聞こえる
(2)台詞が出ない
うつ病
<なぜ、荻原流行夫妻はうつ病に?
 「うつ病」とは、脳の神経伝達物質の分泌に異常が起きることで憂鬱な気分になり、日常生活に大きな支障をきたす脳の病気。推定患者数は、約400万人、いま急増しつつある病です。発症にいたる主な要因は「性格」「ストレス」です。
 性格のなかでリスクが高いのは、「メランコリー親和型」と呼ばれる、責任感が強く気遣いが細かい性格や、「執着気質」と呼ばれる、几帳面で完璧主義的な性格の持ち主。萩原まゆ美さんは、両方の性格を持ちあわせていました。
 任せっきりの夫と、それをひたすら支える妻という夫婦関係から、まゆ美さんにはストレスが徐々に蓄積。そこへ、引越しという更なるストレスがのしかかり、ついに、うつ病を発症してしまったと考えられます。病の原因は、円満だと思っていた夫婦関係の中に潜んでいたのです。
 まゆ美さんに病が発症して以来、妻に任せっきりという流行さんの暮らしは一変。朝、まゆ美さんが起きられない時は、自分で支度をし、そっと出かけるようにするなど、新たな生活を受け入れました。しかし、この時、すでに病魔は夫・流行さんの身にも忍び寄っていたのです。
 この年、38歳になった流行さんは、大きな舞台の主役を熱演、見事大役を果たしました。ところが、公演終了から3日後の朝、出かける前にテレビを見ると音が奇妙に聞こえます。撮影現場でも、なぜかセリフが出てきません。そして急遽かけつけた病院で、「うつ病」という診断を下されたのです。
 全てを任せきりにできなくなり、徐々にストレスが溜まっていった流行さん。そこに一世一代の大舞台という、更なるストレスが積み重なった結果、ついに彼も病を発症してしまったと考えられます。こうして仕事と病気との板挟みの中、流行さんはますます病を悪化させてしまいます。
 そんな彼をただ一人温かく支えてくれた存在が、病の先輩ともいえる妻・まゆ美さんでした。奇しくも同じ病になってから、夫婦関係は大きく変わっていきました。互いが互いの様子を見守り、自分のことのように思いやるようになったのです。
 うつ病は、いつ誰が発症してもおかしくない病。時には、夫婦関係がその引き金を引いてしまうことも。だからこそ大切なのは、二人の日頃の暮らしぶり。きちんと相手の心に向き合い、互いを思いやることこそが、夫婦の絆を強め、病の危険から守ってくれるのです。
うつ病を発症しやすい性格問診