診察室
診察日:2009年8月4日
夏休み!お盆に気をつける病SP
テーマ:
『本当は怖い夏休みの旅行〜行楽に潜む赤い暴走魔〜』
『本当は怖い家での夏休み〜見えざる魔物の棲む部屋〜』

『本当は怖い夏休みの旅行〜行楽に潜む赤い暴走魔〜』

K・Yさん(男性)/66歳 会社員(発症当時)
4年前の夏休み、会社の同僚と栃木県へ1泊2日の慰安旅行に出かけたK・Yさん。ワゴン車に乗った一行は、片道3時間半の道のりを休憩も取らず日光まで。昼食後、名所を巡りながら夏の日光を満喫しましたが、車での移動を考慮して水分を控えていたK・Yさん。宿では露天風呂で旅の疲れをいやし、夜の宴会ではつい飲み過ぎてしまいます。翌日、帰路につくも渋滞に巻き込まれ、4時間以上も車中で過ごし旅を終えました。
そんな彼に最初の異変が現れたのは、旅行から帰った翌日のこと。日課の散歩に出かけると、突然、胸を締め付けられるような息切れに襲われました。そして2日後、ついに決定的な事態が訪れるのです。
(1)息切れ
(2)呼吸困難
肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)
<なぜ、夏休みの旅行で肺血栓塞栓症に?>
 「肺血栓塞栓症」は、かつてエコノミークラス症候群とも呼ばれ、飛行機での長距離移動で発症する病も、この一種。
 「肺血栓塞栓症」とは、静脈の血流が何らかの理由で滞った時にできる血の塊、血栓が肺の動脈に飛んで、詰まることで、呼吸困難や動悸を引き起こし、最悪の場合、突然死に至る恐ろしい病です。その特徴は、サッカー元日本代表の高原選手が発症したことからもわかるように、健康上問題の無い人にでも起こること。
 では、K・Yさんには、いつ血栓ができてしまったのか?答えはもちろん、1泊2日の旅行中にありました。それは、長時間、車の中で座り続けたこと。彼のひざは、座席に押しつけられ、ひざ下の静脈が圧迫されていました。すると、静脈の血流が悪くなり、ふくらはぎ付近に血がたまる「うっ滞」と呼ばれる状態に。それが長時間続き、血液凝固物質が血管の壁にくっつき、血栓が出来たと考えられるのです。そもそも人間の足は、ふくらはぎの筋肉を動かし、心臓へ血液を送り返すポンプの役割を果たしています。同じ姿勢で座っているだけでは、その役割を果たせず、うっ滞を加速させてしまうのです。
 では、その移動中に、どんな所に注意をすれば病のリスクを下げることが出来るのでしょうか?それは、「3時間以上の移動」に注意をすること。イギリスで発表された論文によると、3時間未満のフライトではこの病の発症例は無く、WHOでも、4時間以上の搭乗で肺血栓塞栓症のリスクが2倍になると警告しています。K・Yさんの旅行でも、3時間以上の移動が2回ありました。
 しかしなぜ、あの旅行で彼だけに血栓が出来てしまったのでしょうか?その原因は他の3人より水分を控え、長風呂に入り、多めのアルコールを摂取したこと。すると、血液中から水分が失われ、血栓が出来やすい状態だったと考えられるのです。どんな健康な人でも、発症することがあるこの病。長距離移動をする際は、最低でも2時間に1度は休憩をとるようにしましょう。

『本当は怖い家での夏休み〜見えざる魔物の棲む部屋〜』

T・Tさん(女性)/74歳 無職
半年前、夫に先立たれ、一人田舎で暮らしてきたT・Tさん。彼女を心配する娘に誘われ、都会に住む娘夫婦の近くのアパートで一人暮らしをすることに。昔からクーラーをほとんど使ったことがない彼女は、暑い日でも冷房をつけず、人目を気にして窓も一つしか開けていませんでした。
そんなある日、孫のかばん作りに精を出していると、いつになくだるさを感じ集中できなくなります。その後、娘たちからのバーベキューの誘いを断り、家で過ごすことにした彼女を、さらなる異変が襲いました。
(1)だるい
(2)立ちくらみ
熱中症
<なぜ、T・Tさんは熱中症に?>
 「熱中症」とは、猛暑などによる気温の上昇から体内に溜まった熱を下げられず、体温が異常に上がることで、様々な障害が出る病のこと。最悪の場合、死に至ることもあります。
 毎年、夏になると急増する熱中症。その患者の半数近くを占めるのが、実は60歳以上の方々なのです。そもそも私たちは、全身の知覚神経の働きによって、暑さ、寒さの気温の変化を感じ取っています。しかし、年齢とともに、この機能は衰え、高齢者は2度から4度も暑さや寒さを感じなくなってしまうのです。
 では、そんな高齢者が、最も熱中症を発症しやすい場所はどこなのか?それは、「室内」。東京消防庁の調べによると2007年、60歳以上の患者のうち、家の中で発症したケースが実に6割近くまで達するのです。ではなぜ、日差しが照りつける外より、部屋の中の方が危険なのでしょうか?実は、夏は日差しの強い外より、室温の方が高くなるのです。国土交通省のデータによれば、部屋に2箇所の窓がある場合でも、窓を閉めていると、外より9℃も高くなることが分かっています。一方、2つとも窓を開けておくと、温度の上昇は2.8℃。そう、風通しを良くすることが何より大切なのです。
 では、1箇所しか窓を開けていなかったT・Tさんの家の風通しは、どうなのでしょうか?木造の部屋で実験してみると、窓が部屋の左右2箇所にある場合、部屋の左側から風速1mの風で煙を入れると、空気が循環して、部屋に風が通っている状態であることがわかりました。一方、1箇所しか窓が開いていない場合、ほとんど風が通らなくなり、煙は部屋の外に流れてしまいました。実際、T・Tさんが開けていた窓も1箇所だけ。これでは外から風が吹いても、ほとんど風が入ってこなくなるため、窓を閉め切っている状態に近くなるのです。
 さらに彼女が住んでいたのは、アパートの2階。真夏では屋根の温度が約60℃にも達し、天井に断熱材が少ないアパートの2階では、熱がそのまま部屋の中に伝わるため、1階よりも室温が上昇しやすいのです。そのため、気温32℃の真夏日に、室内は9℃高くなり、彼女の体温も41℃にまで上昇したと考えられます。結果、高熱によって脳の働きが阻害され、ついには意識不明に陥ってしまったのです。