診察室
診察日:2009年10月27日
がんになっても長生きできるSP
テーマ:
『104歳から学ぶ!がんになっても長生きできる生活習慣』
『延命への望み 末期がん患者を救う最新治療』
<テーマ>

『104歳から学ぶ!がんになっても長生きできる生活習慣』

氏名/年齢

山崎まつさん(女性)/104歳

職業 自営業
 東京・大田区にある老舗の乾物屋で働く山崎まつさんは、御年104歳。接客から商品の仕入れ、管理までこなす店の大黒柱ですが、実は今から33年前、直腸がんを患った元がん患者です。一度がんを経験した人は、様々な理由からそうでない人より、2度目のがんになる可能性は高くなるといいます。しかし、まつさんは、治療をした後、再びがんになることなく、今日まで元気に生き抜いてきました。高齢化が進む日本でも、100歳を超える長寿の人は、わずか0.03パーセント。1万人に3人。さらにその中で、80歳までにがんなどの3大疾患を経験した人は、10人に1人という研究結果も。ではなぜ、まつさんは、がんを乗り越え長生きできたのでしょうか?彼女の生活に密着して秘密を探りました。
<まつさんの1日>
 まつさんは、朝6時半起床。お化粧など朝の身支度をすませると、自分で朝食を作ります。取材した日は、インゲンと油揚げの煮物、ウィンナーなど品数豊富な朝食を完食。そして午前10時40分、お店まで片道200メートルの距離を歩いて出勤。お店に到着し、レジ前の定位置に座ると、ご近所の顔なじみとおしゃべり。これが何よりの楽しみだといいます。午後2時、遅めの昼食。この日は、稲荷寿司と太巻きを食べました。そしてお客さんがやって来ると自ら接客。レジの操作も完璧です。午後4時、おやつの時間。この日はブドウを食べました。そして午後6時、店の仕事を終え帰宅。朝と同じように、10分かけて200メートルの道のりを歩いて帰ります。この日は、娘さんが夕食を作りに来てくれました。メニューは、海老フライ、がんもどき、酢の物、おひたしと、やはり品数豊富。デザートは、旬の柿です。食後の楽しみは、テレビのスポーツ観戦。こうしてまつさんの1日は終了。就寝は、午後9時10分でした。
<まつさんの生活に隠された「がんになっても長生きできる秘密」とは?>
 ごく普通に見えるまつさんの生活。このどこに「がんになっても長生きできる」秘密が隠されているのでしょうか?愛知県がんセンター研究所・室長で、疫学研究のスペシャリスト、松尾恵太郎先生に分析をお願いしました。まつさんの1日を見た先生が、最初に注目したのは食事。中でも目に留まったのは大豆でした。実は複数の疫学研究で、大豆のイソフラボンが乳がんのリスクを下げることが報告されていると言います。アジア人女性を対象にした研究では、20mg以上の大豆イソフラボンを毎日摂っていると、5mg以下に比べ、乳がんのリスクが、約30パーセント減少する傾向が見られました。この日、まつさんが食べていた大豆製品をイソフラボンの量に換算すると、約71mg。これが2度目のがんのリスクを下げているのではないかというのです。
  そしてもう一つ、先生が注目した食べ物が果物。果物が大好物というまつさんは、マンゴー、ブドウ、カキと3種類も食べていました。「愛知県がんセンターの疫学研究では、女性の胃がんは毎日果物を食べていることでリスクが下がることがわかっている」という松尾先生。ではなぜ、大豆や果物は、がんのリスクを下げるのでしょうか?大豆イソフラボン研究の権威、武庫川女子大学、家森幸男先生は、「女性ホルモン、エストロゲンが強すぎると乳がんを起こしやすいのですが、イソフラボンはエストロゲンの強すぎる作用を邪魔してくれる。だからがんを抑える作用があると考えられる」と言います。そして、果物の働きについて伺ったのは、栄養学のスペシャリスト、順天堂医院の高橋徳江先生。高橋先生は、「まつさんの食べているマンゴー、ブドウ、柿には、がんの発生を抑える抗酸化作用がある」と説明します。マンゴーや柿に含まれるベータカロテンや、ブドウのアントシアニンなどの成分には、DNAを損傷させることでがん発生の原因となる「活性酸素」を取り除く効果があると考えられているのです。
 では、食事以外のポイントは?高齢者医療のスペシャリスト、東京都健康長寿医療センター、新開省二先生が注目したのは、運動。まつさんが今でも体力を維持し、日々、活発な身体活動を行っていることが食欲増進や免疫力を高めることにつながり、がんの予防に役立っていると言います。
 というわけで、名医がまつさんの生活習慣から見つけた「がんになっても長生きできるポイント」は、次の3つです。
<まつさんの生活習慣のポイント>
(1)大豆イソフラボンの摂取 ※食物による摂取
(2)果物(1日200g程度)の摂取
(3)活発な身体運動
<がんのリスクを高めてしまう糖尿病、そのメカニズムとは?>
 さらに松尾先生は、まつさんが多くの日本人が抱えるある病になっていないことも重要だと言います。その病とは、糖尿病。糖尿病の人は、がんのリスクが、そうでない人に比べ、約2割高くなっていることが報告されているのです。ではなぜ糖尿病が、がんのリスクを高めてしまうのか?糖尿病の権威、東京医科大学の小田原雅人先生に伺いました。「特に肥満を伴う場合に顕著ですが、糖尿病ではインスリンの働きが悪くなります。その結果、インスリンが過剰に分泌され、多くが血中に止まります。その過剰なインスリンががん細胞の増殖につながるケースがあるのです」と言う小田原先生。
 がんのリスクを上げることをやらず、リスクを下げることを続ける。これが、がんになっても健康で長生きできる秘訣なのです。
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『延命への望み 末期がん患者を救う最新治療』

W・Hさん(男性)/69歳 --
今から6年前、肝臓に進行がんが見つかり、肝臓の3分の2を切除したW・Hさん。
しかし、1年半後に再発。さらに1年後には肺などにも転移が見られ、一度はこれ以上効果のある治療の手立てがないところまで追い込まれました。
しかし、今臨床試験中の最新治療に一縷の望みをかけ、千葉県にある国立がんセンター東病院にやってきたのです。
<末期がん患者を救うペプチドワクチン療法とは?>
 W・Hさんの治療にあたるのは、国立がんセンター東病院の中面哲也先生。W・Hさんは、先生が臨床試験を行う「ペプチドワクチン療法」と呼ばれる治療法に命を託したのです。「ペプチドワクチン療法」とは、免疫力を高めることで、がんの進行を遅らせるというもの。そもそも、全てのがん細胞には、表面にアミノ酸でできた「ペプチド」と呼ばれる成分が付いています。この「ペプチド」を人工的に作り出し、体内に投与すると、免疫細胞が異物とみなして増殖します。そして同じペプチドが付いたがん細胞を攻撃、殺してしまいます。こうして、がんの増殖を遅らせることで延命を図るのです。W・Hさんには、肝臓がんのペプチドワクチンが3回に渡って投与され、がんの大きさを測定。その効果を判定します。治療は1回に30mgのペプチドワクチンを注射するだけ。こうして6月22日に1回目のワクチン投与を受けたW・Hさん。果たして、がんの増殖は抑えられるのでしょうか?
 7月7日、2回目の治療の日。この日は注射に加えて、1回目の治療の効果が伝えられます。目安となるのは、2つの腫瘍マーカーの数字。治療前の値より下がっていれば、ワクチンの効果があったという目安になります。W・Hさんは2つとも数値が下がっており、結果は順調でした。
<ペプチドワクチン療法で、生活にどんな変化が・・・?>
 「ペプチドワクチン療法」で、W・Hさんの生活に何か変化はあったのでしょうか?まず変わったのは、副作用がほとんどないため、食欲が戻ったこと。以前のように食べ物をおいしく感じられるようになりました。奥さんも「去年はもう駄目かも知れないと思っていたのが、この数ヵ月だけでも家庭の中が明るくなった」と語ります。さらに取材中、久しぶりに夫婦でドライブにも出かけました。
 9月2日、ついに治療の最終結果が伝えられる日。もし効果が見られなかった場合、治療はこれで打ち切り。「ペプチドワクチン」は、がんの進行を抑えることができたのでしょうか?その基準は、がんがどれぐらい大きくなっているか?数個のがんの直径を合計し、治療前より20パーセント以上大きくなっておらず、新しいがんも発生していなければ「安定」、つまり成功となります。
 W・Hさんの結果は、安定。免疫細胞も増え、効果ありと判断されたW・Hさんは、引き続き治療を続けることになりました。現在は臨床試験中のため、誰もが受けられるわけではない、このペプチドワクチン療法。末期がんの患者さんに希望を与えるべく、5年後の実用化を目指しています。
※国立がんセンター東病院では、現在は新たな患者さんは受け付けておりません