月〜金曜日 18時54分〜19時00分


大阪の美術館 

 大阪府下には公立の美術館のほかに個人や企業の蒐集品を展示した企業美術館、個人美術館も多い。これらの収蔵品の中には国宝や重要文化財に指定された貴重な美術品もある。今回はこうした美術館を訪ね展示品や収蔵品を紹介する。しかし、長引く経済の低迷で企業の業績が振るわず、美術館の維持にも危機が押し寄せている。


 
出光美術館  放送 3月17日(月)
 大阪・中央区南船場の13階建ビル最上階にある出光美術館では2003年3月23日まで、「陶−技と大地のエネルギーのハーモニー」をテーマに、出光コレクションの中核所蔵品の中国陶磁器の展示と歴史を紹介している。この展示会は新石器時代に黄河中流域で作られた土器から埋葬用の祭器まで約120点が展示されているが、中心は景徳鎮で作られた明、清代の陶磁器である。
 出光美術館は出光興産の創業者・出光佐三氏のコレクションを公開するために東京でオープン、平成元年(1989)に大阪でも開館した。大阪の美術館はオープン以来約60万人の来館者があり、最盛期の平成4年(1992)には年間10万人が訪れた。その後、来館者の減少が続き、長引く景気の低迷で企業の文化事業も困難になってきたのと、関西での公開の目的を果たしたとして、今回の展示を最後に3月23日をもって惜しまれつつ閉館する。

青花龍文壺(中国・明時代)

(写真は 青花龍文壺(中国・明時代))

灰陶加彩楽人(中国・唐時代)

 本国の中国を除いてこれほど幅広く重要な中国の陶磁器を所蔵している所は数少ないと言われている。陶磁器とは土器、陶器、磁器の総称で、日本では磁土を用いた焼き物を磁器、陶土(粘土)を用いたものを陶器として区別している。中国では釉薬のかかったものを磁器、釉薬のかかっていないものを陶器と言っている。世界で最初に磁器を生み出したのは中国で、最高の焼き物を完成したのも中国である。
 最後の展示会に展示されている代表的なものを数点紹介する。白磁にコバルトの青も鮮やかに皇帝の象徴である龍の絵付けをした「青花龍文壺」(中国・明時代)。鶏形の飾りのついた「青磁天鶏壺」(中国・南朝時代)。髪を高く結った6人の女性ミュージシャンの「灰陶加彩楽人」(中国・唐時代)。龍と唐草の絵が美しい「色絵龍唐草文尊式瓶」(中国・明時代)。清朝時代最高の官窯磁器と言われている「粉彩花卉文瓶」(中国・清時代)などがある。

(写真は 灰陶加彩楽人(中国・唐時代))


 
萬野美術館  放送 3月18日(火)
 萬野美術館は大阪市内の中心部、御堂筋沿いのビルの最上階13階にあって、静かでゆったりとしたスペースの中に穏やかな空間を保っている。
 明治39年(1906)大阪府泉北郡忠岡町に生まれた起業家・萬野裕昭氏の長年のコレクションである日本と東洋の古美術品を収蔵し、その分野は絵画、墨蹟から工芸品、染織、陶磁器、茶道具、刀剣、甲冑(かっちゅう)など多岐にわたる。コレクションの総数は約1150点で、その中には中国・南宋(12世紀)の天目茶碗など国宝3点のほか、国の重要文化財34点、重要美術品22点などがある。萬野美術館はこれらのすばらしい収蔵品を展示するため昭和63年(1988)に開館した。

花下遊楽図屏風(重文・江戸時代前期)

(写真は 花下遊楽図屏風
(重文・江戸時代前期))

玳玻天目散花文茶碗(国宝・中国 南宋時代)

 2003年4月11日から6月22日まで春季展「日本の美」が開かれる。収蔵品の中から花鳥図など四季の自然を取り入れた絵画や工芸品、日本や中国の古典文学にちなんだ物語絵、日本の風土の中で遊ぶ風俗画などを中心に約30点が展示される。
 主なものに源氏物語五十四帖の中から15場面を選んで描いた「源氏物語図屏風」(江戸時代前期)や桜の花の下で宴を開いている様子を描いた「花下遊楽図屏風」(国・重文・江戸時代前期)、天下の名器にあげられた「玳玻天目散花文茶碗」(国宝・中国南宋時代)などがある。
 茶人でもある萬野氏の思いから茶室「裕々庵」も設けられており、大阪のど真ん中・心斎橋にあってはまさに都会のオアシスとの表現がぴったりする。

(写真は 玳玻天目散花文茶碗
(国宝・中国 南宋時代))


 
日本工芸館  放送 3月19日(水)
 大阪・ミナミの難波のビルが建ち並ぶ通りの一角を占める古い米蔵をイメージした建物は、庶民の日常生活用具として作られた伝統工芸、即ち「民芸」を保存、展示している日本工芸館。日本工芸館は大阪・北区堂島に残っていた江戸時代の米蔵を改造して開館し、昭和35年(1960)開館10周年に現在地へ移築した。
 収蔵しているのは陶磁器が中心。展示されている民芸品はわが国の国土が生み出した伝統的工芸品で、世界的にも高く評価されている。民芸とは民衆的手工芸の略で、日本工芸館は現存している民芸の技術保存と育成、普及にも努め、庶民生活の美化運動にも力を入れている。

讃岐の嫁入りふとん

(写真は 讃岐の嫁入りふとん)

讃岐の絵餅

 古丹波、古瀬戸など各地の陶磁器を中心とするさまざまな民芸は、どれも無名の工人が美を追及するためではなく、あくまで実用品として作ったものである。結果的にそこに巧まざる美が生み出され、人の心が豊かだった時代を感じさせる。
 ここに展示されている陶磁器には庶民の生活の匂いがする。食生活で使う茶わん類、食物などを貯蔵する壺、甕(かめ)など、昔はどこの家庭にもあった品々である。これらの生活用具は実用性を追求しており、健康美があふれている。
 ほかに讃岐の嫁入りふとんや讃岐の絵絣(かすり)なども展示されており、郷愁を感じさせられる物が多く、日本の伝統工芸の奥の深さと幅の広さを示している。

(写真は 讃岐の絵餅)


 
四天王寺・絵堂  放送 3月20日(木)
 四天王寺は仏教思想をもとに統一国家建設を目指す聖徳太子が、推古天皇元年(593)に創建したわが国初の官寺。飛鳥時代、仏教伝来をめぐって仏教支持の蘇我氏と日本古来の宗教擁護の物部氏が激しく争い、聖徳太子は仏教支持派の蘇我氏についた。太子は戦勝を四天王に祈願し物部氏を見事に破ったお礼に四天王寺を建立した。現在も広く庶民の信仰を集めている四天王寺。その広大なな境内の東南部に建っている絵堂は、毎月22日に開扉される。
 絵堂内は画家・杉本健吉氏の筆による、聖徳太子生誕から蘇我・物部の争い、四天王寺建立、晩年から入滅までの7面の大壁画から成っており、芸術鑑賞をしているうちに太子の遺徳をしのぶことになる。

木製舞楽蘭陵王(重文・鎌倉時代)

(写真は 木製舞楽蘭陵王(重文・鎌倉時代))

舞楽装束

 この障壁画は「太子伝暦」をもとに、おおまかに春夏秋冬に分け、鳥獣花卉(かき)を配した自然の景色の中で物語を展開した、と杉本氏は説明している。
 第1壁面は太子誕生と幼少のころの秀でた実績、第2壁面は元服までの青少年時代、第3壁面は蘇我、物部との合戦、第4壁面は四天王寺の建立、第5壁面は勝鬘(しょうまん)経を講じる太子、第6壁面は中国・隋との対等外交の姿勢、第7壁面は舞楽の伝来と太子の晩年、入滅、となっている。
 聖徳太子の時代に伝来した舞楽は、四天王寺舞楽として現代に引き継がれ、四天王寺の聖霊会などで舞われ、宝物館には四天王寺舞楽に使われる舞楽面や舞楽衣装などが保存されている。

(写真は 舞楽装束)


 
和泉市久保惣記念美術館  放送 3月21日(金)
 この美術館は明治以来、この地で綿織物業を営んできた久保惣太朗氏が、その美術コレクションと敷地、建物を和泉市に寄贈して昭和57年(1982)に開館した。現在は和風建築の本館と新館の2棟がある。
 当初、寄贈された美術品は中国、日本の書画、工芸、陶磁など約500点の第1次久保惣コレクション。この中には歌仙歌合など国宝2点や国の重要文化財が含まれている。その後、久保惣株式会社や久保惣記念文化財団などが蒐集した中国の青銅器、陶磁器など1000点やモネ、ルノワール、ゴッホなどの西洋絵画20点など1200点が寄贈された第2次久保惣コレクション。さらに江口証券の江口コレクションの青銅器など600点を購入した第3次久保惣コレクション。3次にわたるコレクションに加え、和泉市、和泉市久保惣記念美術館、久保惣記念文化財団が蒐集した700点を合わせると国宝2点、重文28点など総数3000点におよぶ。

クロード・モネ「睡蓮」

(写真は クロード・モネ「睡蓮」)

オーギュスト・ルノワール「カニューの風景」

 数多い収蔵品の中に紀元前16世紀ごろに興った中国・殷(いん)の時代の酒を温める青銅器がある。殷王朝は高度の青銅器鋳造技術と文字(甲骨文)を持った文化水準の高かった古代王朝で、その遺品がこの博物館に伝わった。フランス印象派クロード・モネの晩年の「睡蓮」はよく知られた作品である。桃山時代に土佐派の土佐光吉によって描かれた「源氏物語手鑑」は、源氏物語五十四帖の有名な場面を80枚の絵に描いたものである。
 久保惣記念美術館では平成15年度は4月から6回にわたって収蔵品の展覧会を計画しており、貴重な作品の鑑賞ができる。
 この美術館には2代目久保惣太郎夫妻が昭和15年(1940)に建てた茶室「惣庵」と「聴泉亭」が寄贈されており、周囲の日本庭園とともに優雅な空間を創りだしている。

(写真は オーギュスト・ルノワール
「カニューの風景」)


◇あ    し◇
出光美術館地下鉄御堂筋線、長堀鶴見緑地線心斎橋駅、堺筋線、
長堀鶴見緑地線長堀橋駅下車徒歩2分。
萬野美術館地下鉄御堂筋線、長堀鶴見緑地線心斎橋駅下車徒歩3分。 
日本工芸館地下鉄御堂筋線、千日前線、四つ橋線難波駅下車徒歩5分。 
近鉄、南海電鉄難波駅下車徒歩5分。
四天王寺JR、地下鉄天王寺駅、近鉄南大阪線阿部野橋駅下車
徒歩15分。
地下鉄谷町線四天王寺夕陽ケ丘駅下車徒歩3分。
和泉市久保惣記念美術館泉北高速鉄道和泉中央駅からバス美術館前下車。 
◇問い合わせ先◇
萬野美術館06−6212−1517 
日本工芸館06−6641−6309 
四天王寺06−6771−0066 
和泉市久保惣記念美術館0725−53−2219 

◆歴史街道とは

     日本の歴史の舞台を尋ねながら、日本文化の魅力を楽しみながら体験できる
ルートのことです。
     伊勢・飛鳥・奈良・京都・大阪・神戸の歴史都市を時流れに沿ってたどるメインルートと地域の特徴を活かした8本のテーマルートが設定されています。

 

(1)・・・ひょうごシンボルルート   
(2)・・・丹後・丹波伝説の旅ルート
(3)・・・越前戦国ルート              
(4)・・・近江戦国ルート              
(5)・・・お伊勢まいりルート         
(6)・・・修験者秘境ルート           
(7)・・・高野・熊野詣ルート         
(8)・・・なにわ歴史ルート           

    歴史街道計画では、これらのルートを舞台に
  「日本文化の発信基地づくり」
  「新しい余暇ゾーンづくり」
  「歴史文化を活かした地域づくり」
を目指し,
    官民188団体によりソフト・ハード両面の事業が推進されています。

◆歴史街道テレフォンガイド

     テレビ番組「歴史街道〜ロマンへの扉〜」と連合した各地の歴史文化情報を提供しています。
                  TEL:0180−996688    約3分 (通話料は有料)

 

◆歴史街道倶楽部のご紹介

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