月〜金曜日 18時54分〜19時00分


名張市・赤目四十八滝

 室生赤目青山国定公園内の赤目四十八滝には、大小さまざまな滝が清流沿いに数多く点在し、その滝と巨岩、奇岩の赤目渓谷の自然の造形美が素晴らしい。目にしみるような緑の木々の中の渓谷沿いの遊歩道をたどり、滝散策を試みた。


 
赤目不動 放送 5月31日(月)
 伊賀と大和の国境、滝川の上流に約4kmにわたって続く渓谷の赤目四十八滝は「日本の滝100選」に選ばれている。水しぶきを上げて流れ落ちる滝が連続する赤目渓谷の下流の平野部では今、滝川の水を取り入れた水田に早苗が植わっている。
 赤目の名は、修験道の祖・役行者(えんのぎょうじゃ)がこの地で修行中、赤い目の牛に乗って不動明王が出現したことに由来すると伝えられている。四十八滝と呼ばれるが、数が多いことの例えからこの呼び名がつけられたもので、渓谷にはもっとたくさんの滝がある。

延寿院

(写真は 延寿院)

不動明王像

 赤目四十八滝の入り口にある天台宗の寺・延寿院は、役行者が開いたと言われ、本堂の不動院に安置されている不動明王像は伝教大師・最澄の作と言う。このお不動さんの目が赤いので、赤目不動と呼ばれる。
 延寿院はこの地にあった聖王龍寺と言う寺の一坊の名で、織田信長の伊賀の乱で伽藍(がらん)が焼失し、後に延寿院だけが再建された。伊賀の乱の兵火を免れた唯一の建物が観音堂で、名張市内最古の寺院建築と言われている。また、徳治2年(1307)の銘がある境内の石灯籠(国・重文)や石造十三重塔が、焼失前の寺をしのばせている。

(写真は 不動明王像)

 延寿院から上流へ少しのぼると最初の滝・行者滝に出会う。役行者が修行した滝と言われ、大きな岩をはさんでふたつに分かれて流れ落ちる落差5mの滝。
 その上流には、伝説の滝・霊蛇(れいじゃ)滝がある。伊賀の乱の時、勝ち誇った織田軍の武将が渓谷の真っ赤なモミジの枝を取ろうとしたところ、美しい乙女が現れ「このモミジは人間の化身です。赤いのは人間の血が通っているからです」と、枝を折るのをとがめた。だが、強引に枝を折ろうといたので「私は霊蛇となってモミジを守ります」と滝壷へ身を投じた。たちまち雷鳴がとどろき豪雨となったので、武将は恐れをなして逃げ帰った。乙女が霊蛇となって谷を守ったことから霊蛇滝と呼ばれ、白蛇が岩を登る趣の滝の美しさ、澄んだ碧潭(へきたん)の滝壷の美しさが素晴らしい。すぐ上に延寿院の不動明王にちなんで名付けられた落差7mの不動滝がある。

不動滝

(写真は 不動滝)


 
滝から滝へハイキング 放送 6月1日(火)
 近鉄赤目口駅からバスで赤目滝バス停で下車すると、ここが赤目四十八滝の北側入り口。ここから東南に渓谷が続き、大小さまざまな滝、伝説に彩られた滝、なるほどとうなずける名のついた滝が連続している。赤目滝入り口からほぼ中間の竜が壺までの渓谷を前澗(ぜんかん)、縋藤(すがりふじ)滝から最後の岩窟滝までを後澗(ごかん)と分けて呼んでいる。
 赤目渓谷沿いの道は危険で険しいところはなく、安全な橋や遊歩道が整備されているので、お年寄りや子供たちでも安心して、素晴らしい滝を見ながらハイキングが楽しめる。

乙女滝

(写真は 乙女滝)

護摩の窟

 最初の行者滝から始まって銚子滝、霊蛇滝、不動滝、そして滝も淵も小さくやさしい清純な乙女のような乙女滝へと続く。この滝を過ぎると渓谷に迫る山に、柱状節理と言う柱のように立った岩が見える。約40mの高さの三層からなる岩壁の屏風岩だ。次いで雨が降って水量が増すと山から30mの2段滝が落ちる大日滝。この滝で修行した修験者が信仰する大日如来になぞらえ名付けた。
 その先の渓流の中にひときわ大きな岩が現れる。広さが畳8畳ほどあることから8畳岩と呼ばれ、弘法大師・空海が修行した時、天童がこの上で舞楽を舞ったと言われ「天童舞台石」の名もある。

(写真は 護摩の窟)

 次に伝説に彩られた赤目五瀑に数えられる二つの滝がある。落差15m、滝壷の深さ約20mの千手滝は、岩をつたわって千手のように流れ落ちるところから、千手観音にちなんで名付けらたとか言われている。織田信長がこの地の柏原城を攻めた時、城主の娘・千手姫が恋人の本間草之助と赤目渓谷へ逃げ込んだが、追手に迫られ「生きて敵に捕まるよりは…」と二人はこの滝壷に身を投じたとの伝説から千手滝となったとも。
 その先の布引滝は豪族の娘が、紅葉の美しさに浮かれて歌い踊っているうちに断崖絶壁の上に行ってしまった。困り果てていると「紅葉の枝で布を織りその布をたらせば降りられる」との神のお告げに、娘は一心に織った布をたらし絶壁を無事降りた。
振り返ると布は約30mの一条の滝となっていたと伝えられる伝説の滝だ。

千手滝

(写真は 千手滝)


 
森林浴 放送 6月2日(水)
 布引滝から歩を進めると流れ落ちる水の力で岩盤が石臼のように掘り抜かれ、底無しと言われるほど深い滝壷となり、竜が棲むと言い伝えられているのが竜が壺。
 この竜が壺にも自然保護を教える伝説が残る。時々、この滝壷に現れる女神は岩陰に咲く山桜の一枝が欲しくなったが、女神は水から出ることができない。そこへやって来た男神に「竜宮の女神ですが、あたなを竜宮にお招きするので、乙姫様に持って行く桜の枝を取って欲しい」と頼んだ。「この桜は山の神の花で取れない」と断ったが、再三の頼みに負け一枝取ってやると、女神は桜の枝を手に男神を置き去りにして姿を消した。後に男神は山の神から厳しい罰を受けたとの伝えがある。

布曳滝

(写真は 布曳滝)

滝ヶ壷

 飛沫をあげる流れの千変万化の変化が美しい縋藤(すがりふじ)滝。あまり大きな滝でないので見落とす人もいる。このあたりは鬼でも通れないほど険しい所で、藤の古木にすがりついて渡ったことからこの名がつけられた。
 この近くには斧が淵、陰陽滝、釜が淵、百畳岩、七色岩、姉妹滝、柿窪滝、横淵、笄(こうがい)滝と呼ばれる滝や深い淵が続く。横15m、幅10mほどもある大きな一枚岩が、川に向かって広がっている岩畳は、百畳敷もの広ささあることから百畳岩と呼ばる。この岩は美しい渓流を眺めるポイントのひとつで、すぐそばに茶店もあり、ひと息入れながら自然の恵みが満喫できる。

(写真は 滝ヶ壷)

 室生赤目青山国定公園内にある赤目渓谷は植物の種類が多い。野に、道ばたに、また滝の飛沫の中にさまざまな野の花が可憐な姿を見せ、散策の楽しみをふくらませ、心を癒してくれる。イワタバコ、オオヤマカタバミ、ウメガサソウ、イナモリソウ、ホトトギス、ダイモンジソウ、ベニシュスランは、植物学者・牧野富太郎氏らが選んだ赤目七草。
 赤目渓谷は森林浴100選にも選ばれた緑、緑、緑の森林。今は新緑の植物が発するフィトンチッドと言う物質ががいっぱいで、この物質が体や頭をすっきりさせてくれる。さらに木々が風に揺れる音や流れる水の音、森の香り、飛沫から発するマイナスイオンなど自然の力が心身をリフレッシュし、ストレスを忘れさせてくれる。

縋藤滝

(写真は 縋藤滝)


 
水の恵み 放送 6月3日(木)
 豊かな自然に育まれた水は赤目渓谷の滝川にそそぎ、その清流には多くの生物が水の恵みを受けている。さらに下流に流れて田畑を潤し、伏流水は酒造の清水となって清酒に変わり、酒の席を楽しませてくれる。
 赤目渓谷の澄んだ水の恩恵に浴しているひとつがサンショウウオ。赤目渓谷に棲むのは両棲類中最大のオオサンショウウオで、特別天然記念物に指定されている。オオサンショウウオは半分に裂かれても、生き続ける強い生命力を持っていることから、ハンザキと呼ばれる別称が生まれた。最大のものは1m20cmもあり、三重、岐阜県以西の西日本の渓流に棲息している。

オオサンショウウオ

(写真は オオサンショウウオ)

雨降滝

 赤目四十八滝の入り口にある日本サンショウウオセンターには、日本と世界のサンショウウオが集められている。サンショウウオは日本と中国、北アメリカにだけしか棲息しておらず、ヨーロッパのサンショウウオは氷河期に絶滅した。現在、棲息しているオオサンショウウオは生きた化石とも言われ、太古からほとんど進化していない。
 センターには地元のオオサンショウウオをはじめ、阪神タイガースファンがマスコットにしそうな、黄色と黒のまだら模様のアメリカのタイガーサラマンダー、えらを残したまま成体になったメキシコのアホロートル(別名ウーパールーパー)など、日本産15種、約100匹と外国産17種、約120匹を飼育しており、世界中の珍しいサンショウウオが見学できる。ほかにスペインイモリなどのイモリ類も飼育されている。

(写真は 雨降滝)

 滝川の清流にはアマゴ、カワムツ、オイカワなどの川魚が泳ぎ、夏にはカジカの美しい鳴き声が渓谷に響く。カジカは日本固有のカエルの一種で、谷川やきれいな水の川の上流に棲み、雄カジカはカエル界きっての美声。アマゴは渓流魚の王者と言われ、水のきれいな川にしか棲息しない。カワムツは名張市内のほとんどの川にいる魚で、滝川の渓流をのぞいて見える魚のほとんどがこのカワムツと言ってよい。
 赤目渓谷沿いの料理店では、アマゴなどの川魚や山菜をふんだんに使った料理が自慢で、渓谷美を楽しみながらの川魚料理の味は格別と言える。

赤目温泉 対泉閣

(写真は 赤目温泉 対泉閣)


 
滝・滝・滝 放送 6月4日(金)
 赤目四十八滝は落差の大きいもの、小さいもの、幅の広いもの、狭いもの、流れの力強いもの、優しいものと規模も形状もそれぞれ異なり、奥に進むにつれて壮観な姿になり、千変万化の顔を見せてくれる。あえて必見の滝をあげれば、赤目五瀑と言われる不動滝、千手滝、布引滝、荷担(にない)滝、琵琶滝。
 赤目四十八滝の散策も後澗(ごかん)と呼ばれる後半から終盤の滝にはいり、滝の景観を満喫しながらさまざまに変化する渓谷美や巨岩、奇岩を目にしながら歩を進めることになる。

荷担滝

(写真は 荷担滝)

雛壇滝

 数段の小瀑を集めた水が高さ8mの巨岩の両脇に分かれて流れ落ちてゆく荷担(にない)滝は、赤目のシンボル的存在である。荷を担っているような形からこの名がついたが、荷担滝の前方の高いところから見ると、荷担滝のすぐ上にもうひとつ滝があり、三滝二淵の滝の景観は赤目随一と称賛する人が多い。
 流れ落ちる二つの滝が途中で結び合うように合流する夫婦滝、その奥に幾段にもなった岩を流れ落ちるのが雛壇(ひなだん)滝。さらに滝の音が琴の音に似ている琴滝、琵琶の形に似た琵琶滝、そして赤目四十八滝の最後の滝の岩窟滝にたどり着く。高さ7mの岩窟滝は滝の中腹に深い石穴があることからこのように呼ばれた。

(写真は 雛壇滝)

 滝、滝、滝の赤目四十八滝の景観と滝川の清流、赤目渓谷を取り囲む新緑の木々、緑深いこずえから聞こえる野鳥のさえずり、川面からはカジカの鳴き声、川のほとりや樹間には可憐な野草の花、まさに最高の自然のもてなしを受けての散策は終わる。
 散策を終えて赤目四十八滝の入り口に戻ると、温泉の湯で疲れを癒すことができる。
赤目温泉・対泉閣では入浴だけもOKなので、温泉の湯ぶねで疲れと汗を流すハイカーが多い。川魚料理や伊賀肉料理、秋にはマツタケ料理などを湯上がりに楽しむこともできる。

琵琶滝

(写真は 琵琶滝)


◇あ    し◇
赤目四十八滝近鉄大阪線赤目口駅からバスで赤目滝下車。        
日本サンショウウオセンター近鉄大阪線赤目口駅からバスで赤目滝下車徒歩5分。
赤目温泉隠れの湯・対泉閣近鉄大阪線赤目口駅からバスで赤目滝下車徒歩3分。
◇問い合わせ先◇
赤目四十八滝渓谷保勝会0595−63−3004
名張市観光協会0595−63−9138
日本サンショウウオセンター0595−64−2695
対泉閣0595−63−3355

◆歴史街道とは

     日本の歴史の舞台を尋ねながら、日本文化の魅力を楽しみながら体験できる
ルートのことです。
     伊勢・飛鳥・奈良・京都・大阪・神戸の歴史都市を時流れに沿ってたどるメインルートと地域の特徴を活かした8本のテーマルートが設定されています。

 

(1)・・・ひょうごシンボルルート   
(2)・・・丹後・丹波伝説の旅ルート
(3)・・・越前戦国ルート              
(4)・・・近江戦国ルート              
(5)・・・お伊勢まいりルート         
(6)・・・修験者秘境ルート           
(7)・・・高野・熊野詣ルート         
(8)・・・なにわ歴史ルート           

    歴史街道計画では、これらのルートを舞台に
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  「新しい余暇ゾーンづくり」
  「歴史文化を活かした地域づくり」
を目指し,
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