月〜金曜日 18時54分〜19時00分


阪神間のミュージアム 

 阪神間には公立、私立の美術館や博物館、資料館など数多くのミュージアムがあり、それぞれ特色のあるコレクションで持ち味を出している。歴史街道推進協議会では阪神間のミュージアムで、それぞれのミュージアムにマッチしたテーマでのリレー講座を11月6日から2004年11月28日まで開く。参加申込は同協議会へ。今回はこうした阪神間のミュージアムの一部を紹介する。


 
芸術文化の香り(伊丹市)  放送 10月25日(月)
 江戸時代に澄みきった酒の醸造法を考案し、清酒発祥の地となり酒造りによる経済力が豊かな文化を生み出した伊丹市宮ノ前地区には、俳諧コレクションの柿衞(かきもり)文庫、伊丹市立美術館、伊丹市立工芸センターなどが集まって「みやのまえ文化の郷」を形成している。
 清酒醸造で栄えた江戸時代の伊丹は、俳諧文学が花開き、文人墨客の往来が盛んだった。
こうした雰囲気の中で、酒造家で俳諧文学者の岡田利兵衞氏(俳号・柿衞)が俳書を中心に収集した、約9500点をの資料を収蔵しているのが柿衞文庫。

柿衞文庫

(写真は 柿衞文庫)

伊丹市立美術館

 収蔵品は書籍、軸物、短冊などの貴重な資料で、松尾芭蕉、上島鬼貫、与謝蕪村など、近世の俳人の直筆俳画がある。東京大学図書館の「酒竹・竹冷(しゃちく・ちくれい)文庫」、天理大学図書館の「錦屋文庫」と並ぶ日本三大俳諧コレクションのひとつである。
 柿衞の号は、岡田家の歴代当主が愛でた庭の柿の木「台柿(だいかき)」を衞(まも)るとの意味を込めて名乗った。江戸時代後期の儒学者・頼山陽が伊丹を訪れ、酒席のデザートにこの台柿が出され、あまりのおいしさに「もうひとつ」と所望したところ「岡田家に1本あるだけの柿の木なのであきらめて欲しい」と断られたとの逸話が残っている。現在、柿衞文庫の庭には2世の台柿があり、秋には独特の形をした実をつけている。

(写真は 伊丹市立美術館)

 伊丹市立美術館は「風刺とユーモア」を基本理念に作品を収集しているのが特徴。19世紀フランスを代表するドーミエ、イギリスのホガース・ギルレイなど、国内外の版画、油彩など2000点を超える多様な風刺画が収蔵、展示されている。18、19世紀のイギリスの酒の悪徳面を皮肉に誇大化した版画の企画展を開くなど、展覧会の企画もなかなかのセンスのあるものが多い。
 伊丹市立工芸センターは全国的にも珍しい公立の工芸振興施設として異色の存在。工芸センターが開催する「国際クラフト展−伊丹−」は国内外のさまざまな工芸品や機能的、デザイン的に優れた工芸品を紹介する企画展として注目されている。また、デザインや手織りなどの各種工芸講座、講演会を開いたり、企業のロゴマークを作成するなど、産業振興にも努めている。

伊丹市立工芸センター

(写真は 伊丹市立工芸センター)


 
伊丹市立伊丹郷町館(伊丹市)  放送 10月26日(火)
 みやのまえ文化の郷には、柿衞(かきもり)文庫、伊丹市立美術館、伊丹市立工芸センターのほかに、伊丹市立伊丹郷町館として旧岡田家住宅(国・重文)、旧石橋家住宅(兵庫県指定文化財)、管理棟を兼ねた新町家の3館が含まれる。
 旧岡田家住宅は、江戸時代初期の延宝2年(1674)酒造家・松屋与兵衛によって建てられた町家。建築年代がはっきりしている町家として全国的にも数少ない存在とされており、建築当初から酒造業を営んでいた。酒蔵はその後に増築されたものだが、現存する最古の酒蔵として昭和59年(1984)まで実際に酒造りが行われていた。

旧岡田家住宅

(写真は 旧岡田家住宅)

酒造用カマド

 酒蔵の所有者は度々代わったが、柿衞文庫コレクションの酒造業・岡田利兵衛の岡田家がこの住宅と酒蔵を所有したのは、明治33年(1900)で、主要銘柄の「大手柄」などの酒を醸造していた。
 旧酒蔵は150インチのスクリーンを備えたホールとして、各種の行事に有料で利用できるようになっている。店舗部分では岡田家で使っていた酒造りの道具や酒造用のかまど、井戸のほかに酒搾り遺構も復元された。江戸時代中期に発刊された日本山海名産図絵に「伊丹は日本上酒の初めとも言うべし」とあるように、銘酒の産地として栄えた酒造りの様子と伊丹の町づくりの基礎を築いた酒造りの歴史がわかる。

(写真は 酒造用カマド)

 旧石橋家住宅は江戸時代後期に建てられた商家。虫籠窓(むしこまど)、出格子窓、正面中央の摺り揚げ大戸の出入り口、バッタリ床几、揚見世(あげみせ)など、建築当初の店構えや建具がそのまま残っているのは、全国的にも珍しい。石橋家は江戸時代中期から猪名野神社の門前通りで商売を始め、明治時代以降、雑貨商、両替屋を営むかたわら酒造業も始めていた。
 1階店の間は伊丹市立工芸センターに集う工芸作家の作品を紹介したり、販売する「郷町ショップ」になっており、2階は宮ノ前の歴史についての資料を展示している。1、2階の座敷は貸し席として有料で貸し出され、金、土、日曜日には1日50席程度の予約制弁当を提供しており、旧石橋家の日本庭園を観賞しながら味わうことができる。

旧石橋家住宅

(写真は 旧石橋家住宅)


 
西宮市立郷土資料館(西宮市)  放送 10月27日(水)
 西宮市は海岸から山深い山地まで南北に長く、古くから商人を中心とした西宮町と農民を中心とした多くの村で構成されていた。それぞれの地域や旧村ごとに風土や暮らしぶりが異り、それぞれの地域に合った産業が生まれ、歴史が作られてきた。
 こうした地域に密着した生活や産業、文化は、住宅開発の波に押されどんどんと失われつつある。特に阪神淡路大震災でおおきな被害を受けた地域では、こうした古い生活用具や文化財などが数多く姿を消した。そんな西宮の近世から現代にいたる歴史と文化、住民の生活ぶりを、収集した生活用具類や資料で子供たちにも分かりやすく教えてくれるのが、西宮市立郷土資料館である。

さかさまの絵図(上大市村絵図)

(写真は さかさまの絵図(上大市村絵図))

名塩紙の紙漉き

 電気洗濯機が登場するまでは、どこの家庭でも木製のたらいと洗濯板で洗濯をしていた。今、こうした生活用具はほとんど見かけない。農家では竹で編んだ箕(み)などの農作業の道具類も姿を消している。江戸時代の農村地帯では、庄屋を中心に年寄、百姓代らの村役人がそれぞれの地域をまとめていた。村人の出生、死亡、転居など、現代の市町村役場が行っているような仕事を行い、領主に報告した。
 西宮市下大市で見つかった絵図は、東、西、南のどの方向からも読めるように工夫された絵図で、現代のように地図の上が北とは決まっておらず、利用しやすい方法で描かれていた。資料館は西宮のこうした農村地域の生活ぶりを道具類や資料で教えている。

(写真は 名塩紙の紙漉き)

 産業も海岸部と山間部、商人地域と農村地域で、それぞれの土地、気候に合わせて発展した。漁業が中心だった西宮浜ではイワシ漁が盛んで、生きの良いイワシは「手手かむイワシ」の呼び声で売られた。魚類加工業も盛んで天日干しされたイワシは「宮ジャコ」として知られていた。
 紙漉く里として知られた名塩の丈夫な和紙は、原料の雁皮(がんぴ)に地元の泥土を混ぜることで、日焼けや虫食いに強い和紙が生まれた。砂地が栽培に適し、明治時代後期から始められ大正時代にかけて有名になった鳴尾のイチゴ栽培。私鉄沿線では住宅地が開発され、浜甲子園阪神パークなどの娯楽施設がオープンした様子などが、ポスターや分譲住宅地案内図などでわかる。

いちご出荷用箱

(写真は いちご出荷用箱)


 
頴川美術館(西宮市)  放送 10月28日(木)
 西宮市甲東園の頴川(えがわ)美術館は、江戸時代から廻船業、山林業を営んでいた大阪の商家・頴川家の4代目で、銀行家だった頴川徳助氏が収集した古美術品を保存、公開するため昭和48年(1973)に設立された。
 絵画や工芸を中心に日本、中国の作品約500点を収蔵しており、室町時代の水墨画や近代絵画、茶道具など優れたものが多い。水墨山水画の名品「三保松原図」や大和絵の「山王霊験記」、楽焼の始祖・長次郎の代表作「赤楽焼茶碗 銘・無一物」、「阿弥陀曼荼羅図」など、国の重要文化財に指定されている名作も数多い。

鐘馗抜鬼眼晴国(祥啓筆)

(写真は 馗抜鬼眼晴国(祥啓筆))

芦葉達磨国(宮本ニ天筆)

 定期的に年2回開催される春秋の企画展と随時開催される特別展の期間中のみ開館されており、このほかは閉館されているので要注意。
 2004年秋の企画展は近世の仙人・高士図が特徴。鎌倉の臨済宗建長寺の画僧だった祥啓の「鍾馗抜鬼眼晴図(しょうきばっきがんせいず=室町時代)」、剣豪・宮本武蔵の宮本二天の「芦葉達磨図(ろようだるまず=江戸時代)」、長谷川等雪の「琴高仙人図(きんこうせんにんず=江戸時代)」などの名品が鑑賞できる。秋季企画展は前期が10月30日まで、後期が11月3日から11月30日まで。月、祝日の翌日は休館。

(写真は 芦葉達磨国(宮本ニ天筆))

 頴川美術館では、美術館友の会の会員を対象にいろいろな文化活動を行っている。毎月1回の文化講座では美術、文化史、歴史などの講演会、茶会、史跡、名勝、美術館、博物館、窯元などを訪ねる館外活動、能、狂言、文楽などを鑑賞する古典芸能鑑賞会がある。
 実技講座の茶道研究は作法の指導や道具類の鑑賞など。日本画研究は日本画の伝統的な基礎技法の指導を行い、実際の作品制作まで教える。いずれも月2回。ロビーには美術図書や学術専門書、各種辞典類を取りそろえて常設しており、入館者は自由に閲覧でき、文化的知識を豊富にすることができる。

三教国(孔子・釈迦・老子/長谷川等雪筆)

(写真は 三教国
(孔子・釈迦・老子/長谷川等雪筆))


 
酒ミュージアム(西宮市)  放送 10月29日(金)
 灘五郷のひとつ、西宮郷の酒ミュージアムは、辰馬本家酒造が昭和57年(1982)に創業320年を記念して開いた、酒造と酒文化の白鹿記念酒造博物館で「酒蔵館」と「記念館」の二つの建物からなる。
 酒蔵館は明治25年(1892)建造のレンガ造りの酒蔵を利用し、近代化された酒造工場では見られなくなった、昔の酒造の設備や用具を使用当時まま並べている。ひと回りすると洗米から火入れ、貯蔵まで、当時の酒造りの作業風景や酒造工程がよくわかる。灘の生一本は、杜氏や蔵人の酒造技術と酒造りに適した硬水の宮水、優良な酒米「山田錦」、酒造りに適した六甲おろし気候が相まって生まれる。

記念館

(写真は 記念館)

酒造館

 酒造りはひとつの酒蔵に杜氏を中心に20人ほどの蔵人たちのチームワークで進められる。秋に酒蔵に集まった蔵人たちが酒造用具の樽や桶を洗う秋洗いから酒造りは始まる。
酒米の精米、洗米、蒸し、麹作り、酒母作り、もろみ作り、しぼり、火入れ、貯蔵へと続く。新酒は秋まで貯蔵しゆっくりと熟成され、灘酒特有の「秋晴れ」と言われる格別な味に仕上がる。もう一度、火入れが行われ瓶詰めされ出荷される。
 近代化されるまでの酒造りはこうした各工程を、杜氏や蔵人たちがわが子を慈しみ育てるような気持ちで作業し、灘の酒に仕上げた様子が模型を使って再現されている。

(写真は 酒造館)

 記念館は酒に関する書画、工芸品、文献、資料の展示、西宮市の市花である桜に関する書画、工芸、文献を展示している「笹部さくら資料室」がある。
 平成7年(1995)の阪神淡路大震災では灘五郷も大きな被害を受け、酒ミュージアムの酒蔵館は倒壊寸前で残った。震災から3年後に復興され、再び一般公開されるようになった酒蔵館では、震災の傷跡を後世に伝えようと壊れた酒造用具の樽や部屋などをそのままの形で残している。
 酒ミュージアムの北側のレストラン&カフェ&ショップの白鹿クラシックスでは、蔵元でしか味わえないきき酒や酒の量り売りもされている。

震災の記憶(阪神淡路大震災)

(写真は 震災の記憶(阪神淡路大震災))


◇あ    し◇
柿衞文庫、伊丹市立美術館、
伊丹市立工芸センター、
伊丹市立伊丹郷町館
JR福知山線、阪急電鉄伊丹駅下車徒歩9分。
西宮市立郷土資料館阪神電鉄香櫨園駅下車徒歩6分。 
頴川美術館阪急電鉄今津線甲東園駅下車徒歩3分。 
酒ミュージアム
(白鹿記念酒造博物館)
阪神電鉄西宮駅下車徒歩15分。
◇問い合わせ先◇
歴史街道推進協議会06−6448−5820 
柿衞文庫0727−82−0244 
伊丹市立美術館0727−72−7447 
伊丹市立工芸センター0727−72−5557 
伊丹市立伊丹郷町館0727−72−5959 
西宮市立郷土資料館0798−33−1298 
頴川美術館0798−51−3915 
酒ミュージアム
(白鹿記念酒造博物館)
0798−33−0008

◆歴史街道とは

     日本の歴史の舞台を尋ねながら、日本文化の魅力を楽しみながら体験できる
ルートのことです。
     伊勢・飛鳥・奈良・京都・大阪・神戸の歴史都市を時流れに沿ってたどるメインルートと地域の特徴を活かした8本のテーマルートが設定されています。

 

(1)・・・ひょうごシンボルルート   
(2)・・・丹後・丹波伝説の旅ルート
(3)・・・越前戦国ルート              
(4)・・・近江戦国ルート              
(5)・・・お伊勢まいりルート         
(6)・・・修験者秘境ルート           
(7)・・・高野・熊野詣ルート         
(8)・・・なにわ歴史ルート           

    歴史街道計画では、これらのルートを舞台に
  「日本文化の発信基地づくり」
  「新しい余暇ゾーンづくり」
  「歴史文化を活かした地域づくり」
を目指し,
    官民188団体によりソフト・ハード両面の事業が推進されています。

◆歴史街道テレフォンガイド

     テレビ番組「歴史街道〜ロマンへの扉〜」と連合した各地の歴史文化情報を提供しています。
                  TEL:0180−996688    約3分 (通話料は有料)

 

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歴史街道推進協議会