2018/11/22

「キログラム」に宿るフランス科学者の思い

Bon jour!! パリ支局のフレデリック・プティです。

フランスで買い物をすると、野菜や果物は普通「1kgいくら」の値段で売られています。

スーパーの青果コーナーには量りが置かれ、自分で計測し大まかな値段をチェックするスーパーの青果コーナーには量りが置かれ、
自分で計測し大まかな値段をチェックする

家計を預かる主婦が財布とにらめっこしながら、真剣な表情で重さを量っている姿を見ると、なんだかほほえましくなります。

フランスの日常生活で、重さの単位にキログラムを使っているのには理由があります。キログラムの制定は、フランス革命当時の科学者たちの努力の成果なんです。当時、ヨーロッパには様々な長さや重さの基準が混在していました。「近代科学の父」ラボアジエらフランスの科学者たちは、それを1つに統一すべく、新しい単位の制定に乗り出したわけです。その結果、1795年、重さの単位「グラム」が誕生しました。当初は1000立方センチメートル、つまり1リットルの水を1キログラムと定義しました。

1875年になると、国際的な度量衡の統一のための条約が成立します。それに伴い、「1キログラム」の基準となる「分銅」が作られました。この分銅は「国際キログラム原器」と呼ばれ、1889年以来パリ近郊の国際度量局に保管されています。

世界の「kg」の基準、「国際プログラム原器」(BIPM提供)世界の「kg」の基準、「国際プログラム原器」
(BIPM提供)

国際度量衡局はかつてルイ14世の城だった場所にあります。ここの古いワインセラーに置かれた金庫の中に、「国際キログラム原器」は保管されています。この金庫にアクセスするには、3人の職員が別々に持つ3つのキーが必要で、厳重に管理されています。

パリ郊外にある「国際度量衡局(BIPM)」パリ郊外にある「国際度量衡局(BIPM)」

原器は金庫で厳重に保管されている(BIPM提供)原器は金庫で厳重に保管されている
(BIPM提供)

この小さな円柱に、果物から国際宇宙ステーションの機器に至るまで、あらゆるものの重さを決めるという恐ろしいほど重要な責任があるわけです。

この「国際キログラム原器」は、世界中に「分銅のレプリカ」が配布され、各国でも基準となっています。しかし、過去100年の間に何度か、分銅の重さが変わっていないか検査したところ、この分銅の重さ自体にきわめて微小な変化が生じていました。これは非常に大きな問題で、時の経過やささいな汚れ、小さな損傷で、重さの定義が揺らぐ可能性があることを意味しています。そこで近年、「原器」に代わる新しい重さの「基準」の策定が検討されてきました。

2018年11月16日、パリ近郊べルサイユで開催された国際度量衡総会で、原器を使わない新しい質量の定義が承認されました。

総会では全参加国の賛成で、新定義への変更が承認された総会では全参加国の賛成で、
新定義への変更が承認された

新しい定義では、現在は「国際キログラム原器」が定めている1キログラムの重さを、物理学の「プランク定数」を用いて定めることになりました。「定数」で定めれば、計算で正確な1キログラムを再現することが可能なので、「キログラム原器が盗まれたら重さが決められなくなる」といった心配が必要なくなるわけです。

といっても、今の「1キログラム」が変わるわけではないので、何か生活に影響が出ることはありません。

今回の定義変更で、ようやく重さにも基準が揺らぐ心配のない定義ができました。真理を追究したいという科学者たちの思いが結実したわけです。その思いは、王族が定めた決まり事から自由になるため、新しい単位を生み出したフランス革命当時の科学者たちから脈々と受け継がれてきたものかもしれません。

シャンハイ★Shanghai