2019/02/25

フランスのおにく

こんにちは、パリ支局の池嶋です。

「おっさんになると、焼肉うまいねんけど、脂身しんどいんやわー。霜降りのええ肉は1枚でええ。あとは赤身やね、赤身」
焼肉をおごってくれる先輩の話を聞きながら、脂の乗ったカルビをおかずに白ご飯を2杯食べてお腹は満腹、心も満足。
日本ではサシの入った霜降りのお肉が高級品。赤と白のコントラストが映える芸術作品であり、口にすれば、とろけるような食感とともに広がる脂の甘み。見ても食べても至福の時。あぁ、先輩すいません、しっかりした味の赤身もおいしいですけど、とろける舌ざわりで脂の乗ったお肉をお腹いっぱい食べたいです!おかわりしてもいいですか?

そんなお肉大好き食いしん坊の私は、いま、食の都パリにいます。

フランスの国民食、ステック・フリット。こちらはアントルコート(entrecote:リブロース)のステーキですフランスの国民食、ステック・フリット。こちらはアントルコート(entrecôte:リブロース)のステーキです

フランスでお肉と言えば“Steak Frites(ステック・フリット)”。ステーキとフライドポテトが国民料理と言われるほどなじみが深いそうです。この“ステック・フリット”はビストロやブラッスリーのような気軽に食事のできる普段使いのお店でも、定番メニューです。

ただ、店のメニューを見ても、どれがステーキなのかよくわからないことがあります。

例えば、こちらのメニュー表。Steakの文字は上から3番目〜5番目にありますが、なんとこの3つは日本人が想像する、いわゆる「ステーキ」ではないのです。
Tartare de boeufは牛肉のタルタルステーキという粗いみじん切りにした生の肉を胡椒や塩で味付けして香草や薬味をそえた、いわば西洋版ユッケのようなもの。Steak hachéは、牛肉100%のフランス版ハンバーグ。Steak grilléはグリルステーキなのでステーキではあるのですが、グリルしたものなので焼き目が網目状や線状についているものです。

とあるビストロのメニューです。この中でステーキはどれかというと…とあるビストロのメニューです。この中でステーキはどれかというと…

では、我々が思い浮かべるステーキ、つまりフランスの一般的な“ステック・フリット”はと言うと、一番上のentrecôte de Salers、もしくはcôte de boeufなのです。Steakって書いてないやん!

entrecôteは“リブロース”(de Salersはサレルス産ということ)、 côteは骨付きのリブロースのことです。実は、フランスのお店のメニューでは、“ステーキ”と表記せずとも牛肉の部位を書いてあるものが、それを焼いたステーキだということなのです!

ちなみにメニューでよく見る部位は、先述のアントルコート(entrecôte:リブロース)やコート(côte:骨付きのリブロース)、そしてフォーフィレ(Faux fillet:サーロイン)、フィレ(fillet:フィレ)、バヴェット(Bavette:ハラミのあたりの肉)、ラムステック(Rumsteack:ランプ)などがあります。

そして、このお肉、なんとどの部位を食べても、赤身なのです!レストランで食べても、スーパーや精肉店で購入しても、目にするのはいわゆる赤身のお肉ばかり。日本では霜降り肉とされているリブロースですら赤い色。赤身のリブロース?おーい、サシはどこにいった??

こちらがフランスのスーパーで売られている牛肉のリブロース。サシがないんですこちらがフランスのスーパーで売られている牛肉のリブロース。サシがないんです

このようなサシの入った霜降りは、フランスではめったにお目にかかれませんこのようなサシの入った霜降りは、
フランスではめったにお目にかかれません

では、このサシなし赤身肉、肝心のお味はと言いますと…。
うまい!うまいんです!肉の味が濃いんです!
日本の霜降り肉を想像して食べると「筋がある」「硬い」「食べるのがしんどい」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本のとろける霜降り牛のイメージを捨て去って、全くの別物の食材として目の前のステーキと向き合ってください。多少噛みきりにくくても、顎が疲れても、しっかり噛んで味わっていく。すると、牛肉の味がどんどん染み出てきて、「肉を食べてるなぁ!」という心で満たされていきます!

また、赤身で脂肪分が少ないせいか、意外と多くの量を食べることができます。隣の白髪マダムが200gはあるお肉をペロリ、スリムでエレガントなパリジェンヌが彼女の顔ほどの大きさはあろうかというステーキを美味しそうに完食、という光景もよく目にします。

このように、フランスでは「牛肉」といえば赤身の肉。しっかり噛んでじっくり旨味を味わうものなのです。

では、美食の国と言われるフランスで赤身の肉に慣れ親しんだ方々は、霜降りが特徴の日本の牛肉に対してどのような印象を持っているのでしょうか?

日本が海外に向けて輸出している牛肉はもちろん「和牛」です。和牛を世界中に正しく発信するために2007年に「和牛統一マーク」を制定し、日本国内で出生し日本国内で飼養された牛、かつそのことを牛トレーサビリティ制度で確認できるものを、世界に向けて「和牛」として売り出しています。

そこで、「和牛を知っていますか?」と10人ほどのフランス人に聞いてみたのですが、残念ながら「知らない」と答える人がほとんどでした。和牛という言葉自体、まだそれほど知られてはいないようです。日本産の牛肉だという説明をすると、「あぁ、”Boeuf de KOBE(神戸ビーフ)”のことだね!」と言う人も少なからずおり、神戸ビーフをはじめとする“日本産の牛肉”というものがあること自体はそれなりに認知されてきているようです。ただ、食べたことがある人はほぼいませんでした。そして、日本の牛肉のイメージについて聞くと、必ず返ってくる言葉は「値段、高いよねー」でした。
現地に住んでいる私の肌感覚として、神戸牛のような一部の日本産牛肉について一定の認知はされているものの、フランスの方々にとって、和牛は高級レストランや一部の食通のための食材というイメージであり、味云々を語る以前に一般家庭の食卓に登場するものではないという印象をフランスでは持たれているようです。

電子メディア「パリ・ビストロ」のローラン・ルネカン編集長は、「和牛は、今はまだ一般的ではないけれど、ある程度値段が下がれば一般人も買うようになるのではないでしょうか。フランス人はかなりの人が牛肉を好きだし、新しい素材には好奇心もあるから」とその価格の高さを気にしつつも、食材としての魅力は大きく、フランス人でも受け入れられるのではないかと考えています。

フランスの牛肉と日本の牛肉は全く違う素材だと語る、トゥールダルジャンのフィリップ・ラベ料理長フランスの牛肉と日本の牛肉は
全く違う素材だと語る、トゥールダルジャンのフィリップ・ラベ料理長

また、トゥールダルジャンのフィリップ・ラベ料理長は、「和牛のことはだいぶ昔から知っているけれど、フランスでは『Wagyu』の名前で、日本産でないのものが出回ってしまっていた。子牛のレバーのような味だったよ。日本産の和牛とは全く別物」と、日本産の和牛と他の国からのWagyuでは味が全く違うと指摘します。また、日本産の和牛の特徴は「しっかりあごで噛んで味わうようなフランスの牛肉とは全く違い、なによりの特徴は、軟らかいこと、口の中でとろけるような食感」と、同じ牛肉でも全く違う特徴を持つ素材として捉えているそうです。

この和牛をめぐるフランスでの状況ですが、今後少し変わるかもしれません。日欧EPAと呼ばれる日本とEUの経済連携協定の発効により、日本国産和牛をEUに輸出する関税がかからなくなったのです。
これを契機にフランスでも今後手に入りやすくなるであろう和牛の魅力をもっと知ってもらいたいと、フランスの有名レストランのシェフ20人が3月1日から1週間、特別和牛メニューを提供する“和牛ウィーク”というイベントを日本の畜産業者団体が企画し、その記者会見が開かれました。

和牛ウィークの記者会見和牛ウィークの記者会見

多くのフランス人記者が会見に参加しており、和牛への関心の高さがうかがえます多くのフランス人記者が会見に参加しており、和牛への関心の高さがうかがえます

「和牛のことは、もちろん職業柄知っていたよ。わたしたち料理人は、日本に行けば必ずそのための時間をとって食べる素材だ」と言うのは、レストラン「ル・ルレ・ベルナール・ロワゾー」のパトリック・ベルトラン料理長。

和牛メニューのデモンストレーションを行うパトリック・ベルトラン料理長和牛メニューのデモンストレーションを行うパトリック・ベルトラン料理長

20人のシェフが織りなす料理はみな、霜降り和牛がうまく組み合わさった、どれも個性あふれるクリエイティブなものばかりでした。

今回の“和牛ウィーク”に参加をしている有名シェフのみなさん今回の“和牛ウィーク”に参加をしている有名シェフのみなさん

“和牛肉のヨード風味、プンタレッレを添えて”“和牛肉のヨード風味、プンタレッレを添えて”

パトリック・ベルトラン料理長による一品“フュメした和牛の薄切り、ブイヨンとともに”日本のしゃぶしゃぶにインスピレーションを得たそうですが、味も姿も完全にフレンチの姿になりましたパトリック・ベルトラン料理長による一品“フュメした和牛の薄切り、ブイヨンとともに”日本のしゃぶしゃぶにインスピレーションを得たそうですが、味も姿も完全にフレンチの姿になりました

有名シェフにより創り出された和牛フレンチは、どれも素晴らしいものばかりでした有名シェフにより創り出された和牛フレンチは、どれも素晴らしいものばかりでした

試食をしたフランス人の記者やカメラマンに感想を伺うと、「フランスの肉とは違う味がする」「脂肪分が高く、甘味がある」「味わいが深く独特だ」「独特の食感だね。肉という感じではなく、軟らかい」など、フレンチに取り入れられた霜降り和牛を気に入っていただけた様子でした。

ただ、やはり赤身に慣れ親しんでいるためか、霜降りの脂に関しては「試食の分量(ひとくちサイズ)くらいでちょうどいいかな」「きっと、少しだけ味わうもので、たくさん食べるようなものではないように思う」という意見もありました。食通の記者さんたちであっても、赤身に慣れたフランス人の舌には、霜降り肉に可能性を感じるものの、脂はやはり少し重いようです。

料理専門記者のオリビエ・ブランディリィさんは「日本産の和牛は食べたことはありませんでした。今回の試食で分かったのですが、フランス料理にも合いますね。特徴のある食感です。肉という感じではなく、ふわりと舌の上で軟らかい」と、フランス料理と霜降り和牛の組み合わせに関して、評価は高いです。今後の和牛については、「フランス家庭に広まるかどうかは、設定価格の問題でしょうね。今までのような超高級路線ではマーケットが広がらない。ただ、和牛はやはりなによりクオリティー優先で、一定の高級路線を維持するのが大切だと思う。そもそも高級な食材だし、その価値があるものなのだから。品質を下げては、フランスではうまくいかない。食べれば、和牛がなぜ高価なのか、食通のフランス人はわかるでしょう。品質さえしっかりしていれば受け入れられる土壌はあります」と、例えある程度安く輸入できるようになったとしても、一般受けを狙って品質を下げて大量輸入を図るより、信頼できるクオリティーを保ち高級路線を進むべきとの考えです。

あぁ、こんなお肉の話を書いていたら、がっつり食べたくなってきました。今日はentrecôteかfilletか、Bavetteか。近い将来、この選択肢に和牛が入ってきてくれるのでしょうか。ちょっとだけ贅沢なお昼ごはんの選択肢として、‘entrecôte de 『和牛』’。
今日はしっかり赤身肉、明日はちょっと奮発してとろける食感、甘い脂。なんて贅沢なんでしょう!!

シャンハイ★Shanghai