2019/05/13

老舗百貨店の舞台裏

こんにちは、パリ支局の橋本美輝です。

パリで1年で最も美しい季節とされる4月。支局からほど近いパリの老舗デパート「プランタン」で行われているガイド付きツアーに参加してみました。

老舗百貨店プランタンの外観老舗百貨店プランタンの外観

ここフランスでもデパートに行く目的は、もちろんショッピングですが、このツアーは買い物のための企画ではありません。まるで観光名所を回るように、専門の資格を持ったガイドの方が約2時間ほど同店の秘話を説明し、知られざる秘話を聞けたり、普段は入ることのできない場所を案内してくれたりします。同店舗の歴史を紹介し、買い物をする時には見えない魅力を発見してもらおうという趣向の試みです。

待ち合わせはメンズ館メインフロアの案内所。この建物が1965年に開店した最初のプランタン店舗ということで、ここからツアーがスタートします。ガイドさんの声を聞くためのワイヤレスヘッドホンを参加者は各自装着し、まずは最上階のテラスに赴きます。

目の前に広がるのは、まさにパリならではの景観。建物の厳格な高さ規制が整えるスカイラインのなか、ランドマークのエッフェル塔やオペラ・ガルニエ座のほか、マドレーヌ寺院やモンマルトルの丘などが手に取るように見られ、圧巻です。

屋上から見える景観。エッフェル塔も目の前に見える屋上から見える景観。
エッフェル塔も目の前に見える

そのあとガイドに従い、店内を回りながら当時の館内構造の説明を受けます。例えば今は全体で地上十階、地下一階の店舗ですが、開店当時は地上階と二階のみが売り場で、三階より上の階は従業員の住居になっていたそうで、販売が広がるにつれ店舗も大きく展開したことが見て取れます。

ツアーは専門のガイドさんが丹念に説明してくれるツアーは専門のガイドさんが丹念に説明してくれる

開店当時の店内の様子開店当時の店内の様子

その外壁は四季を表す4つの装飾的な彫刻で飾られているほか、店名が金色のモザイクで表現されています。当時は外壁に広告を掲載することはあまり例がなく、建物を広告の媒体にするのは斬新な考えだったのだそうです。

四季を表現する4つの彫刻が店舗外壁を飾る四季を表現する4つの彫刻が
店舗外壁を飾る

外壁に店名を表示するのは、当時は斬新なマーケティング手法だった外壁に店名を表示するのは、当時は
斬新なマーケティング手法だった

従業員専用階の地下通路には、迷わないように道路名が書かれている従業員専用階の地下通路には、迷わないように道路名が書かれている

続いてガイドなしではアクセスできないエリアを回ります。まずは地下4階に降りると、ここはいってみれば販売店舗という表舞台を裏から支える縁の下の力持ちのフロア。ガラスの修理アトリエや電気工など、40人余りの職人が常時勤務して、店舗運営に支障が起きないようトラブルに対応しています。

バックステージを覗いた後は、今は使われていない幅広のメイン階段を特別に通らせてもらって、独特の丸屋根のある階に向かいます。外壁同様にフランスで歴史的建造物指定になっているこのドーム屋根には、計3000枚以上の色付きガラスパネルが張り巡らされていて壮観です。

1920年代に作られたメイン階段。一般には公開していないがツアーでなら登ることができる1920年代に作られたメイン階段。
一般には公開していないが
ツアーでなら登ることができる

アール・デコ様式のガラス張りドーム天井は息を飲むような迫力アール・デコ様式のガラス張り
ドーム天井は息を飲むような迫力

この美しい屋根のパネルは、第二次世界大戦中は戦火を避けるため外し、別の場所で保管されました。あとで元と同じ場所に戻せるよう、その全てのパネル一枚一枚に番号をふって対応したという気の遠くなるような根気のいる作業のエピソードを通じて、戦中という厳しい状況下であっても貴重な建築物とその装飾を守ろうという従業員たちのひたむきな思いを感じました。最終的に現在の形に戻したのは1970年代のことだったそうです。

ガラス張りのモチーフは花と葉ガラス張りのモチーフは花と葉

第二次大戦中に撤去するときに一枚一枚書かれた番号第二次大戦中に撤去するときに
一枚一枚書かれた番号

150年以上の歴史を持つプランタン百貨店を創立したのは地方出身の起業家の男性です。デパートというスタイルに注目した商才はもちろんですが、その成功の裏には妻の存在も大きく寄与したようです。

彼女は有名劇団コメディー・フランセーズの舞台女優でした。芸術界とのつながりもあり流行に敏感だった夫人の助言は多岐に渡りました。鉄道駅に近いことから生まれる地域のエネルギーに商機を感じ、当時はまだ町はずれだったこのエリアに注目したほか、店舗コンセプトまで彼女の固定観念にとらわれないアドバイスは店づくりに大きく貢献しました。

創業者の妻、オーギュスティーヌ・フィジェアックの肖像写真。コメディ・フランセーズの正座員だった。創業者の妻、オーギュスティーヌ・フィジェアックの肖像写真。コメディ・フランセーズの正座員だった。

例えばフランス語で「春」という意味の店名「プランタン」を提案したそうです。

エントランス部分を飾る当時デザインした「プランタン=春」をイメージするブーケ彫刻エントランス部分を飾る当時デザインした「プランタン=春」を
イメージするブーケ彫刻

床のモザイクも「春=花」をインスピレーションするデザイン床のモザイクも「春=花」を
インスピレーションするデザイン

開店当時のロゴにもブーケが使われていた開店当時のロゴにも
ブーケが使われていた

当時、競合他社はどこも地名や値段の安さをアピールする言葉を店名に選んでいたことに対し、「新しく」「新鮮」で、「美しい」場所をイメージする言葉を選んだことも、そんな柔軟なセンスからだったといいます。

フランスで女性が参政権を得るよりもはるか以前に積極的に女性の意見を取り込んだことが、今に至るまでの長い歴史を刻む老舗百貨店の原動力になったとすれば、将来を読む先見の明があったということなのかもしれません。

このツアー「プランタンの舞台裏、地下から丸天井へ」への参加はインターネットのサイト(https://www.cultival.fr/en/visites/printemps-department-store-secrets-backstage)から予約できます。参加費は13.5ユーロ、言語はフランス語や英語のほか、ロシア語、イタリア語、さらに日本語でも行なっています。開催は今年末まで続く予定です。

シャンハイ★Shanghai