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【解説】部活動の地域移行って結局なんなの?

06/08 17:13

 6月6日、「運動部活動の地域移行に関する検討会議」でまとめられた提言がスポーツ庁に提出されました。

 今後、部活動の地域移行が本格的に進められていくことになります。

 今回の地域移行の目的として「教員の労働環境改善のため」「指導の専門性を高めるため」などといったことが提言の中では語られているのですが、どうしても先生目線で語られていることが多いように感じます。

 本稿では、「で、結局どうなるの?」という生徒目線、保護者目線で、具体的な事例も交えながら解説していきます。

 そもそもなぜ部活動を地域移行させなければならないのでしょうか。

 2020年9月に文部科学省が出した「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」では2023年度から休日の地域移行をする方向性が示されています。
 もう来年の話です。

 これをきっかけとして、今回の「部活動の地域移行」という議論があるのですが、この改革を行わなければならない理由のひとつが「教員の労働環境改善」です。

 大阪市の就業規則によると、公立中学校教員の勤務時間は1週間で38時間45分と決められています。ところが、実際の勤務実態は大きく異なっていて、2016年の教員勤務実態調査によると1週間で平均63時間20分だったということです。

 1週間で約25時間オーバーしているので、1か月では約100時間。

 厚生労働省が定めた「病気や死亡に至るリスクが高まる時間外労働時間」いわゆる「過労死ライン」は6か月連続80時間以上ですので、それを大きく超えていることになります。

 また、学校の先生というのは働き方が一般的な公務員と違って規則的ではないため、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)によって給与の4%が、いわゆる”みなし残業代”としてあらかじめ支払われています。

 この法令は1971年に制定されたもので、4%と決められた理由は、当時の平均的な残業時間が8時間程度だったためとされています。

 休日に部活動の引率をした場合は「休日手当」が出ますが、自治体によって額が異なるものの、いずれにしても極めて少額です。

 「あまりにもサービス残業にあたる部分が多いのではないか?」「労働時間の中で切り出せるものはないか?」と検討された結果のひとつが「部活動指導の2時間がなくなれば少なくとも2時間早く帰れるのではないか」という答えだったのです。

 また、部活動に関して専門的な知識を持たない先生が指導することも課題になっていました。「テニス部なのに顧問の先生はテニス未経験」という場面をみなさんも目にしたことがあると思います。

 これは先生にとって負担であり、生徒にとっても適切な指導が受けられないという、お互いによくない状況を生んでいました。

 これらのことを理由として、部活動の地域移行が検討されることになりました。

 では何がどう変わるのでしょうか?
 「地域」に「移行」するとはどういうことなのでしょうか。

 まず、来年からは実はそんなに変わりません。

 現状ですでにスポーツ庁のガイドラインに「週2日の休養日」かつ「土日はどちらかを休養日」であることが望ましいとされています。

 自治体によって細かい対応は違うようですが、たいていの公立中学校では土日のどちらかしか部活動が行われていないと思います。

 来年度からは、その土日どちらかの指導を学校の先生ではなく外部の指導者が行う、というだけです。
 
 平日は学校の先生が指導します。

 すでに部活指導員や外部指導員という、先生ではない人が指導している部活動もあるでしょう。
 その場合は何も変わりません。いままでどおりです。

 ではなぜ、そんなに部活動の地域移行に関する記事がいろんな媒体で発信されて騒ぎになるのか?

 それはいくつかの課題が想定され、その課題を生徒のみなさん、保護者のみなさんが看過できない可能性があるからです。

 課題1.会費
 検討会議の提言の中では今回の地域移行に際し「受益者負担」を掲げていて、外部から来てもらった指導者に指導料を支払うことになるとされています。

 これまでの部活動では指導料を支払っていませんでしたので、大きな抵抗が予想されています。

 すでに休日の地域移行を果たしている、岐阜県羽島市立竹鼻中学校の例をご紹介します。
 竹鼻中学校の場合、年会費が2000円、参加料が4000円、部活動中にケガなどをした場合に備えた保険代が800円で、あわせて年間6800円を保護者が支払っています。

 また、モデル事業として、ことし地域移行を試験的におこなった大阪府内のある自治体で、保護者に会費についてアンケートを取ったところ「月額1000円未満」という回答が最も多かったそうです。

 「まあその程度の負担なら払えないことはないな」と思われた方もいると思います。

 しかし、岐阜の例で指導者に支払われている金額は1回2~3時間の指導で「1000円」です。

 指導者もお金目的で指導をしているわけではないでしょうが、岐阜県の最低賃金が880円であることを考えると「1回1000円」はちょっと少ないと言えるでしょう。

 果たしてこのままの額で今後も継続していけるのかは疑問です。

 また「会費月額1000円未満」の希望が多かった大阪府のある自治体の担当者は「月額1000円では、指導料の捻出は難しい」と話しています。
 さらに飛躍した話をすると、例えば野球部の指導者で「元プロ野球選手」と「野球経験のある保護者」だったらどちらの指導がいいでしょうか?

 いろんな考え方があると思いますが、元プロが教えてくれるなら「それはぜひ教えて欲しい」となる人もいますよね。
 しかし、元プロが「1回1000円」で来てくれるとはなかなか考えにくいです。

 元プロ選手が指導する野球教室は月額1万円~が一般的で、上級クラスになると3万円、4万円もザラにあります。

 こういった傾向が進んでいけば、経済格差=スポーツ格差となっていくかもしれません。

 課題2.指導者の確保
 来年はとりあえず休日の地域移行から始まりますが、検討会議の提言には「2026年までを移行集中期間として」「平日も順次移行」としています。
 「中学校から部活動がなくなる」と表現される理由はここにあります。

 つまり、最終的には1週間すべての曜日で、部活動を学校の先生ではない、外部の指導者が指導するようになっていくということです。

 土日や祝日は外部の指導者も自分の仕事が休みなので指導できるかもしれません。

 しかし、平日の夕方、午後4時ごろから指導できる人はどれほどいるのでしょうか。

 ちなみにモデル事業で地域移行を始めた自治体の中には、近隣大学の学生に依頼したり、すでに仕事をリタイアされた方々にお願いしたり、という形を取ったところもあるようです。

 しかし、課題1で述べたように資金は潤沢ではありません。

 部活動の指導だけで生活できるほどの収入は得られないでしょう。
 平日の指導者確保は大きな課題になると考えられます。

 また、提言には「部活動の指導をしたい教員の兼職兼業を認めていくべき」と書かれていて、実際に地域移行が進んでいる中学校でも、学校の先生が、先生としてではなく地域の指導員の1人として、指導しているケースが多く見られます。

 平日の指導者確保先が、結局学校の先生になってしまっては「教員の労働環境改善」という目的から考えれば本末転倒になってしまいます。

 課題3.施設の確保
 中学校の部活動では、学校によっては現時点でも施設の確保が難しくなっています。

 グラウンドの半分をサッカー部が、残り半分を野球部が、そしてトラックを陸上部が使用するということもあり、野球部やサッカー部のボールが陸上部に当たるなんてこともあるようです。

 室内競技では体育館を半面ずつにわけていたのではすべての部が活動できないので、4分の1に分けて使用しているケースもあるそうです。

 今回の地域移行では部活動をする施設の管理も指導者と同じように地域に移行していくことが期待されています。

 先述の岐阜県羽島市立竹鼻中学校では、はしまなごみスポーツクラブという総合型地域スポーツクラブが学校の体育館やグラウンド、または自治体所有の施設の使用スケジュールを組んでいます。
 
 施設も平日が課題です。
 竹鼻中学校は、休日は午前8時から午後5時までを3時間ずつ3分割して使用していますが、平日はそうはいきません。
 どの部活動も授業終わりの午後4時から使用します。

 そうなると考えられるのは、自治体が所有する施設の有効活用ということになりますが、必ずしも校区内にあるとは限りません。

 その場合、保護者の送迎という「負担」が発生することになります。

 課題4.事故の責任
 運動部活動ではケガをすることがありえます。
 また、夏には熱中症などのリスクもあります。
 過去には死亡事故も起きています。

 これまで公立中学校では、公務員である先生が部活動の責任者でしたので、ほとんどの場合、事故の責任は国家賠償法により自治体が負うことになっています。

 部活動が地域に移行し指導者が先生でなくなった場合、こういった責任は誰が負うことになるのでしょうか。

 指導者個人の責任になるのでしょうか?

 また、体罰の問題もあります。
 先頃、熊本県の私立高校で体罰問題がニュースになりましたが、例えば外部の指導者が体罰、もしくはそれに類する行為を行った場合、誰がその責任を負うのでしょうか。

【取材後記】文化部活動についても文化庁が各自治体にモデル事業を依頼していて、運動部活動同様、地域移行しようとしています。

 取材してみると文化部は運動部よりもさらに多くの課題をかかえていました。
 例えば、吹奏楽部。
 一口に吹奏楽と言っても楽器は様々です。
 打楽器、管楽器などパート別に指導者を頼もうとしたら・・・ひとつの吹奏楽部に一体何人の指導者が必要になるのでしょうか。

 スポーツ庁、文化庁、いずれもモデル事業の成果報告がホームページに掲載されています。
 それらを見ていくと、あることが共通しています。

 それは、地域移行の目的や主役を「生徒」に置いていることです。
 教員の労働環境改善も大切なことです。
 生徒、教師、保護者の三者にとってプラスになるための改革を期待したいです。

関西ニュースヘッドラインKANSAI

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