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【生活困窮者からのSOS】「まさか自分が・・・」今も深い影を落とす「コロナ」の余波 職を失い、家庭は崩れ・・・誰にも頼れず孤立する男性 現実に向き合う支援の現場は【前編】
05/06 11:30 配信
大阪府内で、生活困窮者の支援を行うNPO法人「生活支援機構ALL」。代表の坂本慎治さん(38)のもとには、全国から住む場所を失ってしまった人などから、年間約3000件の相談が寄せられています。
NPO法人では近年、住む場所の支援などを行う中で、相談者から「死にたい」「生きる希望がない」といった、切実な声が多くなってきているといいます。
動けずに救急搬送 気づけば頼れる人は一人もいない・・・53歳男性のケース
坂本さんに同行し向かったのは、かつて支援した53歳の男性の自宅。玄関を開けると室内からは異臭が立ちこめ、小バエが飛び交っています・・・。
この部屋で生活をする男性は、1ヵ月以上ベッドから動けない状況になっていました。腹部に水がたまり、立ち上がることも食事をとることもできません。
机の上に置かれたファストフードは、1ヵ月ほど前に配達された時の状態で、開封されることもなく小バエが集まっていました。
命が関わる状況に陥っても、誰かに助けを呼ぼうにも、男性にその『誰か』は一人もいないといいます。
(53歳男性)
「全財産、コロナでなくなったんです」「3000万円借金した」「頭がおかしくなった」
話を聞くと、男性はかつて工務店を営んでいましたがコロナ禍で仕事が激減。経営が立ち行かなくなり、倒産に追い込まれたといいます。
生活を立て直そうと親族から借金を重ねましたが、状況は好転せず、やがて家族も男性の元を離れてしまいました。すでに身寄りはありません。
救急車を自分で呼べなかった理由を男性はこう答えました。
「救急車を呼ぼうと思ったけど・・・犬をどうしようかと思って」
男性の部屋には2匹の犬がいます。犬も餌を食べていない状況が続いていました。自分だけが病院へ行って良いのだろうかと、自問自答する日々…。
唯一の家族『愛犬2匹』の存在が助けを呼ぶことをためらわせていました。
坂本さんはすぐに救急車を呼びました。
(53歳男性)
「犬が心配やから、必ず病気を治して家に戻ってくる」
救急隊員に運ばれる直前、誓いを立てるようにぽつりと自分自身に言い聞かせていました。坂本さんに“唯一の家族”の世話を頼み、男性は病院に搬送されました。
生活保護で家族と疎遠に コロナで自己破産 余波は今でも蝕む・・・
コロナによって人生の歯車が狂う人は、決して少なくありません。
事務所を訪れた59歳の男性もまた、コロナの影響で人生が大きく変わった一人でした。
電気工事の仕事に就いていた男性はコロナ禍で企業の設備投資が止まり、職を失いました。生活を立て直すため約400万円の借金を背負いましたが、返せず自己破産しました。
現在、生活保護を受けている男性は家族とは疎遠になっています。『娘からは、生活保護を受けている父親が居ると周りに思われたくないと。突き放された』と、寂しそうな声で話しました。『ここしか相談できる場所がない』
坂本さんは支援し続ける中で、コロナで社会が停滞する前まではなんとか生活が送れていた人たちが、今は徐々に困窮に陥る現状に変わってきたと実感しています。
(坂本さん)
「コロナが終わっても、その余波で人生が変わってしまった人は本当に多い。『まさか自分が生活保護になるとは』と話す人は多い」
天王寺で母子が3日間野宿・・・ NPO立ち上げのきっかけ
大阪市内では約250のNPOが居住支援などを行っていますが、「ALL」は先駆者として大阪市から認定された団体です。
設立のきっかけは、坂本さんが不動産業に携わっていた頃の、天王寺公園で3日間野宿していた母子との出会いだといいます。
親子には所持金はなく、水だけでしのいでいた生活から脱却しようと、当時坂本さんが務めていた店舗を訪れました。坂本さんはその時「どうにか娘だけでも助けてほしい」と懇願されたといいます。
その言葉に心を突き動かされた坂本さんは知り合いの家主と交渉し、住居を確保した経験が活動の原点となっています。
「家もない、頼る人もいない人を支えたい」その思いで、坂本さんは今も支援を続けています。
53歳男性は帰らぬ人に・・・ 「最後まで見届けたい」NPOで供養も
2025年8月から坂本さんは、支援した人が亡くなった後の「供養」にも取り組み始めました。支援者の中には身寄りがなく、最終的に無縁仏として扱われる人も少なくないからです。
坂本さんは「身内ではなくても関わった以上、最後まで見届けたい」という思いから、事務所に祭壇を設置。協力してくれる僧侶とともに合同供養を行っています。
冒頭で救急搬送された53歳の男性は、その後回復の兆しを見せていましたが、退院を目前にして容体が急変し、帰らぬ人となりました。肝硬変でした。
NPO法人では男性の親族を探しましたが、連絡がつく人は一人もおらず、供養は坂本さんたちの手で行われました。
坂本さんは、53歳の男性と最期に交わした言葉をこう振り返ります。「体が良くなったら、車でいろんなところに行きたいと言っていた」
あとがき
コロナの影響は、統計の数字だけでは測れない形で人々の人生に刻まれています。
取材の中で見えてきた『誰にも助けを求められず、孤独の中で追い詰められていく人たち』。坂本さんのもとには、そうした人たちからのSOSが毎日届いているのです。
今、改めて現状の社会の制度は“セーフティーネット”としての役割を十分に担えているのだろうかと感じています。コロナ後の社会において、支援の仕組みそのものが問われています。
(取材ディレクタ- 永井佳織)
最終更新:05/06 11:30


