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【生活困窮者からのSOS】~生きることがつらい~ 制度の隙間に落ちる若者たち 社会で積み重なる不信 貧困の記憶 支援差し伸べるも・・・姿を消す人たち【後編】
05/07 11:30 配信
自分の死を願う・・・強い「希死念慮」を抱えながら生活する30代の男性は、これまで周りの友人などに何度も苦しさを打ち明けてきました。
しかし返ってきたのは、「おまえの性格やん」という言葉でした。
精神状態が不安定になる中、心療内科に電話で助けを求めましたが、電話口で告げられたのは『1ヵ月以上、予約の空きはない』という現実。その日のうちに十数カ所の医療機関に連絡を試みましたが、男性の話を聞いてくれる場所は見つかりませんでした。
命の危機を感じている人であっても、医療につながることができない現状が、今の日本社会にはあります。
医療・福祉などの制度が整えられていても、それらを利用するには予約や手続きといった行動が必要で、その行動を起こす気力を失った人たちから順に、“制度の外”へこぼれ落ちていきます。
家庭機能の崩壊と自己責任の圧力・・・Aさん(24)のケース
大阪府内で、生活困窮者などの支援を行うNPO法人「生活支援機構ALL」。代表の坂本慎治さん(38)のもとには、助けを求める連絡が日々届きます。
24歳のAさんは、住民票の閲覧制限を求めてALLを訪れました。Aさんは親と暮らしていましたが、働いて得た収入を親に奪われ、ギャンブルや違法薬物に全て使われたといいます。
Aさん
「親から、顔以外のばれない場所を殴られたり蹴られたりしていました。食べ物を与えられない日もありました。警察に、親が違法薬物をやっていると何度か相談をしましたが、『確実にある状態じゃないと踏み込めない』と断られ、自分の力では結局何もできなかった」
Aさんにとって家族は、セーフティーネットとしての機能はなく、安全な場所ではありませんでした。
若者が孤立し困窮する過程は、決して“自己責任”と言いきれません。相談に訪れる若者には困っていること自体を【恥】と感じ、誰にも相談できないまま困窮していく若者は少なくありません。
1000人以上に住まいを支援 「ALL」が取り組む”生活の安定”
「生活支援機構ALL」の支援では、まず住まいを確保します。
現在1000人以上が住居の提供を受けて生活していて、住まいを得ることで多くの人は一時的に安定を取り戻しますが、孤立する要因の根本を解消することはできません。
支援の現場では、家賃を滞納したまま姿を消す人など、社会とのつながりを維持し続けることができない人も存在します。
今の居住支援の形は「住む場所」を提供して終わる場合も多く、支援後、社会とのつながりや人との関係性までは支えていくことができていないのが現状です。
ピーマン1個をきょうだい4人で 「大人は信用できない」Aさんが語る貧困の記憶
支援から2ヵ月後、Aさんは生活保護を利用しながら生活の立て直しを進めていました。
取材の中で、Aさんは幼少期の記憶を、こう語りました。
(Aさん)
「何も食べられない日もあったし、10円玉をかき集めてうどんとかピーマン1個を、きょうだい4人で分けた日もあった。みんなお腹がすいていた。食べないと死ぬ」
ピーマン1個はAさんが炒め、きょうだいに全て分け与えたといいます。
家族のもとを離れても貧困から抜け出せなかったAさん。その後働いていたバーで店長の財布から2万円を盗み、逮捕されました。半年間、給料が支払われなかった事がきっかけだったといいます。
その時、Aさんは追い詰められた状態でしたが、周りにSOSは出せなかったといいます。
「誰にも頼ろうと思わなかった」「大人は信用できない」
その言葉は個人の考えというよりも、社会の中で積み重なってきた不信の結果といえます。
Aさんは現在、簿記の資格取得を目指し、就職に向けて勉強を続けています。
問われるべきは「個人」ではなく「支援の形」
坂本さんは支援している人たちに、『人と関わる機会』を作ってもらいたいと、農地を買い取り、農業を始めました。
(坂本さん)
「ゼロからスタートで、すこしずつ畑で頑張って、地域の人たちとコミュニティーを作って。『生きてて良かったな』とか『誰かの役に立ててるな』とか、地域の人から『ありがとう』と言われる体験をして欲しい」
就職が決まったAさん・・・その後突然 行方知れずに
2025年12月、Aさんは再びALLを訪ねました。事務職で働くことが決まった喜びを、坂本さんに伝えに来たのです。
坂本さん
「何の仕事やってるの?」
Aさん
「簿記とったんで」
坂本さん
「やるやん!簿記系の仕事なん?」
Aさん
「事務職なんで」
生活保護を離れ、Aさんは新たな生活を始めました。
坂本さんは、これからも挫折しないようにサポートしていくと話していましたが、就職報告から3ヵ月後。
Aさんが家賃を滞納していることが判明しました。
連絡を取るも繋がらず、坂本さんは家を訪ねましたが、貴重品やかばん以外を全て部屋に残したまま、行方が分からなくなりました。
最後にAさんと坂本さんがやりとりしたメールには・・・
『親に所在地バレしたかもしれません。』
(坂本)
「心配ですよね。何かあったんかな」
Aさんの安否は今もわからないままです。
あとがき
坂本さんの元には日々、支援を受けた人たちからのメッセージが届いています。
支援を受けた人から送られる一文は、かろうじて社会とつながり続けている証。ですが、それを支えるのが制度ではなく“個人の善意”である限り、同じことが繰り返されていくと感じています。
今問われているのは、若者の生き方ではなく、彼らをそこまで追い込んでしまう社会の設計そのものではないでしょうか。
(取材ディレクタ- 永井佳織)
最終更新:05/07 11:30


