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2011年9月4日(前編)・11日(後編)放送

敷地1000坪の庭

この物件が抱える問題

  • ■箱根マイセン庭園美術館の移転先の庭園をリフォームしたいが、約1000坪の敷地内の庭園は広くて手のつけようがない
  • ■お客さんだけでなく、地域の方にも気軽に訪れてほしいが、元々個人宅ということもあり、外部からの侵入を許さない閉鎖的な作りになっている
  • ■敷地を囲むように高い木々が生い茂り、目隠しとなっているため、隣接する道路からも敷地内が見えず、中に何があるのか判らない
  • ■人の手が入らないまま2年経過しており、張り出した植木の根の圧力で石積みが崩壊している
  • ■崩れた石があちこちに散乱している
  • ■敷地全体が坂の途中にあり、庭にも高低差がある
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この問題を抱えた物件に、立ち上がった「匠」とその技

写真:「匠」の顔写真

廃材のスタイリスト 金井良一

景観としての良さを生み出す閉鎖的な空間は、来場者にとっては敷居が高く、気軽に入りにくい。そこに、コミュニティ部分と開放感を、どう処理して生み出すかが課題。

現場検証 問題解決のために必要なリフォームは…?

チーム再び

画像:敷地1000坪の庭

前回ユージさんと友だちでおこなった親孝行リフォームの評判が良く、なんと箱根マイセン美術館からリフォームの依頼が舞い込みました。前回と同じメンバーで来てほしいとの声に驚きながらも笑顔になるユージさんと友人たち。「匠」も再び金井が指名されました。

画像:敷地1000坪の庭

そこで、マイセンの知識どころか、美術館へ脚を運んだことすらあまり無い面々は、現場の検証も兼ねて、現在の美術館へ向かいました。初めて知る磁器マイセンの美しさと値段に驚く一同。

画像:敷地1000坪の庭

美術館の観覧を終えたその脚で、リフォームの現場へ。今回の依頼は、美術館の移転先である新たな敷地の庭の整備。見た目の大きさもさることながら、その敷地面積が1000坪あることを聞いて、皆唖然。しかし、中に入ってしまえば、その庭や建物の美しさに魅入るのでした。

画像:敷地1000坪の庭

館長の口から出た希望は、街の活性化のために美術館へのお客さんだけでなく、地域の方が気軽に集まれるような庭にしてほしいということ。その要望に照らし合わせながら、現状の問題点を見出した「匠」やユージさんたち。いよいよリフォームに挑戦です!

閉鎖的な環境を改善する

画像:敷地1000坪の庭

ガーデンリフォーム初日。
まずは、敷地の南側一帯に鬱蒼と茂っている植木の整理。「匠」から指導を受け、一斉に作業を開始したユージさんと仲間たち。放置され、敷地からはみ出すほど伸び放題だった草木との格闘が始まりました。

画像:敷地1000坪の庭

続いて、「匠」がユンボを使って石を取り除きはじめました。敷地の周りに生えている大きい木を移植するために、その根が地面から外れやすくなるよう石をどけたのです。石が片付くと次々と根っこを掘り出して移植作業。夏場の移植は、木が枯れてしまう可能性が高く、細心の注意を払わねばなりません。

画像:敷地1000坪の庭

鬱蒼と茂り壁になっていた木々の剪定や移動で、すっきりと整理された南側。風や光が通り、敷地外の道路から中庭と建物が見えるようになりました。その開放感を味わうユージさんたちや、美しさを堪能する「匠」の表情は満足そうです。

技法とアイデアに溢れた駐車場

画像:敷地1000坪の庭

草木に隠れていた土留めの石積みを、ユンボを使って解体。さらに敷地の中へと掘り進めます。これは、美術館を訪れるお客さんの駐車場を作るための作業。切らずに残した大木を上手くかわしながら、石を積み直すことに。「乱積み」とよばれるセメントを使わない石の積み上げ方を採用。こうして敷地の南側には、大木を切ることなく、自然の景観を生かした駐車スペースを確保することができました。

画像:敷地1000坪の庭

傾斜がきつい土地のため、雨などで土が流れ、石積みが崩れないよう、コンクリートを敷いて押さえていきます。すると「匠」が突然、せっかく綺麗に均したコンクリートに伐採した木の枝を埋め始めました。これは、駐車時の目安とする白線の代わり。輪留めになる石と共に、木の枝が次々に埋められていきました。

画像:敷地1000坪の庭

枝を埋め終えると、まだ固まっていないコンクリートの上に、特殊な液体を散布する「匠」。半日置いて水を流すと、固まらなかった表面が洗い流され、次第にコンクリートに含まれる砂利が浮き上がってきました。これは「洗い出し工法」と呼ばれる技法。ユージさんの友だち達も、仕上がりの良さに感動の声を上げました。

画像:敷地1000坪の庭

続いて、「匠」は埋めていた枝を掘り出しはじめました。「せっかく可愛くなっていたのに」と驚く皆を気にすることもなく、次々に枝を掘り出す「匠」。これには理由が。枝のままだと腐ってしまうので掘り出してしまい、その跡として出来た枝の形の溝に茶色に染めたセメントを流しこんで、駐車スペースの区切り線としたのです。こうして自然の趣きあふれる駐車場が無事完成しました。

自然を模した階段を

画像:敷地1000坪の庭

正面玄関に当たる東側の作業が始まりました。門の周りの植木の剪定や移植を終えると、続いて、ユンボで洋館前の石垣を崩し始めました。そうして取り出した巨大な石を、なんと正面玄関の門の前に置いたではありませんか。次々と運ばれてくる石は、一列に並べられ、門を塞ぐ形に。

画像:敷地1000坪の庭

植木が移植され不要になった土を、先程崩した石垣があった場所に運び、洋館の正面を緩やかな傾斜にしてきます。盛られた土に、「匠」が石垣を崩して出た石を不規則に並べるように指示。どうやら「匠」は階段を作るつもりのようですが…

画像:敷地1000坪の庭

円柱状のコンクリート柱を作る際に使うボイド管を縦半分にカットし、配置していきます。そうして階段状になったところに、コンクリートを流し込み乾燥を待ちます。翌日、ボイド管を外すと、半円状に丸みを帯びた石段が完成。

画像:敷地1000坪の庭

と思いきや、綺麗に仕上がったコンクリートの表面をバールで叩き、削り始めた「匠」。それは自然のものに見えるようにするため表面を荒くしていたのです。納得したところで全員で作業開始。根気と体力が要る作業です。出来上がった皆の力の結晶に、ユージさんも感動の声をあげました。

画像:敷地1000坪の庭

更に仕上げとして、敷地内に生えているシダや苔などの小さな植物を持ってきて、予め空けておいた石段の隙間へ植え込んでいきます。「雑草じゃないの?」と聞くユージさんに、「匠」は自然界に雑草は無いという考え方を教えてくれました。こうして出来上がったのは、一段一段上がるごとに足下の可愛い草木にふと目が奪われる楽しげな階段。森の中の美術館にふさわしい、自然豊かなアプローチが完成しました。

巨大な切り株

画像:敷地1000坪の庭

瓦の再生工場に向かった「匠」たち。工場では、廃材の瓦を砕き、特殊な機械でふるいにかけて、様々な大きさに分けています。その中から、「匠」は、細かく砕かれたわずか2mmほどの瓦の粒を、なんと2トンも買い取りました。しかし単価が安く、さらに自分達で運び運搬費も節約したので、大幅に費用を押さえることができました。

画像:敷地1000坪の庭

現場に戻ると、敷地の中央に位置する大きな中庭を、あえて更地に近い状態にする作業が待っていました。庭の景観を作っていた植木は掘り起こし、あとで移植するため一時保管。埋まっている石も再利用を考えて全て丁寧に取り除きました。
こうして開けた空間に、角材に水平器をくくりつけた大きなコンパスのような装置が作られました。

画像:敷地1000坪の庭

コンパスのような装置で円を描き、鉄筋を組みます。どうやらここに、丸い基礎を作るようです。組んだ鉄筋にモルタルを塗って基礎を作り、その内側に砕石を敷き詰めてできたのは、直径5mの円形の台。全部で5つ作った「匠」は、茶色の特殊なモルタルで化粧し、切り株をイメージした擬木へと仕上げていきます。遊び心がくすぐられたユージさん達も早速挑戦!

画像:敷地1000坪の庭

側面が仕上がると、あの瓦の再生材を円形の台の上に敷き詰めていきます。真夏の炎天下、水やセメントが混ぜられ、ずっしり重くなった瓦の粒を、一輪車で何度も運び上げる体力勝負の作業。ユージさんと後輩たち、お互い負けじと張り合うも、最後は完全にオーバーヒート。それでも均しを終え、一時保管していた植木を移植して無事完成!

画像:敷地1000坪の庭

こうして、かつて建物への視界を遮るように緑が茂っていた中庭は、植木の配置を変えて空間を広げ、開放的な憩いのスペースに。大きな切り株のような円形のテラスが、傾斜を生かして段々畑のように連なっています。箱根特有の霧深く、湿気が多いこの地でも擬木は腐る心配はありません。

石のスライスで美術館の顔を

画像:敷地1000坪の庭

続いて、石垣を崩して出た、1個でゆうに30kgは超える大きな石を、次々にトラックに積み込みました。運んだ先は、石の加工場。運び込んだ石を早速加工。人工ダイヤモンドの刃がついた機械で、水をかけながら切っていくと…5cmの厚さにカットされた、まるで食パンのような石のスライスが14枚作られました。

画像:敷地1000坪の庭

このスライスした石に、美術館の名前が一文字ずつ刻み込まれました。そう、これは入り口に設けるモザイク模様の看板。敷地の正門にある石柱にはめ込むため、石をあてがい輪郭をトレースすると、ぴったり石が収まるように掘り込みました。

画像:敷地1000坪の庭

その作業の間に、ユージさんは文字を彫った部分に色を入れます。美術館の顔となるだけに失敗は許されません。色が入って文字がよりくっきりと浮かび上がった石を、順番に固定していきます。こうして敷地の正門に、現場で出た石を使って堂々たる美術館の新たな看板が掲げられました。

温水の道を作る

画像:敷地1000坪の庭

続いて、あの切り株を模した大きな丸いテラス同士の隙間に、モルタルを直接敷き、土の部分を覆っていきます。切り株風の淵とのつなぎ目も埋め、表面をきれいに均し終えると、塩ビの分厚いシートが固まったモルタルの上に覆い被せられました。テラスの縁取りに合わせるようにシートをカットして整えていきます。

画像:敷地1000坪の庭

中庭を掘り起こした時に出た石を、道のように続く塩ビシートの上に配置。伐採した木の枝なども添え、最後に砂利が底に敷き詰められました。こうして、切り株のテラスの間に、自然の景観が細やかに再現されました。「匠」の仕事に手抜きはありません。その上、さらに驚きの仕掛けが…

画像:敷地1000坪の庭

看板にも使ったスライスした石を、テラスのある斜面の一番高い所に、階段状に何段も重ねて設置。そして、木陰に設置したバルブをひねると…なんと言うことでしょう!積み重ねた石の上から、温泉のお湯が滝のように流れて落ちて来るではありませんか!そう、切り株のテラスの間に作った塩ビシートの道は、小川のせせらぎを作るためだったのです。

画像:敷地1000坪の庭

そしてもう一つ、人々の交流の場が欲しいと言っていた館長の思いを受け、「匠」が考えていたものがありました。それが、温泉の小川の下流に作った足湯。試しに足をつけてみたユージさん、すっかり気に入ったようです。箱根の美術館ならではの、この心憎い仕掛けを以て、すべてのガーデンリフォームは完了。いよいよお披露目です!

笑顔が集まる庭に

画像:敷地1000坪の庭

箱根の新名所として無事完成した美術館に、多くのお客さんが訪れました。お客さんが玄関へと足を運ぶ石段に設置された手すりは、以前門扉に使われていたフェンスを再利用したもの。車椅子で訪れるお客さんを考慮した、石段に沿って駐車場から続くスロープには、あの瓦の再生材を使用。水はけがよく、滑りにくい特質を活かしました。

画像:敷地1000坪の庭

バリアフリーの対応はスロープだけではありません。あの切り株を模した5つの円形デッキの1つへは、屋内と床の高さを同じにして、車椅子でもスムーズに出入りできるようになっています。そんな円形デッキは、カフェとして使うもよし、パーティを開くもよし、子どもたちの遊び場にするのもよしと、使い道は思いのまま。デッキの間を縫うように流れる川のせせらぎに耳を傾け、楽しむことも。

画像:敷地1000坪の庭

さらに「匠」が子どもたちの為に作ったのが、枯れた松の巨木を使ったアスレチック。太い丸太の橋を渡って、てっぺんまで登った先にあるのは、木の葉を型どったボタン。押すと、脇の小さな切り株から霧状の水が噴射!そんな好奇心をくすぐる仕掛けの周りに集まった子どもたちの前では、かつての不良少年もすっかり気のいいお兄さん。庭に笑い声が響き渡りました。箱根の森に子供たちも楽しめる美術館ができました。

今回お手伝いいただいたユージさんのお友達の皆さん
写真:ユージさんのお友達の皆さん
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