診察室
診察日:2004年6月15日
テーマ: 『本当は怖い頭痛〜忍び寄る黒い影〜』
『本当は怖い虫歯〜忙しさの代償〜』
『本当は怖い頭痛〜忍び寄る黒い影〜』
T・Mさん(女性)/49歳(当時) OL(保険会社勤務)
10年前、夫に先立たれて以来、仕事も家庭も自分にむち打って頑張ってきたT・Mさん。 数年前から時折頭痛が起こり始め、いつしか疲れによる慢性のものだと思うようになった。 そんな彼女に様々な症状が現れてきた。
(1)こめかみから後頭部にかけての頭痛
(2)肩こり
(3)つまずきやすい
(4)手足がいうことをきかない
(5)水を大量に飲んだ後、頭が重い
(6)視野が欠ける
緑内障
<なぜ、頭痛から緑内障に?>
「緑内障」とは視神経の異常で徐々に視野が欠けていき、失明することもある目の病気。頻繁に起こるようになった頭痛は、緑内障が原因だったのです。そもそも私たちの目は「房水(ぼうすい)」と呼ばれる水分の量を調節することで、眼圧<目の圧力>が一定に保たれています。しかし、T・Mさんの場合、デスクワークで下を向き続けたことで房水の出口が圧迫され、狭くなっていました。そのため、水分の流出が悪くなり、房水が溜まりすぎてしまったのです。結果、眼圧が上昇し、目の中の組織が圧迫されると、その痛みが頭部全体の痛みとして伝わることに。水を大量に飲んだ後の頭の重さは、体内の水分の上昇に伴って房水が増え、眼圧が上昇したことが原因でした。眼圧が上がり続けると、眼球の裏の視神経をも圧迫。ついには神経が破壊され、視野がどんどん欠けていくのです。肩こりは、欠けた視野を補おうと、症状の軽いほうの目を無意識に酷使し、こめかみから肩にかけての筋肉に負担がかかったためでした。階段での踏み外しやつまずきは、遠近感がつかみにくくなり、段差が測れなくなったため。手足がいうことをきかないのも、手足自体が悪いのではなく、視野が欠けていたために、目測を誤ったことが原因でした。
それにしてもなぜ、T・Mさんは失明寸前まで視野が欠けていたことに気づかなかったのでしょうか?一つは、進行が非常に緩やかであるため。そしてもう一つは、ある程度まで視野の中心部分が見えているため、人は無意識に欠けた部分を補おうと、視点を移動させ、全体が見えていると錯覚してしまうためです。結果、何をしてもピントが合わない近視や、遠視などと違い、その異常に気づきにくいのです。緑内障は将来的に、両目に及びます。そして、その進行をとめることは出来ても失った視野を取り戻す治療法は今のところありません。それだけに、小さな症状を見逃さず、早期発見することが大事なのです。現在、緑内障をわずらっている人はおよそ400万人と推測されていますが、治療しているのはわずか40万人。つまり360万人が、自覚のないままに緑内障を放置しているのです。
『本当は怖い虫歯〜忙しさの代償〜』
K・Kさん(男性)/41歳(当時) 会社員(旅行会社勤務)
二人の中学生の子供を抱え、かさみだした教育費。子供たちの将来を考え、日々の激務に耐え働いていたK・Kさん。そんな彼は1年前から少しずつ痛み出した「虫歯」が気になっていた。
しかし、忙しさにかまけて放っておいたために、今や歯の中心に大きな穴があいてしまいました。
ほどなく、K・Kさんに様々な症状が現れてきた。
(1)虫歯
(2)歯茎から出血
(3)発熱
(4)高熱
(5)長期間、熱が続く
(6)指先に赤黒い斑点
脳梗塞
<なぜ、虫歯から脳梗塞に?>
「脳梗塞」とは脳の血管が血栓などでつまり、血流が行き渡らなくなることで脳の組織が壊死してしまう病気。しかし、脳の病気と虫歯とは一体どんな関係があるのでしょうか?そこには、「感染性心内膜炎」という恐ろしい病気が隠されていました。「感染性心内膜炎」とは心臓の内部になんらかの細菌が侵入し、心臓の一部を腐らせてしまう病。K・Kさんの場合、放置していた虫歯の歯茎から出血したその時、細菌が血液中に侵入したのです。健康な人の場合、大抵の細菌は血液中に入っても白血球が退治してくれます。しかしK・Kさんの場合、日頃の激務とストレスの蓄積によって体力が低下。免疫力が大幅にダウンしていたため、細菌がそのまま血管の中を進み、大動脈へ血液を送り出している弁にとりついてしまったのです。謎の発熱は細菌に冒された心臓が炎症を起こしたためでした。心臓の弁に巣食った細菌は増殖、弁を腐らせ、ついに病巣はイボ状に成長してしまいました。そのカケラがはがれ、血流に乗って全身へ回った結果が、あの指先にできた赤黒い斑点。指の末梢血管にイボのかけらが詰まったことが原因でした。そして弁から最も大きなイボ状の病巣がはがれ、動脈内を猛スピードで移動。そのかけらによって脳の血管が塞がれ、K・Kさんは脳梗塞を起こしたのです。全ての始まりは、あの虫歯。たかが虫歯とたかをくくり、放っておいたがために起こった悲劇でした。