診察室
診察日:2004年10月26日 
テーマ: 『本当は怖い食欲不振〜悪夢の来訪者〜』
『本当は怖い発疹〜目覚めた悪魔〜』

『本当は怖い食欲不振〜悪夢の来訪者〜』

K・Kさん(女性)/16歳(当時) 高校生
衰弱した子猫を見つけて、三日三晩寝ずの看病をしたK・Kさん。
しかし、彼女の思いが届くことはなく、4日目の朝、子猫は息を引き取りました。
そして、この日から悪夢のような現象が次々と襲いかかることになります。
(1)食欲不振
(2)発熱
(3)倦怠感
(4)母親にも(1)〜(3)の症状があらわれる
(5)目の充血
(6)異常行動
(7)全身けいれん
(8)昏睡状態
CSD=ネコひっかき病
<なぜ、食欲不振からCSD=ネコひっかき病に?>
母子にあらわれた様々な症状。そこには3週間前に迷い込んできた、あの子猫が関係していました。母親の体調不良も、K・Kさんの異常な行動も、あの子猫が持っていたある細菌の仕業だったのです。その細菌とは「バルトネラ・ヘンセラ菌」。猫の口や爪、そして血液に存在する菌で、人間が感染すると、最悪の場合、死に至る菌です。通常、人間が感染するきっかけは、猫に引っかかれたり、かまれたりした時。しかし、看病しただけのK・Kさんには、そんな経験はありませんでした。なのに、なぜ?医師は感染ルートを探ろうとK・Kさんの体を調べ、首筋に小さな証拠を見つけました。それはノミに刺された痕。そう、犯人は子猫に寄生していた「ネコノミ」。ネコノミは猫に取りつくと、血を吸いながら、同時に猫の体内にあるバルトネラ・ヘンセラ菌も取り込みます。そのネコノミがすぐ近くにいたK・Kさんや母親に取りつき、バルトネラ・ヘンセラ菌を感染させたのです。K・Kさんと母親が訴えた食欲不振、発熱、倦怠感といった症状。これらはネコノミによって体内に侵入したバルトネラ・ヘンセラ菌が、リンパ節に取りついたことで起きました。リンパ節では様々な免疫細胞がバルトネラ・ヘンセラ菌と戦いますが、その結果、炎症が起き、風邪に似た症状を引き起こしたのです。さらにK・Kさんを襲った目の充血、そして獣のような異常行動。目の充血は、増殖したバルトネラ・ヘンセラ菌が血管を伝わり、結膜に感染したために起きた症状でした。そしてこの時、バルトネラ・ヘンセラ菌は脳へも侵入を開始。血管に炎症が起き、脳が正常な機能を失ったため、K・Kさんは異常な行動に出たのです。しかし、母親も感染していたのに、なぜK・Kさんだけが?その原因は、三日三晩の寝ずの看病にありました。K・Kさんは疲労困ぱい。そのため免疫力が著しく低下し、健康なら抑えることのできるバルトネラ・ヘンセラ菌の増殖を許してしまったのです。専門家の調査によれば、日本の飼い猫の約7%以上がこのバルトネラ・ヘンセラ菌に感染していることがわかっています。そして毎年およそ2万人もの人々が「ネコひっかき病」にかかっていると考えられているのです。
バルトネラ・ヘンセラ菌は猫の体内では悪さをしない共生菌です。ネコひっかき病のポイントは猫自身にあるのではなく、人間の猫に対する接し方にあるのです。大事なことは私たちの免疫力を正常に保つこと、そしてもし、体調が悪いならば、ネコとのキスを避けたり、傷を受けたなら消毒をするなどの対処をとりましょう。
『本当は怖い発疹〜目覚めた悪魔〜』
Y・Iさん(男性)/48歳(当時) 板金工場社長
食欲がないため病院に行ったところ、医師からうどんやそうめんなど消化のよいものを摂取するように勧められたY・Iさん。以来、昼食にうどんを選ぶことが多くなった彼は、体調が見違えるように回復し、いつしか「うどんを食べていれば健康」と思うようになりました。
しかし3年後、原因不明の発疹に悩まされ始め、さらなる異変も襲います。
(1)発疹
(2)下痢
(3)全身の腫れ
(4)腫れが引いても湿疹が残る⇒小麦アレルギーと診断
(5)再び全身に発疹
 アナフィラキシーショック
<なぜ、発疹からアナフィラキシーショックに?>
全ての原因は、もともと軽い小麦アレルギーを持っていたY・Iさんの体質、そして行動にありました。バランスよく食べている分には何の問題もなかったうどん。しかし、短期間で毎日のように大量のうどんを食べるようになったため、小麦の摂取量が限度を越え、Y・Iさんの体は小麦に対するアレルギー反応を過敏に示すようになったのです。最初にY・Iさんを襲った発疹。あれは妻と娘が口にしていたクッキーが原因。おしゃべりの唾液とともに飛び散った小麦が、Y・Iさんの肌に付着。そこでアレルギーを起こしたのです。そして、あの下痢は、体内に取り込まれた小麦に、誤作動を起こした抗体が反応。体の外に排出しようと腸が過剰に働いてしまったために起きたのです。Y・Iさんは病院で小麦アレルギーと診断されて以来、小麦に関係するものは全て排除するようにしていました。しかし、大きな落とし穴が待ち受けていたのです。忘年会の帰り、家に着いた途端、突如、苦しみ出したY・Iさん。みるみるうちに発疹が広がり、病院に運び込まれた時、すでに意識不明の重体。病名は「アナフィラキシーショック」というものでした。「アナフィラキシーショック」とは、劇症型のアレルギー反応のこと。体中の抗体が暴走し、あらゆる場所が腫れ上がってしまう恐ろしい病で、呼吸困難や血圧低下で死を招くことさえあります。それにしても、あれほど注意していたのに、なぜ再び小麦アレルギーが出たのでしょうか?原因は、忘年会で食べたつくねでした。実はつくねのつなぎには、小麦粉が使用されることが多々あるのです。さらにその時、Y・Iさんの体は、年末の慌ただしさの中、寝不足が続き疲労困ぱいしていました。そして、お酒を飲んでの帰り道。歩くこと(運動刺激)によってアレルギー反応が助長され、劇症型のアナフィラキシーショックを引き起してしまったのです。アナフィラキシーショックの原因は小麦だけではありません。自分のアレルギーを知っておくことが大切なのです。