診察室
診察日:2005年1月11日
テーマ: 『本当は怖い浮き出た血管〜美容師を襲う恐怖の罠〜』
『本当は怖い長引く咳〜一家を襲った恐怖の2週間〜』

『本当は怖い浮き出た血管〜美容師を襲う恐怖の罠〜』

S・Kさん(女性)/29歳(当時) 美容院経営
東京郊外の住宅地で、美容院を営んでいるS・Kさん。
先月、二人目の子どもを出産したばかりですが、早々と仕事に復帰、美容院を切り盛りしていました。ところが、ある日、足元を見ると、膝の裏側に血管が浮き出ていました。しかし、特に痛みもないため放置していました。それから10年後、足に浮き出ていた血管は目立たなくなっていましたが、新たな症状が現れはじめます。
(1)足の血管が浮き出る
(2)足のむくみ
(3)足のかゆみ
(4)赤いコブが出できる
(5)コブから赤い筋ができる
下肢静脈瘤(かし じょうみゃくりゅう)による肺梗塞
<なぜ、浮き出た血管から肺梗塞に?>
肺梗塞とは、肺の動脈に血栓が詰まり、最悪の場合、呼吸不全で命を失うという恐ろしい病。S・Kさんが肺梗塞になった原因は、やはりあの浮き出た血管にありました。病名、下肢静脈瘤。下肢静脈瘤とは、足の皮膚のすぐ下を通っている静脈が異変を起こし青白く浮き上がったり、くねくねと蛇行する病気です。S・Kさんの場合、お腹の中で胎児が成長したことにより、足の静脈が圧迫され、血液が逆流。足の血管が浮き上がったのは、静脈が膨らんでしまったものだったのです。しかし、下肢静脈瘤は、日本人の五人に一人がかかるといわれる病気。通常なら放っておいても特に問題はありません。S・Kさんが下肢静脈瘤から肺梗塞になってしまったのは、連日、長時間にわたって立ち仕事を続けていたため。長時間、棒立ちの状態だと、足の筋肉による血管のポンプ作用が働きづらくなり、逆流した血液が静脈の弁を圧迫。S・Kさんの足の静脈弁は、10年という歳月をかけ破壊されてしまったのです。足のむくみとしつこいかゆみは、静脈弁が壊れたことで、老廃物の多い血が足にたまったのが原因でした。通常、ここまで病状が悪化すると静脈の浮き上がりや蛇行が目立ってきます。S・Kさんの異変をわからなくした犯人は、高カロリーの食事。脂っぽい食事を好んだ彼女の体は、皮下脂肪を蓄積し、下肢静脈瘤を隠してしまったのです。さらに、この偏った食事はS・Kさんの血を濃縮型血液に変えていました。あの赤いコブは、曲がりくねった下肢静脈瘤の中で濃縮型血液が固まった「血栓」だったのです。急速に成長した血栓は、わずか一晩でふくらはぎから足の付け根まで続く、長い血の塊になりました。コブから伸びた赤い筋は、長い血栓が引き起こした炎症だったのです。そしてS・Kさんが立ち上がった瞬間、長い血栓の一部がはがれ、血流に乗って心臓から肺動脈へと到達。血管を完全に塞いでしまったため、彼女は肺梗塞に倒れたのです。下肢静脈瘤は、それ自体で命に関わる病気ではありません。でもS・Kさんのように油断していると、肺梗塞などの思わぬ重病を招く可能性があるのです。
『本当は怖い長引く咳〜一家を襲った恐怖の2週間〜』
O・Mさん(女性)/35歳(当時) 専業主婦
夫や息子の健康管理に気を使う一方、自分もフィットネスクラブに通い、健康そのものだったO・Mさん。一月初旬、そんなO・Mさん一家に、ある異変が起こります。
息子のS君が乾いた咳をしはじめたのを皮切りに、家族全員に咳の症状が出てしまったのです。
三日後、S君の咳はほとんど治まりますが、夫婦は長引く咳に苦しめられたまま。 実は、その咳こそ、一家を襲う恐怖の二週間の幕開けでした。
(1)乾いた咳
(2)長引く咳
(3)微熱
(4)夫の咳は治まるが、O・Mさんはいっこうに治まらない
(5)悪寒
(6)激しい頭痛
(7)高熱
マイコプラズマ感染症
<なぜ、長引く咳からマイコプラズマ感染症に?>
「マイコプラズマ」とは、大気や土の中にいる病原菌の一つ。飛沫感染で体内に入り込み、気管支や肺の粘膜に付着、そこで増殖し、長引く咳や微熱などの症状を引き起こします。子どもでも65%、大人にいたっては実に97%が一度はかかっている、風邪と同じくらいありふれた感染症です。O・Mさん一家の場合、S君が学校で感染。家族全員にうつしてしまいましたが、マイコプラズマは強い細菌ではないため、免疫細胞が活動を始めると菌の増殖は抑えられ、S君はすぐに健康を取り戻しました。一方、O・Mさんたち両親は症状が長引きました。実はこれこそ、マイコプラズマの罠。最初にS君が襲われた乾いた咳は、気管支や肺胞に付着したマイコプラズマが軽い炎症を引き起こしたもの。ところが、大人であるO・Mさん夫婦の体内では、このマイコプラズマに対して、「免疫応答」という特殊な反応が起きていたのです。「免疫応答」とは、マイコプラズマの増殖を抑えようとして免疫細胞が過剰に集まり、正常な細胞組織まで破壊してしまうという異常現象。マイコプラズマに感染した回数が多いほど過敏に反応します。つまり、子どもより感染回数の多い大人の方が「免疫応答」を起こしやすいのです。しかもO・Mさんの場合、4、5年前にもマイコプラズマに感染していました。同じ大人でも、彼女のように感染回数が多い人ほど「免疫応答」は激しくなるのです。しかし夫婦を比較してみると、不健康な生活を送っていたのは、夫の方。普段から健康に気をつけ、感染後もきちんと休んでいたO・Mさんの方が悪化してしまったのはどうしてなのでしょうか?実はこれこそ「免疫応答」最大の罠。普段健康で免疫力の高い人ほど、活発な免疫細胞が大量に集結。激しい「免疫応答」を引き起こしてしまうのです。こうして発病から2週間もすると、O・Mさんの肺の粘膜はボロボロになり、レントゲンに陰が映るほどの肺炎を引き起こしてしまいました。しかも「長引くといってもたかが咳」と油断していたO・Mさん。その気のゆるみからか、風邪を引いてしまいました。ところがこの時、彼女の傷ついた肺は、たかが風邪のウィルスにも耐えられず、炎症が一気に悪化。40度の高熱を出し、倒れてしまいました。これこそがマイコプラズマ感染症の最も恐ろしいところ。他の病原菌と「混合感染」し、重症化することがとても多いのです。元気で健康な人ほど長引き、他の病気までも引き寄せてしまう厄介な病。それがマイコプラズマ感染症なのです。