診察室
診察日:2005年5月17日
テーマ: 『本当は怖い食欲〜恐怖のスパイラル〜』
『本当は怖い生理不順〜Wの悲劇〜』

『本当は怖い食欲〜恐怖のスパイラル〜』

K・Yさん(女性)/27歳(当時) 専業主婦
初めての赤ちゃんを授かり、家事と育児に追われる日々を送っていたK・Yさん。一方、夫は新婚の頃は優しかったものの、家のことは彼女にまかせっきり。それでも文句一つ言わず頑張っていたK・Yさんですが、最近、ある変化が・・・。小食だった彼女が、夫も驚くほど食欲旺盛になってきたのです。ご飯が進むのは健康の証と思っていましたが、その後、様々な異変が現れます。
(1)食欲が増す
(2気持ちが高ぶる
(3)疲労感
(4)眠れない
(5)体重が減る
(6)イライラする
バセドウ病
<なぜ、食欲が増すことからバセドウ病に?>
私たちの首の部分には、甲状腺という臓器があり、ここから甲状腺ホルモンが分泌されています。甲状腺ホルモンには新陳代謝の促進、体温調節、全身の臓器の活動を高める、という働きがあります。「バセドウ病」は、この甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身に様々な障害を引き起こす病。バセドウ病の患者の多くは、20代から40代の女性。成人女性の300人に1人はいると言われ、その数は男性の5倍にものぼります。では一体なぜ、K・Yさんは、この病に冒されてしまったのでしょうか?原因は定かではありませんが、大きなストレスがきっかけとなることが多数報告されています。K・Yさんの場合も、初めての出産、一人きりでの子育てが大きなストレスとなり、発病に何らかの影響を与えたと考えられるのです。バセドウ病になると、脳や心臓など全身の臓器の機能は、常に全力疾走をしている状態になってしまいます。そこで起きたのが、あの旺盛な食欲。この病気になると、食欲が増したり動きが活発になったりと、一見、健康そうに見えてしまうため、まさか病気だとは思わないのです。これこそがバセドウ病の落とし穴。その一方で、いくら食べても次々にエネルギーとして消費してしまうため、身体がエネルギー不足の状態に陥ってしまいます。そのため、K・Yさんは異常な疲れを感じたり、大量に食べても体重が減ってしまったのです。また、夜眠れなくなったり、イライラしたのは、興奮状態が続き、神経過敏になったためでした。そんな彼女の心臓は常に酷使され、全力疾走の状態でフル回転、限界寸前でした。そして最後の瞬間。急に走り出したために、K・Yさんの心臓は空回りを始め、血液を送り出すことが出来なくなってしまいました。彼女の場合は、幸い一命を取り留めることができましたが、病気だとは気づかずに長い間放っておき、死に至るケースもあるのです。
「バセドウ病に悩まされないためには?」
(1) 「食欲の変化」、「不眠」、「イライラ」、「よく汗をかく」など様々な症状に注意することが大切!
(2)バセドウ病は、適切な治療を受ければ、普通の生活はもちろん仕事や出産も十分可能な病。
(3)もしちょっとでも体に違和感を覚えたら、一度病院で検診されることをおすすめします。
『本当は怖い生理不順〜Wの悲劇〜』
Y・Tさん(女性)/52歳(当時) 専業主婦
現在、体重は80kg。中年の肥満は万病のもとだと思い、スイミングスクールに通って健康増進に励んでいたY・Tさん。とはいえ、プールの後は必ず仲間と雑誌やテレビで見つけたお店にランチを食べに行くのがおきまりのコース。そのため、体重は一向に減りません。そんな彼女に小さな異変が・・・。普段なら4,5日で終わる生理が長引き、10日も続いていたのです。これぐらいは以前からよくあったことと気にもしていなかったのですが、半年が過ぎた頃から、新たな異変が訪れます。
(1)生理が長引く
(2)生理が早まる
(3)短い生理が続く
(4)生理以外の出血(不正出血)
(5)胸のしこり
乳癌、子宮体癌(しきゅうたいがん)
<なぜ、生理不順から乳癌、子宮体癌に?>
「子宮体癌」とは、子宮の奥の部分、子宮体部が癌に冒されてしまう病。閉経前後、50代の女性が一番多く発症する病気です。Y・Tさんは、生理が長引いたり、早くなったり、短い生理が続くなどの生理不順や不正出血に悩まされていました。実はこの一連の症状こそ、子宮体癌を知らせるサインだったのです。しかし、更年期障害と勘違いして、そのまま放っておいたY・Tさん。その体内では癌がみるみる成長。ついに新たな異変が起きてしまいます。それが乳癌でした。実はこの2つの癌、転移した癌ではなく、同時に発症する「重複癌」と呼ばれるもの。Y・Tさんの場合、乳癌が子宮体癌を知らせる最終警告となったのです。それにしても一体なぜ、同時に二つの癌が発症してしまったのでしょうか?鍵を握っているのは、女性ホルモン。実は乳癌も子宮体癌も、女性ホルモンのバランスの乱れが、共通の原因の一つ。そのため、2つの癌が同時に発症しても、何ら不思議はないのです。子宮体癌から乳癌が発見されたり、その逆にY・Tさんのように、乳癌から子宮体癌が発見されるケースも数多く報告されています。ではなぜ、女性ホルモンのバランスが乱れてしまったのでしょうか?原因は、彼女の肥満にありました。女性ホルモンは、通常、卵巣から分泌されます。しかし、実は別の場所でも作られているのです。それが脂肪細胞。卵巣からの女性ホルモンは、生理の周期に合わせて分泌されますが、脂肪細胞からの女性ホルモンは、常時、分泌。脂肪細胞をたくさん抱えていたY・Tさんの身体では、常に女性ホルモンが分泌され続けていたのです。そして、その影響を真っ先に受けたのが子宮でした。こうして、Y・Tさんの子宮は過剰なホルモンにさらされ続け、ついには癌が発生してしまったのです。癌が見つかってから、早速摘出手術を受けたY・Tさん。幸い早期発見だったこともあり、手術は成功。彼女は一命を取り留めました。現在、女性の肥満が増える中、子宮体癌は20年前の3倍以上、乳癌も2倍以上に増加。と同時に、重複癌の症例も年々増えてきているのです。
「子宮体癌にならないためは?」
(1) 子宮体癌の危険因子、「50歳以上の年齢」、「肥満」、「妊娠回数が少ない」に注意。
(2) もし不正出血などが起きたなら、すぐに病院で検診されることをおすすめします。