診察室
診察日:2006年8月1日
テーマ: 『本当は怖いこむらがえり〜灼熱のカウントダウン〜』
『本当は怖いゲップ〜地獄の迷路〜』

『本当は怖いこむらがえり〜灼熱のカウントダウン〜』

M・Yさん(男性)/52歳(発症当時) 貿易会社社長
小さな貿易会社を経営するM・Yさんは、ここ数年、会社の資金繰りが悪化。ある日、「今日の午後3時までに500万円を支払わないと取引を停止する」と言い渡され、金策に出かけますが、普段はクーラーの利いた部屋で仕事をしている彼にとって、炎天下での外回りはかなり厳しいものでした。そんな中、2本目のペットボトルの水もカラになった時、突然ふくらはぎのこむらがえりに襲われたM・Yさん。足がつったのは運動不足のせいと思い金策を続けていましたが、異変は続きました。
(1)こむらがえり
(2)立ちくらみ
(3)吐き気
(4)意識を失う
熱中症
<なぜ、こむらがえりから熱中症に?>
「熱中症」とは、暑さや運動で体に熱がたまり、上昇した体温が下がらなくなった結果、様々な障害が引き起こされる病。M・Yさんの場合も、炎天下で金策にかけずり回ったため、体温が上昇。熱中症の典型的な症状である「こむらがえり」や「立ちくらみ」、「吐き気」、そして「意識障害」に襲われてしまったのです。しかし、本来私たちの体には、体温の上昇を防ぐ仕組みが備わっています。それが、「汗」。体は熱がたまると、血液に含まれる水分を汗として分泌。この汗を蒸発させることで、熱を外へ逃がします。だからこそ暑いときには、水分を摂ることが大切なのです。でもM・Yさんは、こまめに水を飲んでいたはず。それなのに、なぜ熱中症で死に至ってしまったのでしょうか?実は水分を補給するだけでは、熱中症の重症化を防ぐことはできません。なぜなら汗をかくと、水分以外にも失ってしまう大切な物質があるのです。それが、塩分。そう、この塩分が減ったことで起きたのが、あの「こむらがえり」でした。塩分の減少で筋肉の細胞に異常が発生、痙攣を引き起こしたのです。ところがM・Yさんは、その後も塩分を全く補給せず、水だけを飲み続けました。その結果、より危険な段階へと進んでしまったのです。それが・・・水を欲しがらなくなったこと。塩分を摂らずに水分だけを補給し続けると、血液はどんどん薄くなります。すると脳は、「水はもう必要ない」と理解し、本当は必要でも、のどが渇かなくなってしまうのです。こうして、塩分だけでなく、水分も摂らなくなったM・Yさんの体内では、汗を十分に作れないため、たまり続ける熱を発散することが出来なくなっていきました。その結果、M・Yさんの血液温度は40度にまで上昇。熱に弱い脳が異常をきたして、ついに機能を停止。帰らぬ人となってしまったのです。熱中症といえば、普段から炎天下で活動する人がかかりやすいと思われがちです。しかし、実は本当に危険なのは、M・Yさんのように日頃クーラーで過ごすことが多い人。汗腺の機能が十分でないため、炎天下で大量の塩分を失いやすく、容易に熱中症になってしまうのです。
「熱中症の正しい応急処置法」
(1)素早く衣服を脱がせ、体から熱を逃がす。
(2)枕などを使って足を高くし、血液の循環が良くなるようにする。
(3)氷のうは、首・わきの下・足の付け根など、太い血管が皮膚のすぐ下を流れている部分に置く。
(4)ガーゼを広げ、霧吹きなどで濡らし、うちわや扇風機などで蒸発させることも、体温を下げるのに有効。
正しい応急処置法、予防法が、熱中症からあなたを救うのです。
熱中症の適切な対処法
『本当は怖いゲップ〜地獄の迷路〜』
I・Kさん(女性)/37歳(発症当時) 主婦
一人息子が小学校に入学したのを機に、マイホームローン返済のため、結婚前に勤めていた会社に再就職したI・Kさん。責任感が強く、よく気がつく彼女は、職場にもすぐ馴染み、何かと頼りにされますが、ある夜、何も口にしていないのに、何故かゲップが出るようになります。その日以来、幾度となく奇妙なゲップに悩まされるようになった彼女。それだけではなく、さらなる異変が続きました。
(1)ゲップ
(2)お腹の張り
(3)おならがしたくなる
(4)おならが臭わない
(5)食欲不振
(6)胸の重苦しい痛み
(7)頭痛

噛みしめ呑気症候群(かみしめ どんき しょうこうぐん)
<なぜ、ゲップから噛みしめ呑気症候群に?>
「噛みしめ呑気症候群」とは、緊張やストレスによって体に様々な異変が引き起こされる心身症のひとつ。最悪の場合、うつ状態に陥ることもあるという恐ろしい病気です。聞き慣れない病名ですが、現在、この病に悩まされている人は8人に1人。国内だけで、実に1500万人近い数に達します。それも、20代から50代のストレスを受けやすい女性が、最も多いというのです。でも、なぜI・Kさんは、この病にかかってしまったのでしょうか?私たちは、ストレスを感じると、無意識のうちに、ある行為をします。それが、「上下の歯の噛みしめ」。I・Kさんの場合も、そうでした。再就職・家事と仕事の両立など、急激な環境の変化によって強いストレスがかかり、無意識に歯を噛みしめることが増えていたのです。そして、その時、彼女の体内では、あることが起きていました。歯を噛みしめると、舌は上アゴに押し当てられます。すると、唾液がのどの奥にたまり、体が反射的にたまった唾液を飲み、空気も一緒に飲み込んでしまうのです。実はこれこそ、この病を引き起こす最大の原因。ストレスのため、頻繁に歯を噛みしめていたI・Kさんは、そのたび胃に少しずつ空気を送り込んでいたのです。やがて、彼女の胃は送り込まれた空気で膨らみ出し、いつしか正常な時のなんと3倍近い大きさにまでなっていました。それがあの「ゲップ」や「お腹の張り」、「食欲不振」を引き起こしていたのです。「胸の痛み」も、大きく膨らんだ胃が心臓を圧迫したため感じたこと。心臓そのものには、全く異常がなかったのです。この病の最大の落とし穴は、痛む場所を調べてもなんら異常がないため、医師が痛みの原因を見つけにくいこと。そしてこのことが、患者のストレスをつのらせてしまいます。その結果、病状はますます悪化、最悪の事態に陥ってしまうのです。幸いI・Kさんは、専門医による適切な治療を受け、順調に回復。今では体の異変はすっかり治まり、元気に毎日を過ごせるようになりました。
「噛みしめ呑気症候群にならないためには?」
(1)予防器具として、医師の診断により患者ごとに作られるマウスピースがあります。
(2)このマウスピースを口にはめることで、自分の噛みしめ具合を実感することができるため、
噛みしめる回数をかなり減らすことが出来るのです。
(3)もし、気になる症状があれば、迷わず、心療内科などの専門医を受診することをおすすめします。