診察室
診察日:2007年10月30日
テーマ: 『本当は怖い高血糖<1>〜無言の悪魔〜』
『本当は怖い高血糖<2>〜まさかの合併症〜』

『本当は怖い高血糖<1>〜無言の悪魔〜』

M・Sさん(男性)/64歳 貿易会社経営
都内で小さな貿易会社を経営するM・Sさん。若い頃から猛烈な仕事人間だった彼は、連日のように接待に出かけ、深夜まで飲む生活を送っていました。そんな中、54歳のとき健康診断を受けたところ、「糖尿病」と診断されたM・Sさん。8年後、右足の小指の靴ずれが治らないため皮膚科を受診したところ、糖尿病による合併症で小指が壊死(えし)を起こしていると宣告されてしまいました。
(1)足の指が赤紫色に腫れる
(2)壊死が広がる
糖尿病から足の壊疽(えそ)
<足を切断することなく壊死を治す「マゴットセラピー」とは?>
糖尿病による合併症で足が壊疽を起こし、「ひざ下切断」を迫られることになったM・Sさん。ワラにもすがる思いで彼が訪れたのは、日本医科大学付属病院、再生医療科の宮本正章先生のもとでした。宮本先生は、足を切断することなく壊死を治す画期的な治療法「マゴットセラピー」の第1人者。マゴットとは、ハエの幼虫のこと。「マゴットセラピー」とは、腐敗物を食べるハエの幼虫の力を利用して、壊死した部分を取り除く治療法です。10年ほど前から、欧米で急速に普及。イギリスでは、国民健康保険が適用され、これまで4万人の患者が治療を受けています。治療に当っては、専用の施設で育てた完全に無菌化したマゴットを使用。壊死した患部に100匹から300匹のマゴットを置き、包帯を巻いて、2,3日間、そのままにします。すると、マゴットは口から分泌液を出して、壊死をおこした部分だけを溶かし食べてくれるのです。マゴットには壊死部分を取り除くだけでなく、さらに二つの大きな効果があることが分かりました。その一つが「殺菌力」。なんとマゴットの分泌液は、抗生物質が殆ど効かない多剤耐性菌という強力な菌をも殺菌してしまうのです。そして、もう一つが「再生能力」。マゴットの分泌液には、肉芽組織や毛細血管の再生を促進する力があり、より迅速に健康な組織を取り戻すことが出来るのです。M・Sさんに迷いはありませんでした。こうして治療開始から2週間で見事壊死部分はキレイに取り除かれたのです。そして今、M・Sさんはひざ下切断の危機を免れ、再び自分の足で歩けるようになりました。現在、M・Sさんは、食生活を改善しただけでなく、毎日の散歩で、血糖値をしっかりコントロールしています。マゴットセラピーの最大のメリットは、患者さんが以前と同じように、自らの足で歩けるということ。ウォーキングはすぐれた運動療法のひとつ。糖尿病による合併症のリスクを減らすことが出来るのです。
『本当は怖い高血糖<2>〜まさかの合併症〜』
S・Yさん(女性)/55歳 不動産屋
東京の下町で小さな不動産屋を夫婦で営むS・Yさん。甘い物が大好物の彼女は、そのせいか少し太り気味で、久しぶりに受けた健康診断で「高血糖」という診断を受けてしまいました。それでもこれといった異変がなかったため、ついつい甘い物のつまみ食いを繰り返していたS・Yさん。そんな生活を続けて9年後、彼女は客を同じ場所に2度も案内したり、自分がした行動を忘れてしまったりするようになります。
(1)同じことを繰り返す
(2)行動を忘れる
(3)急に激しく怒る
糖尿病からアルツハイマー病
<なぜ、高血糖からアルツハイマー病に?>
「アルツハイマー病」とは、脳が萎縮し、認知機能が低下してしまう病気。物忘れや徘徊などの症状が起こり、最終的には寝たきりになってしまうこともある病です。発病の原因は、未だ詳しくわかってはいません。しかし、今年、アルツハイマー病とある病との関連が指摘され、医学界で大きな話題となったのです。その病こそが糖尿病。九州大学が15年にわたり、福岡県のある町の住民の健康調査をしたところ、糖尿病とその予備軍の人がアルツハイマー病になるリスクは、そうでない人の「4.6倍」も高いという結果が出たのです。はっきりしたメカニズムは、わかっていません。しかし、血糖値が高い患者さんの脳を調べてみると、そこにアルツハイマー病を引き起こすβアミロイドという物質が。これが長い時間をかけて脳の神経細胞を破壊し、病を発症させていると考えられています。健康診断で、高血糖を指摘されたS・Yさんは、その後、病院にも行かず生活習慣も改めなかったため、糖尿病になってしまいました。しかし、糖尿病は、よほど悪化しない限り、特別な症状が出ない病。そのため、S・Yさんは自分が糖尿病になっているとは思いもよらず、ついつい油断してしまったのです。厚生労働省の調べでは糖尿病患者、およそ740万人のうち治療を受けている人はわずか340万人。つまりS・Yさんのように治療を受けず、そのまま放置している人が、何と400万人にものぼるのです。