診察室
診察日:2008年3月4日
「お通じの悩み」スペシャル
テーマ:「本当は怖い便秘〜出し切れない想い〜」
「本当は怖いお通じの乱れ〜悪夢の車線規制〜」

『本当は怖い便秘〜出し切れない想い〜』

Y・Yさん(女性)/48歳 ファミリーレストラン勤務
10年前に離婚、女手一つで二人の子供を育てあげてきたY・Yさん。朝は忙しく子供を送り出すのが精一杯で、自分は朝食抜きという毎日。そんな彼女の悩みは、慢性の便秘。毎朝トイレに入っても、全くお通じのないことがほとんどでした。そんなある日、5日ぶりに巡ってきたお通じのチャンスを生かし、たっぷり粘った結果、ようやく排便に成功したY・Yさん。しかし、いつもに比べて便を出し切れていないような感覚がありました。その後、すっきりとやり終えた感覚を感じなくなってしまった彼女に、さらなる異変が続きました。
(1)残便感
(2)肛門の近くに違和感
(3)頻繁に便意に襲われる
直腸瘤(ちょくちょうりゅう)
<なぜ、便秘から直腸瘤に?>
「直腸瘤」とは、直腸が膨らんで膣の方向にはみ出すようになった結果、排便が困難になってしまう病。いきんでも便の出にくい人の約4分の1が、この病と言われ、近年注目されるようになりました。患者の殆どは40代後半から50代の出産経験のある女性。そう、この病は、加齢と出産で腸と膣の間の壁が弱った人がなりやすいのです。そして特に気をつけなければならないのは、Y・Yさんのような便秘症の人。そもそも毎日のお通じは、便意によってもたらされます。人間は胃の中に食べ物が入ると、胃から大腸に信号が送られ、便を送り出す「蠕動(ぜんどう)運動」が始まり、便は直腸に到達。便意が発生するのです。特に朝食は、「大蠕動」と呼ばれる最も大きな運動を促す、最適な刺激剤。しかしY・Yさんは、忙しさのため朝ごはんを抜いてしまい、そのチャンスを逃していたのです。さらに自然にやってきた便意も、我慢してしまいました。実は便意は、我慢することでその意識をやがて消失してしまいます。そしてそんなことを続けていると、便意を催す感覚も次第に鈍くなってしまうのです。これがY・Yさんの慢性便秘の原因でした。その結果、彼女は、ある過ちを犯してしまいます。それこそが、排便時のいきみ。2人の子を出産し、加齢によって弱まっていた腸と膣の間の壁に、癖になった「いきみ」による圧力が加わってしまい、ついに腸壁が膣へと広がり始め、そこに便が少しずつ留まるようになってしまったのです。そんなことが起こっているとも知らず、ひたすらいきんでしまったY・Yさん。そのため、腸壁がさらに広がり、ついには膣側にポッコリ膨らんでしまったのです。これが、ピンポン玉があるように感じた「肛門の近くの違和感」でした。こうなると、どんなにいきんでも、腹圧が膣の方向にしか伝わらなくなり、便の塊がいつも肛門付近に残ってしまいます。こうしてY・Yさんは、常に便意に襲われ、それがいつまで経っても解消しないという、耐えられない不快感に悩まされるようになってしまったのです。その後、病院で治療を受けたY・Yさん。便を柔らかくする薬が処方され、一時期のひどい状態を脱した彼女は現在、慢性便秘を治すため、生活改善に取り組んでいます。
『本当は怖いお通じの乱れ〜悪夢の車線規制〜』
S・Tさん(女性)/56歳 主婦
食べ歩きが趣味の主婦、S・Tさんの自慢は、快食快便。これまで便秘とは無縁の生活を送ってきました。そんなある日、朝のお通じを終えても、いまいちすっきりしない感じを覚えたS・Tさん。普段と比べ、心なしか、その量が少ないように思えました。その日、昼過ぎと夕方にも便意に襲われ、1日で3回もトイレに入ってしまったS・Tさん。以来、お通じが日に日に不規則になり、1回で出る便の量もさらに少なくなったばかりか、気になる異変も続きました。
(1)便の量が少なくなる
(2)お通じの回数が増える
(3)腹部が大きく膨らむ
S状結腸ガン
<なぜ、お通じの乱れからS状結腸ガンに?>
「S状結腸ガン」とは、直腸の手前、S字のカーブになったS状結腸に出来る大腸ガンのこと。大腸ガンの約7割は、このS状結腸と直腸に出来るとされ、特に増えているのが、このS状結腸ガンなのです。増加の原因ははっきりと分かっていませんが、食事の欧米化などによる高脂肪食品の過剰摂取との関係が指摘されています。S状結腸ガンは、初期の段階では痛みなどの分かりやすい症状がなかなかないため、発見が遅れてしまうことが多い病。では、どんなサインに気をつければよいのでしょうか?それこそが、お通じの異変。通常、人間の便は、大腸の蠕動運動によって、S状結腸を通って直腸へと送り出されて行きます。ところが、彼女がお通じの異変を感じたあの時、S状結腸にはすでにガンが発生。便の通り道が4割ほど塞がれ、詰まったように引っかかってしまったのです。そのため便は少しずつしか通れなくなり、1回に出る量が減った上、トイレに行く回数が自然と増えてしまったのです。しかし、そうとも知らず、S・Tさんは、このお通じの異変を単なる便秘と勘違いし放置。ガンはさらに大きくなり続け、ついにS状結腸の9割に達します。そんな状態とも知らず、S・Tさんは、あろう事か便秘薬を使用。ガンによって完全に詰まっていた便が、腸の無理な蠕動運動により、さらに行き場を失い、腹部に激痛が起こり、たまった便でお腹が膨らんでしまったのです。そしてもう一つ、彼女は大きな勘違いをしていました。それが便に血が付着してなかったので、安心してしまったこと。これこそS状結腸ガンの落し穴。確かに肛門の近くに発生する直腸ガンの場合は、癌からの出血が起きると、出し終えた便に血液が付着する場合があります。ところがS状結腸がんの場合は、ガンの出血があっても通過している間に血が便に混じりこむため、見た目では分かりにくい事も多いのです。幸い、S・Tさんのガンは転移も見つからず、すぐに摘出手術が施されました。現在は3ヵ月に1度、定期健診を受け、再発の防止に努めています。
大腸ガンになりやすいかどうかすぐにわかる大腸ガン危険因子チェック