診察室
診察日:2008年6月3日
テーマ:「本当は怖いメタボリックシンドローム〜忍び寄る沈黙の悪魔〜」
「本当は怖い慢性腎臓病」

『本当は怖いメタボリックシンドローム〜忍び寄る沈黙の悪魔〜』

N・Kさん(女性)/50歳(現在) 主婦
友達との焼き肉パーティを年中行事のように開いていたN・Kさんは、年々体重が増え続け、今や話題のメタボリック体型に。これはまずいとメタボ検診を受けたところ、血圧はちょっと高め、HDLコレステロールもやや悪く、メタボリックシンドロームと診断されてしまいました。しかし、血糖値、中性脂肪ともに正常の範囲内だったため、安心してしまったN・Kさん。そんなある日、夕方の買い物に出かけようとした時、足がむくんで履きなれた靴が入らないことに気付きました。よくあることと特に気にも留めていなかったN・Kさんですが、気になる異変はその後も続いたのです。
(1)足のむくみ
(2)だるい
(3)多尿
(4)頻尿
(5)だるさが取れない
(6)朝から足がむくむ
(7)むくみが消えない
腎不全
<なぜ、メタボリックシンドロームから腎不全に?>
「腎不全」とは、腎臓の機能が低下し、血中の老廃物が排泄できなくなる病。そのため体内の血液を全て機械でろ過する人工透析を週に3回も受けなくてはいけなくなるのです。腎臓は、血液をろ過し、余分な老廃物や塩分を取り除くという、重要な役割を担っています。さらに、赤血球を作るホルモン、エリスロポエチンを作り、全身に酸素を行き渡らせたり、血圧を調整したりするなど、生命を維持する上で欠かすことのできない臓器なのです。誰でもその機能は年齢とともに低下していきますが、N・Kさんの場合は腎臓の機能を急激に低下させたもうひとつの要因がありました。それが、あのメタボリックシンドローム。メタボリックシンドロームになると、高血圧、高血糖などが原因で全身の血管が動脈硬化を起こします。もちろん腎臓の血管でも同じことが。腎臓には糸球体といわれる血液をろ過する腎臓の血管が無数に存在しますが、この一つ一つが動脈硬化を起こすことで、ろ過する能力が低下してしまうのです。これが腎機能の低下です。N・Kさんの場合も、腎臓の機能は60%以下に低下していました。最近、この状態に新たな病名が付けられました。「慢性腎臓病」です。実は今日本で、この慢性腎臓病が急増中。ほぼ1割、1100万人の腎機能が60%以下に低下していると言われ、 “新たな国民病”として注目されているのです。最近の調査で、メタボリックの人は、そうでない人と比べ、慢性腎臓病になる危険性が、2.2倍にのぼることが分かっています。しかし、この病には落とし穴が。腎臓は“沈黙の臓器”。腎機能が60%ぐらいでは、はっきりとした症状が出ないのです。N・Kさんもメタボぐらいは大したことはないと、それまで通りの生活を続けてしまいました。その結果、腎機能はさらに悪化し、ついに30%にまで低下。この時点でようやく、あの「足のむくみ」という症状が現われたのです。しかし、N・Kさんは、いつものむくみと勘違いし、病を見過ごしてしまいました。そのため、さらに病が進行。尿の量が多くなる「多尿」や、回数が増える「頻尿」、赤血球の不足による「だるさ」といった症状が現われました。そしてようやく病院を訪れた時点では、腎機能は15%以下と、もはや回復不能なレベルにまで達していたのです。現在、N・Kさんは、毎週3回、透析治療を続けています。メタボを甘く見たことで、まさかこんなに辛い日々が待っていようとは・・・。
『本当は怖い慢性腎臓病』
Y・Yさん(男性)/52歳(現在) 会社員
建設会社で働くY・Yさんは、会社の健康診断で尿にたんぱくが出たため、再検査を受けたところ、初期の慢性腎臓病と告げられました。医師から食生活を改め、適度な運動もするよう指導され、少々落ち込み気味のY・Yさん。しかし、インターネットで調べてみると、腎臓病の症状とされる“疲れ”や“むくみ”が自分にはなかったため、急に元気を取り戻しました。半年後には、慢性腎臓病のことなどすっかり忘れ、以前の生活に戻ってしまったY・Yさん。しかし、悪魔は忍び寄っていたのです。
(1)突然の胸の痛み
心筋梗塞
<なぜ、慢性腎臓病から心筋梗塞に?>
「心筋梗塞」とは、動脈硬化などが原因で心臓に血液が送られなくなり、心臓の筋肉が壊死。最悪の場合、死に至る恐ろしい病です。実は最近、心筋梗塞と慢性腎臓病が、深く関わっていることが分かってきたのです。九州大学が福岡県久山町で行った大規模な追跡調査の結果、慢性腎臓病の人は、そうでない人の2倍近い確率で、心筋梗塞を発症していたのです。そのメカニズムははっきりと分かっていませんが、腎臓の機能が低下すると、血液中に様々な老廃物が溜まり、血管の内皮細胞を傷つけていくと考えられます。その結果、全身の血管では動脈硬化が進行。そうなると、ますます腎臓の機能も低下し、動脈硬化も進むという悪循環に。そしてついには心臓の冠状動脈で血栓が発生。心筋梗塞を起こしてしまったと考えられるのです。実はこの心筋梗塞、腎機能が50%を下回った時点で起きやすくなるとも言われています。腎臓病の症状が出るのは、腎機能30%以下、つまり、症状が出始める遥か前に心筋梗塞を起こしてしまうことがあるのです。事実アメリカの調査では、慢性腎臓病患者の4人に1人が、心筋梗塞などで死亡していることが報告されています。