診察室
診察日:2009年6月2日
緊急特番!10人の専門医が教える、今知っておくべき
新型インフルエンザの正しい対処法スペシャル
専門医が教える新型インフルエンザ対策
「代謝内分泌科」
「薬剤科」「循環器内科」「感染症科」「小児科」
「消化器内科」
「リウマチ・膠原病科」「産婦人科」「アレルギー科」「脳神経外科」
専門医が教える新型インフルエンザ対策(1)
「代謝内分泌科」(東京医科大学主任教授 小田原雅人先生)
(1)新型インフルエンザのウイルスが高血糖を引き起こす
 "糖尿病”は、免疫力が低下しているため、新型インフルエンザにかかりやすく、注意が必要とされる代表的な基礎疾患の一つ。さらに気をつけるべきポイントは、「新型インフルエンザのウイルスが高血糖を引き起こす」ということ。
 「インフルエンザ感染のような高熱が出る、身体の防御機能がアクティブに活動しなければならない外からのストレスは、血糖値を上げる方向へ働く」(小田原先生)ため、外部からのウイルス侵入が血糖値を異常に上げてしまう可能性があるというのです。
 そのため、普段から血糖値が高めで予備軍だった人が、感染をきっかけに糖尿病を発症する可能性もあるのです。
 さらに気をつけなければならないのが、糖尿病と診断され、インスリンを打っている糖尿病の型には、陥りやすい落とし穴があります。
(2)インスリン注射をする糖尿病患者が陥りやすい落とし穴(想定ケース)
 3年ほど前から糖尿病を患っているAさんは、毎食前インスリンを注射することで、血糖値を正常に保つようにしてきました。しかし、ある日、発熱、下痢、吐き気などの症状に襲われ、会社を休み、一日家で寝ることに。食欲がなく飴だけを口にして、食前のインスリン注射をやめてしまいました。食事もしないでインスリンを打ったら、低血糖になってしまうのではないか、と考えたのです。
 翌日も熱が下がらないため、もう一日、会社を休むことにしたAさん。食事は朝にリンゴジュースを飲んだぐらい。すると、その夜、激しい咳とともに熱が一気に上がり、意識がもうろうとする状態に陥ってしまいました。病院へ運ばれたAさんは、新型インフルエンザだったことが判明。血液検査の結果、なんと血糖値が正常値をはるかに上回っていたのです。
 この高血糖こそが、意識をもうろうとさせたもう一つの原因。新型インフルエンザなどのウイルスが体内に入ると、血糖をコントロールするインスリンの働きが抑えられてしまいます。健康な人なら、ここでインスリンの分泌が増え、血糖値を調節。ところが、Aさんのような糖尿病患者の場合、インスリンを体内で補うことができず、さらに注射で補充することもやめてしまったため、血液中に糖分が大量に溜まり続けました。さらに、風邪のときにとりたくなる飴、果物ジュースなどは、糖分が多く血糖値を上げる原因に。こうして、どんどん上がる一方となった血糖値。ついには脳が糖分不足に陥り、最悪の場合、こん睡状態に陥ってしまうこともあるのです。
(3)糖尿病の人が新型インフルエンザの疑いを持ったら?
 小田原先生は「発熱相談センターに電話をして相談する事が重要」と言います。新型インフルエンザが疑われる場合、まずはその治療を始めることが最優先。
 同時に大切なのが、血糖値の測定。普段と大きく違うようなら主治医へ連絡し、インスリンについての指示を仰いでください。測定器を持っていない場合は、発熱外来を受診、そこでインスリンのことを相談し、血糖値を計測してもらいましょう。
 多くの患者さんが心配するのは抗インフルエンザウイルス薬とインスリン注射の併用ですが、小田原先生は「問題ありません。インスリンは基本的に自分で出しているホルモン。足りない分を注射で補充しているだけなので、基本的には他の薬との相互作用はないと考えていい」と言います。特に血糖のコントロールが難しい患者さんは、感染すると重症化する恐れもあるため、速やかに薬による治療を受けることが大切なのです。
専門医が教える新型インフルエンザ対策(2)
「薬剤科」(専門医/虎の門病院薬剤部長 林昌洋先生)
抗インフルエンザウイルス薬はどんな薬と一緒に飲んでも大丈夫!
 何らかの基礎疾患を持つ患者さんが心配するのは、普段自分の飲んでいる薬と抗インフルエンザウイルス薬との飲み合わせについての不安。しかし林先生は、「抗インフルエンザウイルス薬はどんな薬と一緒に飲んでも、そう大きな問題はない」と言います。
 先生の見解によると、高血圧や糖尿病などの持病があり色々な薬を使われている方が、タミフルなどを使っても問題ありません。薬の飲み合わせによる副作用もまずないので、途中でインフルエンザの症状が軽くなっても、薬を飲みやめずに、5日間飲むことが大切です。
専門医が教える新型インフルエンザ対策(3)
「循環器内科」(葉山ハートセンター不整脈センター長 佐竹修太郎先生)
新型インフルエンザの感染で脳梗塞・心筋梗塞のリスクが高まる
 生活習慣病を持つ人に対して、佐竹先生は次のように注意を促します。「動脈硬化や不整脈がある方は、発汗によって脱水状態になると、血栓が出来やすくなり、脳梗塞や心筋梗塞を起こすことがあるので、十分に水分を摂る事が大切です」。
 発汗によって脱水状態になっている時、動脈硬化がある人の血管内は、水分が少なくドロドロの状態。まめに水分を補給しておくことが大切なのです。
専門医が教える新型インフルエンザ対策(4)
「感染症科」(新潟大学大学院国際感染症学教授 鈴木宏先生)
(1)「高齢者は発症しないって本当ですか?」
 米国疾病計画センターの発表によると、60歳以上の高齢者の一部の人がウイルスに対する抗体を持っている可能性があるので、新型インフルエンザにかかっても発症しにくいということがわかっています。
 ただし高齢者がもし発症した場合、重症化する可能性があります。重症かどうかの目安の一つに「呼吸数」があります。その目安は、5歳以上の場合は1分間の呼吸数が30回以上、1歳から5歳未満は40回以上、1歳未満は50回以上なら注意が必要。肺に炎症が広がり、重症化している可能性があるのです。
(2)「部屋の湿度を保っていれば、ウイルスは抑えられるって本当ですか?」
 空気中の水分が多いと、ウイルスの感染する力は弱まるので、部屋の湿度が高いとウイルスの感染力は低下します。しかし、より大事なのは、部屋の中のウイルスの数を減らすこと。こまめに換気をすることが大切です。
(3)「この秋もう一度大流行するって本当ですか?」
 高温多湿に弱いインフルエンザウイルスは、梅雨や夏の時期には感染力が弱まります。しかし、秋になり、空気が乾燥してくると、再び猛威を振るう、可能性があるのです。しかし先生によると、もしかしたらこのままウイルスが消えてしまうという説もあるようです。
(4)「ウイルスが強毒性に変異するって本当ですか?」
 インフルエンザウイルスは、非常に変異しやすい性質を持っていますが、現段階ではまだどうなるかわからないというのが実態です。
専門医が教える新型インフルエンザ対策(5)
「小児科」(日本大学医学部附属板橋病院小児科 鮎沢衛先生)
(1)重要!年齢別 子供の薬の飲ませ方
 成人に対して、一般に勧められている抗インフルエンザウイルス薬が、子供の年齢によっては注意を払わなければ、副作用を起こすということがあります。よって、よく先生と相談して投与を決めることをお勧めします。
(2)1才未満の赤ちゃんへの対処法は?
 1歳未満の赤ちゃんには、なるべく薬を投与せず、対症療法を行なうことが原則。熱が出始めた段階では、しばらく様子を見ます。この時、寒気が強く出て、震えていることが多いため、手足をさすり、靴下をはかせて温めてあげましょう。そして、熱が上がり、暑がり始めたときは、冷やしてあげるのが大事。
 冷やす場所は、額、首、脇の下、太ももの付け根など太い動脈が通っている所が効果的です。太い動脈を冷やすことで効率よく全身の熱を下げることができるのです。
 そして、最も気をつけなければいけないのが、水分の補給。大人は体重の6割が水分と言われていますが、乳児は体重の7割から8割が水分です。そのため、わずかでも水分が失われると脱水症状を引き起こすため、こまめな水分補給が何よりも大切なのです。小さい氷のかけらやシャーベット、アイスクリームなどで水分補給をしましょう。
(3)1歳以上の子供への対処法は?
 1歳以上の場合、抗インフルエンザウイルス薬での治療が可能。しかし、副作用の恐れもあるため、症状に応じて医師と相談の上、どの薬を使うか決めていくことになります。
 そして、子供を新型のウイルスから守るために気をつけるべきことは、親が感染源にならないこと。外から帰ってくるなり、子供に接触するのは感染の危険性大。特に脂ぎっている人は要注意。ウイルスは湿っている箇所に付着するため、いきなりの頬ずりは厳禁です。
 十分な手洗い、うがい、それからできれば着替えなどもしてから接触しましょう。小さい子供の場合、インフルエンザ脳症や、脳炎などを引き起こし、最悪の場合、死に至るケースもあります。親が予防に努め、かかった場合は早期の手当てをしてあげることが大切なのです。
専門医が教える新型インフルエンザ対策(6)
「消化器内科」(武本ホーム・ドクター・クリニック院長 武本憲重先生)
患者の汚れ物で感染する可能性がある
 インフルエンザで消化器症状がある方は、吐物や排せつ物の中にウイルスが含まれている可能性があります。吐物等で汚れた衣服は早く洗う、トイレや部屋の換気をよくするということだけでかなり感染を防御できます。
 ウイルスは水に弱いため、洗い方は、通常の洗濯と同じで問題ありません。今回は排せつ物からの感染報告はないものの、今後見つかる可能性もあるため、注意が必要です。
専門医が教える新型インフルエンザ対策(7)
「リウマチ・膠原病科」(聖マリアンナ医科大学内科学教授 尾崎承一先生)
(1)膠原病の薬は新型インフルエンザを重症化させる恐れがある
 「膠原病」とは、自己免疫システムが異常をきたし、自分の体を攻撃してしまう病気。膠原病の治療をされている方は、インフルエンザなどの感染症にかかりやすく、重症化しやすいため、特に気をつけなければいけない病気の一つです。
 また、膠原病の薬を飲んでいる患者さんは、免疫が抑制されている可能性があります。ですから、インフルエンザにかかると症状が重症化したり、長引いたりする恐れがあるので注意が必要です。
(2)膠原病患者が新型インフルエンザに感染した(想定ケース)
 3年前に膠原病の一種、関節リウマチを発症し、薬による治療を続けてきた患者Bさん。関節リウマチは、膠原病の中でも最も多く、日本の患者数は、現在およそ70万人いると言われています。ウイルスなどの攻撃から体を守るはずの免疫が、自らの関節を攻撃、炎症を起こし激痛に見舞われる関節リウマチ。その痛みなどの症状を和らげるためにBさんは毎日欠かさず薬を飲み、痛みは落ち着いていました。
 しかしある雨の日、薬をちゃんと飲んでいるのに、関節が痛むようになったBさん。天気が回復しても、痛みは一向に良くならず、37度の微熱も。まだ熱も低いし風邪薬を飲めば大丈夫だろうと思ったBさんは、関節の痛みを和らげるのが先決と、リウマチの薬も一緒に飲んでおきました。
 その翌朝、全身を覆ってきたのは、のしかかるような重い倦怠感と関節の痛み。いくら薬を飲んでも具合は良くならず、それどころか、どんどん悪化していってしまったのです。やむなく病院を訪ね、検査を受けたところ、新型インフルエンザだった事が判明したBさん。話を聞いた医師は、「それでは治りにくいはず・・・」と告げました。
(3)なぜBさんの新型インフルエンザは治らなかったのか?
 実は関節リウマチの痛みを和らげるために、Bさんが飲んでいた薬は、自らの免疫力を下げる「免疫抑制剤」。免疫抑制剤によって免疫力を下げることが、症状の緩和につながりますが、同時に、インフルエンザなどのウイルスは侵入しやすくなってしまいます。さらに、感染後も免疫抑制剤を飲み続けたことによって、体内ではウイルスが猛威をふるい、症状をますます悪化させてしまいました。関節リウマチだけでなく、膠原病の患者さんの多くが、同様の薬を飲んでいることが多いため、注意が必要なのです。
(4)膠原病患者の方が、新型インフルエンザの感染を疑われたら?
 まず主治医に相談することが大切。同時に発熱相談センターなどに連絡し、しかるべき治療を受けましょう。
 さらに先生は、患者でない方も、新型インフルエンザなどの感染症をきっかけに、膠原病を発症することがあると注意を促します。なぜなら、膠原病は発症しやすい体質を持った人に、感染などがミックスされて発症するといわれています。ですから、インフルエンザにかかって、1〜2週間たっても良くならない、そればかりか熱が続く、節々が痛い、身体中に発疹が出る等の膠原病特有の症状が続いたら、ひょっとしたら膠原病の発症かもしれないと疑うべきです。
 新型インフルエンザの感染をきっかけに、発熱、関節の痛み、腫れ、発疹など膠原病に特徴的な症状が続いたら、一度専門医に相談することが大切です。
専門医が教える新型インフルエンザ対策(8)
「産婦人科」(獨協医科大学産科婦人科 望月善子先生)
(1)妊婦さんこそ、早めに抗インフルエンザウイルス薬を飲みましょう
 抗インフルエンザウイルス薬のような効き目の強い薬を飲んで、赤ちゃんは大丈夫か、と心配する妊婦さんも多いはず。実際これまでは、診療科によって医師の対応もまちまちでした。
 そんな中、今回の新型インフルエンザの流行を受け、日本産婦人科医会から、「妊婦・授乳婦にもタミフル・リレンザの積極的な使用を勧める」という通達が出されたのです。薬を飲まないで放置すると、母子ともに重篤化する可能性がありますので、インフルエンザにかかった場合は、抗インフルエンザ薬を使用することが大切です。
(2)授乳中のお母さんが感染した場合は?
 母乳自体からの感染の可能性は現在のところ知られておらず、抗インフルエンザウイルス薬を飲んでいて授乳しても大丈夫です。まず大切なのは母体を守ること、感染が疑われる場合は、速やかに治療を始めることが必要です。
専門医が教える新型インフルエンザ対策(9)
「アレルギー科」(国立病院機構相模原病院外来部長 谷口正実先生)
(1)喘息(ぜんそく)患者が新型インフルエンザに感染すると、重症化する恐れがある
 インフルエンザのウイルスは気管支に付着して感染をおこすため、もともと気管支に炎症があり、肺に疾患のある喘息の方は、より症状を悪化しやすいので特に気をつけなければなりません。
 そもそも「気管支喘息」とは、空気の通り道である気管支がアレルギーなどによって炎症をおこし、気道が狭くなることで、呼吸が苦しくなる病気。重症化すると呼吸困難から死に至ることも。
 800万人いると言われる患者のおよそ20%が、薬を飲むとアレルギー反応が強くなると考えられています。そのため、患者の多くが新型インフルエンザへの対応を誤り、薬による喘息発作をおそれ、抗インフルエンザウイルス薬を避ける傾向にあるのです。しかし・・・
(2)新型インフルエンザの治療は、スピードが何よりも大切!
 薬の副作用を恐れるばかりに使用を踏みとどまり、使用開始が遅れるほうが問題です。新型インフルエンザの治療は、スピードが大切。アレルギーを過度に恐れることで治療が遅れると、喘息が悪化し、ひいては肺炎を引き起こす危険性も。速やかに医師の診察を受け、治療を始めることが大切なのです。
専門医が教える新型インフルエンザ対策(10)
「脳神経外科」(獨協医科大学神経内科教授 平田幸一先生)
ズキズキするような頭痛は新型インフルエンザ早期発見のサイン!
 新型インフルエンザは、咳や発熱、関節の痛みなどが典型的な症状ですが、「頭痛」も実はインフルエンザにとって重要な症状の1つです。特にズキズキする、脈に合わせた拍動性の痛みがある頭痛と、それに発熱を伴っているようなことがわかれば、やはり新型インフルエンザの感染を考えた対処をするべきです。
 頭痛の特徴を知っておくことが、新型インフルエンザの早期発見にもつながるのです。