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2011年10月30日(前編)・11月6日(後編)放送

冬が怖い家

この物件が抱える問題

  • ■亡くなった祖父の跡を継ぎ醤油屋の4代目になったが、醤油の製造販売だけでの生活は難しく、ご主人が勤めに出ているため、子ども二人を抱えながら奥さんが一人で全ての作業をこなしている
  • ■積雪量が多い地域で、雪の重みで屋根が歪んでおり、瓦も波打っている
  • ■冬の雪の重みに耐えられるよう、老朽化した梁を補強するために設置したつっかい棒があちこちに見られる
  • ■家の背にある山で溜まった水が、地下を通って流れ込み、床下から滲み出てぬかるむ。応急処置として砂利を敷いて滑らないようにしている
  • ■ガラス戸が無く、外と障子一枚隔てているだけの部屋もあり、冬の冷えこみが厳しい。少しでも寒さを和らげるため、エア・クッションのシートを貼りつけている
  • ■床と室内との段差が高く、幼い子どもが転げ落ちたことがある
  • ■2階への階段は急勾配で、手摺りも無い
  • ■2階の部屋は40年近く使用しておらず、廃墟同然
  • ■2階の床板が薄く、且つ老朽化のため、穴が開いている箇所や、踏みぬいてしまうような箇所が幾つもあり、非常に危険
  • 写真:サムネイル
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この問題を抱えた物件に、立ち上がった「匠」とその技

写真:「匠」の顔写真

動線の旅人 関谷昌人

奥様の家業を引き継ぐ決意を感じた。その思いに応えられるよう、設計の考えがいがある。やはり子育て・地域の方とのコミュニケーション・お店の運営、それらの中心に奥様はいるわけですから、全体への目配せができる空間造りが必要。とても面白くなりそうな仕事です。

現場検証 問題解決のために必要なリフォームは…?

大小様々なタル

画像:冬が怖い家

リフォーム前の荷物の運び出し。
2階の作業では、老朽化の激しい穴だらけの床板をいつ踏み抜くかわからないため、みんな気が気ではありません。冷や汗をかく場面もあり、慎重に作業が続きます。

画像:冬が怖い家

大豆などを発酵させるための室(むろ)の中から「匠」が運びだしていたのは、大小様々な樽。全部で70個近くありました。それは、昔醤油を納品するために使われていたもの。保温性があり、杉の香りが心地よい樽ですが、作るのが大変で、今では職人さんも随分減ってしまったと「匠」も少し寂しそう…

画像:冬が怖い家

屋内から家財道具や建具を運び出しましたが、1つだけ残っているものがありました。それは、醸造所の奥で、長い間眠っていた醤油蔵ならではの遺産。先代のおじいちゃんの時代まで使われていたという、直径2mもある巨大な樽。発酵させた大豆などから醤油を搾った後のもろみを入れておくためのものでした。人力だけで担ぎ上げて運ぼうとしましたが、ビクともしません。

画像:冬が怖い家

そこで「匠」は、この巨大な樽に一旦シートを被せると、室の外壁を壊し、柱を一本外して間口を広げました。そして、地面に並行に2本の板の道を作り、鉄パイプを並べて、その上に樽を置くと…滑るように動き出しました!なんとも原始的な方法ながらも、軌道修正を繰り返しながら家の外へと運び出し、樽の脱出は無事成功。

画像:冬が怖い家

ここからようやく本格的な解体が始まりました。醤油醸造の作業場にある、腰ほどの高さの土壁を壊すと、中から巨大な樽が3つ姿を現しました。長い間使われていなかった樽は傷んでしまっており、再びその役目を果たすことはできそうにありません。締め付けていた竹を外すと、いとも簡単にバラバラに。おじいちゃんの思い出と家の歴史が染み込んだ樽が分解されていく様に、4代目である奥さんは駆け寄らずにいられませんでした。

溢れ出す水

画像:冬が怖い家

かつて樽を埋め込むのに地面より1.2m掘り下げられた四角い穴の底で、思案に暮れる「匠」の姿がありました。そこにはどこからか染み出したのか、水が溜まっていました。水漏れ箇所と思われる部分をドリルで掘ると、止めどなく水が流れでてきました。裏山から流れ、家の床下に溜まっていた水が溢れでているようです。

画像:冬が怖い家

開けた穴は、急結止水モルタルという数十秒で固まる速乾性のモルタルで塞ぎました。壁面も別のモルタルで防水。そうして綺麗になった壁面ですが、何故かドリルで穴を開け、透明のチューブをその穴の奥深くに差し込んでいきます。90cm間隔で差し込まれたチューブは全部で33本。

画像:冬が怖い家

そのチューブの1本に特殊な溶液を流し込むと…なんと別のチューブからぶくぶくと水が上がってきました。さらに注入を進めると、次第に勢いを増し、噴水のように吹き出し始めました。流し込んだのは親水性のウレタン。水が居た場所にウレタンが染み込み、硬化すると、行き場を失った水が外に出てきたのです。こうして地中の水を外へと吐き出した後、チューブは引き抜き、モルタルで穴を埋めます。大きな難題が一つ解決されました。

全ての問題を解決したそのビフォーアフターをご覧ください!!

赤いカメラをクリックするとビフォーアフターの変化をご覧いただけます

家族の幸せを願った「匠」からのアイデア

奥さん待望のカフェスペース
通り土間の壁に新たに作られたギャラリーコーナー。昔の樽や、かつての屋号が書かれた看板、古い商品のラベル、表彰状といった、老舗の歴史を感じさせてくれる品々。

そんな歴史ある醤油製造の場であった、広い作業場に生まれたのが、奥さんが待ち望んでいたカフェスペース。

玄関脇には、解体した樽の板を使って作られた犬矢来をイメージした「匠」オリジナルの商品棚と、室(むろ)から大量に出てきた小さな樽を再利用したディスプレイ台を設置。その間を抜けると、目に飛び込むのは中央に鎮座する巨大なもろみ樽。その周りを、お客様を迎えるカウンターテーブルがぐるりと囲みます。

店の象徴となったその巨大な樽は、内側をストックルームとして活用。調湿作用のある杉で作られているので、食品庫として最適です。

カウンターから外を望むと、もうひとつ目に付く樽が。それは醤油樽をかたどった個室風の客席。店の外まではみ出す、印象的なデザインに仕上げられています。この樽は、店舗を広くするために外した柱の代わりに構造体としての役割も持っています。そんな樽の中にある、通路を挟んで向かい合う半円のテーブルは、隙間をつないで8人掛けの円卓にすることも可能です。

かつて3つの大きな醤油樽が埋まっていた場所には、小上がりが作られました。その下にはなんとキッズスペースが!

奥さんのママ友達が子連れで集まったときに、子ども達に楽しんでもらえるスペースで、店内からも子ども達の姿が見え安心です。天井部分が小上がりのため、天井高は子どもには十分な140cmを確保。秘密基地のような楽しい遊び場ができました。

キッズスペースのすぐそばに客席用のトイレも設置。至れり尽くせりです。
画像: 匠のアイデア
負担を極力減らした作業場
カフェの客席からガラス越しに見えるのは、新しい醤油の醸造スペース。そこには、今まで苦労していた要素を無くし、できるだけ楽に作業できるようにと「匠」の配慮した箇所が数多く見られます。

かつての作業場の床は段差だらけで、不便な上、危険も伴いましたが、リフォームで床はフラットになり、台車が使えるようになりました。

かなり辛い力仕事だった瓶洗い。瓶を水につけておく場所は地面と同じ高さだったため、その上げ下げだけでも、腰には大きな負担がかかりました。それを、腰を曲げずに作業できる最適な高さで設置。さらに空き瓶のストック棚をすぐ隣に完備して、仕事がスムーズに運ぶようにしました。

さらに、瓶詰めするまでの作業の流れも改良。大きなタンクで調味された醤油を濾過しながら小さなタンクへ。そのタンクは油圧式の昇降機で簡単に上げ下げでき、楽な高さで使えます。

ちなみにタンクの醤油を瓶に流しこむ瓶詰め機は、先代のおじいちゃんが使っていたもの。壊れたままになっていたため、修理して再利用しました。

今も現役の樽の横には、ステップを新設。長時間の混ぜる作業も、ずいぶん負担が軽くなるはずです。

醸造スペースの奥には、瓶詰めした出荷前の醤油を保管しておく広い収納庫が。淡い明りが灯るその中は、ワインセラーならぬ、お洒落な醤油セラー。その一升瓶が並ぶ収納庫の壁は、味わいのある土壁。ここにも、「匠」のこだわりがありました。

実は、かつてこのスペースは、土壁で囲われた室(むろ)のあった場所。室を解体した際に、「匠」は調湿効果のある優れた素材の土壁を保存していました。それにつなぎになる麻の繊維や壁材と混ぜて使い、調湿効果はもとより、防火性や耐火性、防カビ効果のある低コストの土壁として再利用したのです。
画像: 匠のアイデア
温かい部屋
床や窓のすきま風に凍え、冬がやってくるのを恐れていた、かつての生活空間とはうってかわり、天井を吹き抜けにし、明るい光に溢れた広いワンルームが誕生しました。

かつての梁や柱を極力残しながら、若い夫婦にぴったりのモダンな空間が広がる、およそ26帖もあるリビングダイニングは、大勢の友達がよく遊びに来る奥さんにはうれしい広さ。

床には蓄熱式の暖房が入っているので、もう寒さに震えることもありません。

料理好きの奥さんの、たっての希望だった対面式のアイランドキッチンでは、一層美味しい料理がどんどん生まれることでしょう。シンク下のオープン棚と壁側の食器棚で、収納力も十分。子供たちと一緒にお菓子作りが出来る作業台もあります。

キッチン近くの和室は、立派な梁はそのままに、畳を新しく張り替え客間として生まれ変わりました。店舗へも通じるこの部屋は、団体のお客さん用の個室として使うこともできます。

キッチン脇にある扉の向こう、広々とした水まわり。
温かで快適なお風呂には、中庭を眺めながらゆったりとお湯に浸かれる浴槽が。子供達と入っても十分な広さです。

浴室の向かい側、脱衣所を兼ねたおよそ3帖分もある洗面スペースから外に出ると、すのこ敷のシャワースペースが。家から海が近く、夏に海水浴を楽しんだ後は、このシャワーで砂を落としてから家の中に入れるようにしました。
画像: 匠のアイデア
ゆったりとした2階
かつて、しがみつくように上っていた梯子のような急勾配の階段は、緩やかで安全なものに変わりました。

その階段に導かれるのは、しっかりと補強が施され、漆喰の壁や柱はきれいに化粧直しし、天井を取り払って立派な小屋組みが印象深い、生活スペースに大変身した2階。廃墟同然だったかつての印象はもはやどこにもありません。

2階の窓から下のリビングに明るい陽射しを降り注ぐ吹き抜け。廊下を挟んでその反対側には、10帖半の夫婦の寝室が用意されました。ドレッサーやテレビ台を作り付け、ベッドの奥には収納力抜群の、特大のウォークインクローゼットが。

階段の隣には、大きなバルコニーを持つ、明るい洗面スペースを設置。家族4人が一緒に立っても余裕の広さ。2階に作られたトイレもここです。バルコニーは日当りがよく、洗濯物を干すにも最適。天気の悪い日の物干しスペースとしても、十分な広さです。

木の格子で囲まれた長い廊下を抜けると、西側にあるのが、子供部屋。この部屋は、2人の子供の成長に応じて、将来間仕切ることが可能です。その屋根には、明るい陽射しを部屋に取り込む、ガラス瓦の天窓も取り付けらました。
画像: 匠のアイデア
今回お手伝いいただいた工務店の皆さん
写真:工務店の皆さん
京都市左京区 株式会社 アムザ工務店
京都府舞鶴市 西舞建設 株式会社
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