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田口ナツミさん 「透過刺繍」 奈良県 大和郡山市

202553日(土) 午前11時

独自の技法「透過刺繍」の女性作家

田口ナツミさん 「透過刺繍」 奈良県 大和郡山市

糸で布に模様を描く刺繍。しかし、もしもあるはずの布がなかったら?まるで糸だけが浮かんでいるような不思議な作品に、今、注目が集まっています。唯一無二の技法「透過刺繡」を編み出したのは、刺繍作家の田口ナツミさん。美大に進むも挫折。長らく作品を生み出せずにいた彼女を救ったのは、僻地医療を担う夫と共に移住した、山深い村でした。

奈良県大和郡山市。古い町割や水路が残る町に、田口ナツミさんの自宅兼アトリエがあります。ナツミさんの刺繍はまずスケッチをし、それをもとに布へ刺繍したあと、そのまま水の中へ。すると…布が水に溶けるのです。そうして残った糸だけの刺繍。それが透過刺繡です。布がないので表裏がなく、どの角度から見ても楽しめます。

作品のモチーフは身近な植物や動物たち。大和郡山市に引っ越してからは地元の名物、金魚の作品が増えました。「金魚ストリート」と呼ばれる商店街を、二人のお子さんと一緒にお散歩しながら観察します。夫は単身赴任中。春休みの子供たちに目を配りつつ、作品作りに励んでいます。

田口ナツミさんは1991年生まれの奈良育ち。絵を描くのが大好きな子供だったといいます。美大に進学するも、作品を生み出せないスランプに陥り、大学卒業後に看護師の資格を取得。僻地医療の勉強会で夫と出会い、結婚。2019年から2年間、下北山村で生活したことが大きな転機となりました。

奈良県の最南部に位置する下北山村の人口は約700人。村で唯一の診療所に赴任している夫の元へ、子供たちを連れてやってきたナツミさん。初めての育児で悩んでいたとき、村のママ友のおかげで乗り切れたんだとか。そして3月31日、夫の田口先生の任期は終わりを迎え、6年間に渡って関わってきた村の診療所を離れます。人の温かさに心を満たされ、透過刺繡が生まれた下北山村。感謝と共に村を後にします。

4月。新生活もはじまり、ナツミさんは新たな作品を考えていました。いつもより大きな枠を使って生み出すのは、牧場でスケッチした羊の「左耳黒蔵くん」。さて、どんな透過刺繡になったのでしょうか。

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透過刺繍作家 田口ナツミさん
概要独自の技法「透過刺繍」を考案した刺繍作家。溶ける布を用いてできた糸だけの刺繍は「浮かぶ絵画」のようだと話題。
備考X
https://x.com/NatsuTagu

インスタグラム
https://www.instagram.com/na.canada/
トンガ坂文庫
概要三重県尾鷲市の漁村・九鬼町の小さな路地「トンガ坂」にある、新本・古本を扱う本屋さん。
住所三重県尾鷲市九鬼町121
営業時間11:00~17:00
定休日平日
ひつじみかん牧場
概要三重県南部の御浜町にある羊牧場。餌やり体験などかわいい羊たちと間近で触れ合える。
住所三重県南牟婁郡御浜町志原889
営業時間10:00~15:30
定休日平日、雨天時
備考【入場料】
大人 200円(中学生以上)子ども 100円(1歳から小学生)

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浅田晶久さん 『浅田製瓦工場』 京都市伏見区

2025524日(土) 午前11時

最後の京瓦職人

浅田晶久さん 『浅田製瓦工場』 京都市伏見区

京都市伏見区。この地で110年以上、瓦を作り続けている『浅田製瓦工場』。現在、京都でただ一人、「京瓦」を製造しているのが、三代目の浅田晶久さん。「京瓦」の神髄は「磨き」と呼ばれる技法。金属のヘラで丁寧に磨き上げ、重厚な光沢と深い鈍色の風合いを持たせる伝統の技術です。浅田さんの手掛けた瓦は、歴史ある寺社や建物の屋根を飾っています。

そんな「京瓦」も、時代と共に需要が激減。かつて京都に十数軒あった瓦工場は、今やここだけ。後継者もおらず、厳しい状況が続いています。「それでも後に残していかなあかん」。伝統を次の世代へ繋げたい。喜寿を目前にしても、休むことなく「京瓦」の可能性と未来への道を追求する浅田さん。しかし今、ある大きな決断を迫られていました。

先月、開幕した大阪・関西万博。「関西パビリオン」の中の京都ゾーンの床と壁を覆う素材として使われたのが「京瓦」です。瓦製作を監修したのが、浅田さん。オファーしたのは、空間デザインを担当した彫刻家の名和晃平さんです。「京瓦のおかげで、ここは静謐な空間になりました」。

浅田さん、屋根がダメなら床や壁にと、京瓦の未来のために、新たな可能性に挑みます。「これ、アインシュタイン・タイルといって、床に敷く」。不思議な形の13角形。早速、デザイン会社から発注がありました。その枚数、1840枚。一枚一枚、想いを込めて仕上げていきます。納品するのは東京都内のオフィス。さて、どんな空間になったでしょう。

切なる思いで、京瓦を残す道と、後継者を探し続けてきた浅田さん。しかし経営は厳しく、人材の採用すらままならないのが現実です。そこで昨年12月、大きな決断に踏み切りました。それは114年の歴史を持つ『浅田製瓦工場』の経営権の譲渡。

同じ未来を見据え、経営権の譲渡にむけて共に歩んできたのは、息子の憲和さんです。憲和さんが2年以上かけて探したのが、京都指定伝統工芸品の「事業再生と企画運営」を行う会社でした。しかし新体制に向けての大切なミーティングで、親子は激突します。心の整理がつかない父親の姿勢を見て、憲和さんがぶち切れました。「何が残したいや!全部自分で潰してるやんけ!必死やねんこっちは!」

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