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インタビュー 必殺の仕事人たち

第5回 照明:林利夫

光と影が織り成すコントラストは、『必殺』シリーズの顔である。『必殺』が唯一無二の時代劇であり続けることができるのも、既存の時代劇とは一線を画す照明の力によるところが大きい。まさに『必殺』の要と言うべき仕事だ。シリーズ初期から現在に至るまで、『必殺』の照明を作り続けてきた男・林利夫が、その極意を明かす。

『必殺』流・照明の発想

林利夫

監督もいつも言ってるんですけども、僕らのやり方はあまりリアリティを求めないんです。こういう画を作りたいというイメージがあれば、セオリーは無視する。時代劇は何をしたってええんや、という発想から撮っています。

現代劇なら、見ている人がみんな現代に生きてるから、おかしいと思われるかもしれないけど、時代劇はそうじゃない。見ているときは「おお、すごいな」と思って、後から考えると「あれはちょっとおかしいのと違うか」と思われるなら成功なんですよ。

たとえば、夜のシーンでも、「これが月明かりだ」とか意識して撮ったりはしません。毎日、月明かりがあるわけやないし、暗いときには漆黒の闇もあるでしょう? これは月明かりだって自分に言い聞かせて撮ってもしょうがないですから。見ている人が不自然だと思わない画が撮れれば、それでいいんです。

部屋の灯りだって、行灯の光であれだけ明るくなるわけないですからね。ろうそくの灯りだけのような雰囲気で撮りたいときは抑えて撮りますし、一家団欒で楽しい雰囲気で食事するようなときには明るく撮ります。それはシーンの中身によって意識的に変えていますね。

2009の仕事人について

林利夫

僕は前に『信長の棺』というテレビドラマをやっていたんですが、そのときに信長の役をやったのが松岡昌宏さんでね。撮影の前は「こんな若い人で信長なんかできんのかな」と、不安だったんです。でも、本能寺のシーンで槍を持って立ち回りしたときに、「うわぁ、すごい人やなあ」と驚きました。しかも、本人に聞いたら初めて槍を持ったって言うんですよ。殺陣師のお兄さんもびっくりしてはりましたからね。僕らも監督の後ろで四十年間、いろんな方々の芝居を見てきましたけど、松岡さんの立ち回りを見て「若いのに時代劇ようわかっとるなあ。すごいなあ」と感じましたね。だから、今回の必殺での涼次も楽しみですよ。

僕らの仕事では、役者さんがこちらの意図をどれだけ汲んでくれるかっていうことが一番大事なんですよね。だから、そこは意思の疎通がないとなかなか難しいんです。だけど、今回のレギュラー陣は、お世辞やないけれども、みなさん、あの若さであれだけの演技ができるっていうのは、ほんまにすごいですよ。藤田さんだって初期の頃はそんなにうまくいかなかったんだからね。中村主水というキャラクターだって、「今回はこうしよう」とか「次はああしよう」とか、みんなで考えて、アイデア出しながら、何十本と撮っていく間に少しずつ作り上げられてきたものですから。

必殺シーンの照明

林利夫

『必殺』の大前提は、殺しのシーンですよね。僕らが一番神経を使うところです。小五郎にしたって主水にしたって、殺すのは一撃で終わるわけですから、殺すまでのシチュエーションが一番大事なんですよ。つまり、殺しのイントロの部分です。「さあ、いこうか」となったら、音楽がかかって、屋根の上を走ったり道を歩いたりしますよね。殺しまでの画をどういうふうに作るか、そこでいつも悩むんですよね。時間にしたら1分ぐらいの画ですけど、実際撮影すると6時間くらいかかるんです。

俳優さんも大変やと思いますよ。ここに立ってくれないと光が当たりませんよ、という画作りがたくさんありますからね。影からスッと出てきたら目だけに光が当たるとかね。そういうシーンを作るには、目以外に当たる光をみんな消さなきゃいけないでしょう? その作業も大変なんですよ。目だけ当てるといえば簡単に聞こえますけど、光ってのはいろんなところから漏れてきますからね。その光をひとつひとつ遮って消していくんですよ。だから、立ち回りのときはいつも打ち合わせをして、最後まで流れを決めておきます。そうしないと、途中でどうライティングしていいかわからなくなりますからね。最後まで流れをきっちり作っておいて、それからひとつひとつ撮っていくようにしています。

結局、経験があっても撮影には時間はかかりますよね。だって、毎回同じ手は使えないし、何か変わったことをやりたい。この歳になってもね、やっぱり同じもんは作りたくないんですよ。全部が全部変えられるわけではないですけど、どこか一箇所でも今までとは違う何かを取り入れたい。見ている人がどこまで気がついてくれるか、それはわからないですけどね、逆に楽しみでもあります。そういうことを重ねていかんと、やっててもつまらんでしょ? せっかくこうしてね、また十何年ぶりに復活できたんやからね、いいもんを残したい。今の人に少しでも役に立てば、という気持ちはありますよね。(了)