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インタビュー 必殺の仕事人たち

第18回 中村主水:藤田まこと(前編)

『必殺』の歴史における一番の功労者といえば、藤田まことをおいて他にはいない。『必殺仕置人』以来、長年にわたって中村主水として『必殺』を支え続け、現場スタッフからは“お父さん”と呼ばれて慕われてきた。『必殺仕事人2009』の撮影前には手術を受けたものの、退院後にはリハビリを積極的にこなして撮影に臨み、健在ぶりを見せつけた。その迫力は、まさに仕事人の中の仕事人。“ミスター必殺”藤田まことが『必殺』の真髄を語る。

撮影に向けた『必殺』療法

藤田まこと

去年の9月に退院してから撮影に入るまでの約一ヶ月半の間、『必殺』に間に合わせるための体作りをしました。退院してすぐは、10歩くらいしか歩けなかったんです。それが15歩になり、20歩になり、30歩になり、50歩になり、外へ出て1キロ歩けるようになり、徐々に回復していきました。

現在も、撮影のない日は、毎日いろいろとトレーニングをしています。トレーニングには3種類ありまして、まず、ちゃんとしゃべれるか、顔の表情で怒ったり泣いたりできるか、リズムにあわせて歌うことができるかをトレーニングする言語療法。次に、下半身を鍛える理学療法。そして、全身を鍛える作業療法です。この三つのトレーニングを、午前中に一科目、午後に二科目、毎日それぞれ一時間ずつこなしています。

『必殺』の現場話

藤田まこと

石原(興)監督とは、本当に長いですね。シーンのカット割りくらいは、大体読めますから。監督も、中村主水がどこでどういう芝居をするかっていうのはぜんぶわかってるわけです。ですから、私を撮っててもあんまり面白くないわけですよ(笑)。若い監督たちもいいですね。みんな、この撮影所で苦労してきた連中ばっかりだからね。『必殺』を見ながら、汗かいて力いっぱい仕事しながら育ってきたんですよ。

やっぱり、この現場には独特の雰囲気がありますからね。昔は、今の雰囲気プラス時間と余裕がありましたよね。余裕というのは、予算のことですが(笑)。だけど、苦しい中でも、本当にめいっぱいやってるのはこの現場しかありませんよ。それが良いところですよね。「いくら赤字出しても、時間かけてもいいんだよ。今年は松竹は『おくりびと』でもうけてるから、かまわない」みたいなね(笑)。

かっこよくないのが主水

藤田まこと

このあいだ、若いカメラマンが中村主水のスチールを撮りにいらっしゃったんです。で、「刀抜いて、かっこいいところを見せてくれ」って言うんですね。だけど、それは渡辺小五郎の役目です。中村主水ってのは、かっこよくないんですよ。かっこよくないところが主水なんですからね。そういうところを、若い方にもわかっていただきたいんです。脚本でもそういうところがありますね。主水らしくないセリフがあるときは言い回しを変えることもあります。初めて『必殺』をお書きになる脚本家の方がたくさんいらっしゃいますから、無理もないですよ。

脚本によっては、筋に追われて話をもっていくので精一杯ということもあります。そんなとき、このへんでちょっと一服したほうがいいんじゃないか、そんな場面を作るのも、監督の仕事であり、長い間『必殺』に関わってきた私の仕事でもあるわけです。和久井さんとの芝居は、そんな息抜きのシーンなんですよ。主水がお菊にちょっと甘えてみたり、すねてみたりね。愛嬌のある芝居です。

主水はみんなで作り上げた

藤田まこと

中村主水は、私一人で作り上げたもんじゃありません。昔から、監督もカメラマンも照明技師も、スタッフみんながよってたかって「中村主水はこうしたほうが面白いんじゃないか」と試行錯誤しながら作り上げた一つの人物像ですから、みんなの合作ですね。やっぱり、人間が一人で頭の中で考えても、いいアイデアなんか浮かびませんから、みんなの知恵を借りてふくらませてきたんです。有名作家が書いた時代劇の主人公じゃないんですよ。中村主水には、いろんな血が入ってる。ですから、その血を大事にしないといかんと思いますね。

こないだ、ある友達が携帯電話を出してきて、「中村主水のテーマ、聞かせてやろうか」って(笑)。しかも、殺しじゃないテーマ音楽まであるんです。中村主水が家を出て行くときや帰るとき、遅れて奉行所の門をくぐるときなんかのコミカルな音楽も持ってる。それをちゃんとダウンロードしているわけです。中村主水ってのはそういうふうに大事にされる存在なんですね。(後編に続く)