EarthDreamingロゴ 放送内容
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4月 中島 悠
4月 嵯峨生馬
4月 今関 勝
4月 中溪宏一
5月 山川冬樹
5月 近藤 篤
5月〜
6月
浜崎貴司
6月〜
7月
羽仁カンタ
7月 中溪宏一
7月 嵯峨生馬
7月〜
8月
本多有香
8月 冨田秀実
小西雅子
8月〜
9月
安藤直人
9月 小西雅子
9月〜
10月
鈴木幸一
10月 中野シロウ
10月 山田啓雄
11月 川端由美
11月 浜崎貴司
12月 赤星たみこ
12月 山岸尚之
12月 2006年を振り返って
1月 塩田明彦
1月〜
2月
中溪宏一
2月 つやまあきひこ
2月〜
3月
中島 悠
3月 山岸尚之
3月〜
4月
北澤 肯
3月11日ゲスト: WWFジャパン 気候変動担当オフィサー
山岸尚之さん

山岸尚之5 山岸尚之さんは2006年12月にご出演されています。
  今年2月に国連の『気候変動に関する政府間パネル』が地球温暖化に関する4回目の報告書『Summary for Policy Makers』を発表しました。この中で「地球の平均気温の観測結果から考えて地球が温暖化しているのは疑問の余地がない。今後2100年までの間に最大で、世界の平均海面は59センチ上昇し、平均気温は6.4度上がるだろう」と書かれています。

 手塚「まず『気候変動に関する政府間パネル(IPCC-Intergovernmental Panel on Climate Change)』とはどういうものなのですか?」山岸「1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が合同設立しました。基本的な役割は世界中の気候変動に関する、科学的、技術的、社会経済的な知見を取りまとめて、評価をする機関です。この機関は各国政府に対して具体的な提案、“こうするべきだ。こうしなさい。”と言ったことは行いません。また研究機関でもありません。利用可能な最新の研究成果を集めて総合的、かつ包括的に評価をする機関です。特徴的なのは報告書を作成するプロセスにあります。政府の人も作成の段階で確認します。このようにすると各国政府、いろいろ利害がありますから複雑になる側面もありますが、この報告書に対して政府も参加したということになります。ですから出てくる報告書がより権威のあるものになるわけです」

 手塚「報告書にまとめるには何段階かあるのですか?」山岸「細かいところまで言ってしまうとかなりの数になります。とりあえず背景を説明すると、今回出された報告書は3部作の内の第1部なんです。IPCCには3つの作業部会がありまして、今回出された報告書はそのうちの第1作業部会が出した報告書の、要約なのです。第1作業部会は温暖化に対する化学を担当しています。第2作業部会は温暖化に対する影響を、第3作業部会は温暖化の対策を担当しています。第2作業部会の政策決定者用の要約(Summary for Policy Makers)が発表されるのが、4月の頭ぐらい。第3作業部会の『Summary for Policy Makers』が出てくるのが5月の頭ぐらいです。そしてそれらを統合する、『統合報告書』が作られます。それが発表されるのが11月ぐらいです。これらを全部まとめて『第4次評価報告書』という名前がついています」

 手塚「今回が4回目ということは、これまでに3回報告書が出されたということですね。それぞれの内容は?」山岸「内容は温暖化からずれているわけではありません。1990年に『第1次評価報告書』が出されています。この報告書によって温暖化というものが国際的に取り扱わなければいけない問題だということを定義し、1992年にリオデジャネイロで行われた『地球サミット』で、『京都議定書』の親の条約にあたる『国連気候変動枠組条約』の署名が開始されました。『第2次評価報告書』は1995年に出されました。これは“このままでいくと温度上昇幅がこれぐらいになりますよ”という内容を含んだ報告書です。それを受けて1977年に『京都議定書』が採択されました。『第3次評価報告書』は2001年に出されました。この時は『京都議定書』の細かい部分を決めた『マラケシュ合意』が合意されています。このように国際的な動きをプッシュしてきたと言えます」


山岸尚之6 手塚「今回の報告書はより断定的に“人類が、温暖化に悪影響を及ぼしている”と書かれていますが、これを真正面から捉えて欲しいと思いますね」山岸「そうですね。これから出る第2作業部会の報告を注目して頂きたいですね。それは影響に関する科学的知見なので、どういう影響が出てくるのかという現在の科学の到達点が示されるので、さらにインパクトが大きいと思います」

 手塚「今回発表された『Summary for Policy Makers』で世界の反応はいかがですか?」山岸「すごくメディアでも扱いが大きいですね。私が個人的に面白いと思っているのは、こういう問題は環境専門誌だけが扱う側面がありますが、最近は一般紙でも扱うようになってきました。それが大きいと私は思います」

 手塚「この報告書を受けて企業の反応は?」山岸「フィナンシャルタイムズに“企業の経営学修士号(MBA)のコースの中で、温暖化に関する対策をするビジネスを学ぶところが増えてきている。すでに温暖化対策がビジネスに取って不可欠にものになってきているので、一般的になりつつある”という記事がありました。そこまで浸透しているのかと興味深く思いました」

 手塚「日本はこの『気候変動に関する政府間パネル』にどのようなスタンスで加わっているのですか?」山岸「政府が確認するというところに日本も当然入っていて、確認しています。また実際に報告書の内容を書くメンバーに、日本の研究者も入っています。日本は『地球シュミレーター』を持っていますので、気候変動の分野では決して低くありません。むしろ最先端を行っているところがあります」

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3月18日 ゲスト:山岸尚之さん

山岸尚之7  手塚「アメリカの企業が政府に対して環境問題を考えようと発言されましたが、こういうことはアメリカではよくあることなのですか?」山岸「今回の件は我々もビックリしました。今回のようなことがいつもあるかと言うと我々もちょっと分かりません。ただそれに近い考え方はいろんなときに出てきていて、例えば『炭素税』を入れるべきだという発言がありました。アメリカで『税』というのは非常に嫌われますからそれをいったということは驚きでした。アメリカのビジネスとして先行きが見えないというのが一番恐いんだろうと思います。ブッシュ政権は終わるし、その後どうなるか分からない。ですから分からないぐらいだったら分かることをやる方がビジネスのプランが建てやすいということです。またこれだけ温暖化が世間で認められてきて、何も規制がかからないということは楽観的すぎると思っているのだと思います。ですから何が来るのか分からないのであれば、確実にどういうものが来るのかが分かっている方がいいという立場から、企業はそういうことを言っていると思います」

 手塚「アメリカの一般国民はかなりなんとかしなければと、自分たちで動かそうとしているところが見受けられますね」山岸「そうですね。まだ科学的に温暖化との繋がりが難しところもありますが、カトリーナの影響は大きかったようですね。また『不都合な真実』という映画、アル・ゴアさんがかなりやっていて、ドキュメンタリー映画としては歴代3位だったらしく、インパクトがあったんだと思います」

 手塚「日本経団連は排出削減の義務はどうかなと首を傾げていると、報道されていますが、このことについてはいかがですか?」山岸「日本の温暖化対策の見直しを、今年度決着を付ける予定です。現在までの報告では、新たな政策を入れるのではなくて、今経団連さんが持っている自主行動計画をより拡大して、尚かつ多少深堀してということでお茶を濁そうということなのです。でもそれでは達成出来ないと思っています。京都議定書の目標や温暖化を防止するという目標も。よく反論として受けるのは“排出を部門別に見ると産業部門は90年代から横ばいなので我々はちゃんとやってきている。伸びているのはオフィスビルとか家庭とか車ではないか。その対策を先にやって、我々は現状のままいいのではないか”と言われます。しかし温暖化を防止するためにIPPCの結果を踏まえて、必要な削減のレベルというのは、実はもう膨大な量なんです。どのくらい膨大か、いろいろ議論はあるのですが、単純に言うと京都議定書以上の厳しいことを、議定書の機関以降は絶対にやらなければいけないということは分かっているのです。それを前提にすれば、伸びているところの対策はしなければいけませんが、今のままで満足していては防げないのです。今やっている自主的なレベルを超えてやらなければ防げないという危機感を、我々は持っています。ましてや今、日本全体の排出量は目標する達成出来る方向に入っていないですから」手塚「現状維持ではなく、現状より下げなくてはいけないのですかね」


山岸尚之8 

手塚「山岸さんは今回の『気候変動に関する政府間パネル』が発行した、地球温暖化に関する4回目の報告書『Summary for Policy Makers』にはどういった意義があったとお感じですか?」山岸「今回の意義は、温暖化に関する科学的な論争は、ほぼこれで終焉だと思います。いわゆる懐疑派と言われる人達が言う、“温暖化なんか起きていない”とか、“温暖化は人間が起こしたものではない”と言う議論はどこまでいっても出てくると思います。しかしその議論はある意味必要な部分ではあると思います、科学が発展していくためには。でもこれで科学的な議論はお終いで、これからは科学的な議論よりも行動が求められているということを明らかにした報告書だと思います」

 手塚「WWFジャパンの今後の活動、課題についてお聞かせください」山岸「今年は国内的に見ると日本の国の温暖化対策の見直しをやっていって、京都議定書の約束の期間が始まる前に見直す最後のチャンスなのです。今年新たな政策を導入するということも最後のチャンスになるかもしれない。そういう意味で今年は非常に重要な年です。その年にIPCCの報告書が出されている。それを我々は真摯に受け止めて日本としてどのようなことをしなければいけないか、決めなければいけないと思っています。もう一つ気になるのは先日の施政方針演説で、安倍首相が『21世紀環境立国戦略』というものを6月までに作ると述べられました。それがどういうもになるのか、我々国民としてもしっかり見ていかなければいけないと思っています。その中で温暖化対策について、もっと頑張りましょうとか、曖昧なことしか書いていないとすれば、それは日本としてかなり恥ずかしいものだと思います。この時期に日本が国として採択するような戦略の中で、どのくらい明確に書かれるかというのは、重要な意味を持つと個人的に気になっています」


中島悠さん 北澤 肯さん

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