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『観察映画』に注目

■『嗚呼 満蒙開拓団』、『島の色静かな声』、『妻の貌』、『東洋宮武が覗いた時代』、『キング・コーン』、『クヌート』、『精神』、『南京 引き裂かれた記憶』・・・ある情報誌で調べた映画の題名ですが、実はこれらすべて、いま京阪神の映画館で観ることが出来るドキュメンタリー作品なんです■8月は、原爆の日があり、終戦記念日があり、お盆があり、日本人が戦争と平和について、あるいは生と死について考える月。そのせいもあるのかもしれません。たしかに、第二次大戦と関係のある作品が複数含まれています■しかし、マイケル・ムーア監督の作品が続けてヒットするなどの実績のおかげでしょうか、近年海外の優れたドキュメンタリー作品の配給が増えてきており、ドキュメンタリー映画が注目を集めつつあるのは事実なようです。『静かなブーム』っていうやつですね■映像制作におけるハード面の劇的な進化が、このドキュメンタリー映画ブームに貢献していることは間違いないでしょう。安価で高性能なデジタルビデオカメラの出現が、鮮明かつリアルな映像作品を低予算で制作することを可能にしました。極論するなら、デジタルカメラと編集用のパソコンさえあれば、映画は、少なくともドキュメンタリー映画は一人ででも作れる時代になったのです■そして本当に今、ある日本人が一人で作った作品が海外で賞を獲りまくり、話題になっています。想田和弘監督による、現在公開中の『精神』(2009)、そして前作の『選挙』(2007)です。共に海外で数多くの賞を受賞しています■『精神』の方はまだ観に行く時間がとれず未見なのですが、一昨年何となく気になって観た『選挙』はすごく面白かったです。内容は題名どおりというか・・・ひょんなことから川崎市の市議会議員の補欠選挙に立候補することになった全くの政治素人である一青年が、『電柱にもお辞儀をしろ』といわれながら壮絶なドブ板選挙を戦う姿に密着した作品です■何か大事件が起こるわけでもないのですが、「あーなるほど、選挙ってこんなんなんだ」っていう新鮮な驚きに満ちています。選挙期間中の生活のあまりの過酷さに夫婦喧嘩が起きるわ、次々に有名政治家が応援に訪れ、遂に時の首相までやって来るわ、選挙事務所の古株のオジサンに立候補者本人が「心構えが甘い!」みたいな理由でボロクソに叱られるわ(ここは全編随一の爆笑シーン)・・・■実はこの取材対象の青年「山さん」は想田監督の東大時代の同級生なんだとか。だからこそ実現した究極の密着とも云えるのですが、この映画、そんな僥倖だけで成立している代物ではありません。監督は自分の手法を『観察映画』と名づけています■先入観、予断を極力排し、目の前で起こることをただ『観察』するように映画を作ること■こう書くと、「もともとドキュメンタリーってそういうもんじゃないの?」って思われる方もおられるかもしれませんが、決してそうではありません。監督は一時期、テレビドキュメンタリーの制作現場に身を置き、多くの作品を実際に制作したそうですが、その監督自身の言によれば、《多くのドキュメンタリーは、あらかじめ決められたテーマ、予定された着地点、伝えたいメッセージがある。まず最初に台本や構成表の提出が求められ、その評価によって企画が通るか否か決まる場合も多い。これではつまらない。自分はもっと『発見』のあるドキュメンタリーを作りたい》。・・・そう考えて、彼は『観察映画』を始めたのです■『観察映画』には誰でも一見してわかる大きな特徴があります。①一切テロップが入らない。②一切ナレーションが入らない。③一切音楽が入らない。バラエティ番組の画面が幾重にも字幕で覆われ、ストレートニュースにさえBGMが入る昨今、この手法は新鮮です■対象を決めたらとにかく取材を始める。そうすれば、作者自身が撮影中に、あるいは編集の時に、初めて見えてくるものがある。この『発見の感覚』を、言葉による説明も、音楽による盛り上げも排除して、そのまま観客にも感じてもらうこと。それこそがドキュメンタリーの醍醐味ではないかと。そう想田監督は考えているのでしょう■もちろん『観察映画』にも、『演出』すなわち作者の意図は存在します。何十時間、何百時間回ったビデオテープの中から、どのシーンをどの順番でつなぐか、つまり『編集』は、映像作品作りの上で絶対排除できない演出作業です■そう考えると、演劇などのライブ・パフォーマンスは、舞台上における人間の肉体表現そのものが『編集』されることなくダイレクトに観客に伝わるという意味で、究極のドキュメンタリーといえるのかもしれません(やや強引ですケド)■そして実は!想田監督の次の観察映画の取材対象は、何とその演劇なのだそうです■平田オリザさん率いる劇団『青年団』をもう長いこと観察し続けているのだとか。ご存知のように、青年団自体が、『静かな演劇』と呼ばれる、まるでドキュメンタリーを見ているかのようなリアルな作劇法で一世を風靡した集団ですから、この組み合わせはもう最高レベルに面白そうじゃありませんか!?■うん、早く観たい(艦長)

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